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『鐘哭(しょうこく) ― 山奥に響く死の音 ―』  作者: こうた
第二章「消えた巫女」

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第十六話「鐘になる者」

静寂は、音が消えたのではなかった。


“音が選ばれている”だけだった。


ゴォォ……ン……


低く、遠く、しかし確実に存在する鐘の響き。


平はその場で立ち尽くしていた。


木村は日記を握りしめたまま、視線を鈴音へ向ける。


「代償って……何だ」


鈴音は答えない。


代わりに、鐘の中心を指さした。


そこには“穴”がある。


黒でも白でもない。


空白。



---


そこから声が聞こえる。


坂本。


松原。


森村。


木下。


石井。


植田。


すでに死んだはずの六人の声が、重なっている。


「まだ終わってない」


「まだ足りない」


「七つ目が必要だ」



---


平の呼吸が乱れる。


「ふざけるな……!」


木村が低い声で言う。


「“七つ目”って……」


鈴音が静かに答えた。


「鐘は七つの音で完成する」


「そして八つ目が現れるとき、均衡が崩れる」



---


ゴォォォン……


鐘が鳴る。


今度は空間そのものが揺れない。


代わりに“記憶”が揺れる。


平の中に、見覚えのない映像が流れ込む。


神社。


村。


炎。


そして――


鈴音が鐘の中へ自ら歩いていく姿。



---


「これ……何だ……?」


木村も同じ映像を見ていた。


鈴音が初めて顔を曇らせる。


「それは……あなたたちの記憶じゃない」



---


鐘の中心が脈打つ。


ゴォン……ゴォン……


まるで心臓のように。


そのたびに、空間が少しずつ“過去へ戻っている”。



---


鈴音が言う。


「鐘は壊れない」


「壊れるたびに、誰かが中に入る」


平が反応する。


「じゃあ、今までの死は……」


鈴音は頷く。


「穴を埋めるため」



---


木村が顔を上げる。


「じゃあ今回も……」


鈴音は初めて“平”を見た。


その視線の意味を、平は理解できなかった。


哀れみでもなく、怒りでもなく。


ただ、“確認”。



---


ゴォォォォン!!!


鐘が激しく鳴る。


空間の歪みが一気に強まる。


六人の声が叫ぶ。


「足りない」


「まだ終わらない」


「戻れない」



---


鈴音が静かに一歩前に出る。


「選びなさい」


その声は、今までよりもはっきりしていた。


「鐘になる者を」



---


平が後退する。


「……俺か?」


木村が即座に否定する。


「違う、そんなの選べるわけない!」


しかし鈴音は続ける。


「誰か一人が入らなければ、全員がここに残る」



---


その瞬間だった。


木村の手の中の日記が勝手に開く。


最後のページ。


まだ空白だった場所に文字が浮かぶ。


『鐘は“選ばれた者”によって完成する』



---


鈴音が呟く。


「もう、決まっている」


平が叫ぶ。


「何がだよ!!」



---


ゴォォォン……


鐘の音が止まる。


完全な静寂。


そして――


鈴音が木村を見た。



---


その視線で、平も気づく。


“選ばれているのは自分ではない”



---


木村の顔が青ざめる。


「……俺か」


鈴音は小さく頷いた。



---


鐘の中心が開く。


黒い空白が広がる。


そこから無数の声が重なる。


「来い」


「終わらせろ」


「埋めろ」



---


木村の足が一歩、前に出る。


平が叫ぶ。


「やめろ!!」



---


だが木村は止まらない。


鐘の中へ、ゆっくりと歩いていく。


鈴音が最後に言う。


「あなたが入れば、私は外に出られる」



---


その言葉の意味を理解した瞬間。


平は全てを悟る。


これは救いではない。


入れ替えだ。



---


木村が振り返る。


「平……生きろ」


そして――


鐘の中へ消えた。



---


ゴォォォォン!!!


世界が揺れる。


空間が裂ける。


鈴音の影が薄くなる。



---


平だけが残る。


鐘の外側に。



---


そして最後に。


どこからか聞こえた。


木村の声でも、鈴音の声でもない。


鐘そのものの声。


「次は、お前だ」



---


第二章・第十七話


「外に残された者」へ続く。

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