第十五話「選ばれる音」
鐘の内側は、もはや“場所”ではなかった。
上下も距離も意味を失い、ただ音だけが存在を決めていた。
ゴォォン……
その一音ごとに、空間が薄くなる。
平は壁に相当するはずの“何か”に手をつくが、そこには感触がない。
「……ここ、現実じゃない」
木村は日記を見つめたまま答えない。
ページは勝手にめくれていた。
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鈴音がゆっくり歩く。
その足音だけが、唯一“形”を持っていた。
彼女は鐘の中心へ向かっている。
そこには何もないはずなのに、確かに“核”があるようだった。
「あなたたちは、もう外へ戻れない」
鈴音の声は静かだった。
責めるでもなく、哀れむでもなく。
ただ事実として。
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平が叫ぶ。
「戻れないってどういうことだよ!」
鈴音は振り返らない。
「鐘を聞いた瞬間、境界は壊れた」
「境界……?」
木村が小さく繰り返す。
鈴音は答える。
「生と死の境界」
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ゴォォン……
鐘が鳴る。
今度は“遠くから近づく音”ではない。
内側から“増えていく音”。
一つの音が、無数に分裂していく。
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その時だった。
平の背後に“影”が立つ。
坂本。
松原。
森村。
木下。
石井。
植田。
全員がそこにいる。
だが、肉体ではない。
音の形をした記憶だった。
彼らは一斉に平を見る。
「お前もこっちだ」
声ではなく、鐘の共鳴。
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平が後ずさる。
「やめろ……!」
しかし彼らは近づく。
一歩ごとに、鐘の音が重なる。
ゴォォォン……
ゴォォォン……
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木村が初めて声を荒げる。
「平!こっち来るな!」
「え?」
「“向こう側”に引きずられる!」
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鈴音が小さく呟く。
「選ばれる音が、決まる」
その瞬間。
鐘の中心に“穴”が開いた。
黒ではない。
白でもない。
ただ“聞こえない音”の空間。
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木村の手の中の日記が強く震える。
最後のページに新しい文字が浮かぶ。
『鐘は七つの音で満ちる。』
『八つ目は選ばれない。』
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平が気づく。
「八つ目……?」
鈴音が初めて平を見た。
その目は悲しみだけではなかった。
どこか、安堵にも似ていた。
「あなたはまだ“外側に近い”」
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ゴォォォン!!!
鐘が大きく鳴る。
その瞬間、空間が一気に収束する。
仲間たちの影が平へ押し寄せる。
「来るな!!」
平は叫ぶ。
だが足が動かない。
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木村が叫ぶ。
「平!!日記を見ろ!!」
平は必死に日記を見る。
そこには最後の一行。
『外へ戻る方法は一つ。鐘の記憶を切り離すこと。』
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鈴音が静かに言う。
「切り離すには……代償がいる」
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鐘の音が止まる。
完全な静寂。
そして――
全員が同時に理解する。
この空間から出るには、
誰か一人が“鐘そのもの”にならなければならない。
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第二章・第十六話
「鐘になる者」へ続く。




