↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『鐘哭(しょうこく) ― 山奥に響く死の音 ―』  作者: こうた
第二章「消えた巫女」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/58

第十二話 「白い花の導き」

境内に供えられた一輪の白い花。


山奥の廃神社で、誰が供えたのか。


平は周囲を見回した。


「誰かいるのか!」


返事はない。


木々が風に揺れる音だけが響く。


しかし、木村は本殿の裏をじっと見つめていた。


「……またいる。」


「何が見える?」


「白い着物の女。」


平には見えない。


木村の視線の先には、確かに誰かが立っているようだった。


白い着物。


長い黒髪。


俯いたまま動かない女性。


彼女はゆっくりと振り返り、本殿の裏へ歩き始めた。


「待って!」


木村は後を追う。



---


本殿の裏は、人が通った形跡もないほど草が生い茂っていた。


しかし、その草の中に一本だけ細い道ができている。


まるで誰かが毎日歩いているようだった。


道の先には、小さな石碑があった。


高さは五十センチほど。


苔に覆われ、文字はほとんど読めない。


木村が石碑を手で拭う。


浮かび上がった文字は――


『鈴音』


「すずね……?」


平が首をかしげる。


名前だった。


その下には小さく、


『享年十九』


と刻まれていた。


「巫女の墓なのか……。」


その瞬間。


石碑の前に、一輪の白い花が落ちた。


誰も触れていない。


風も吹いていない。


木村が顔を上げる。


さっきまでいた白い着物の女性は、もう姿を消していた。



---


その日の帰り道。


山を下る途中で、一軒の古びた民家を見つけた。


縁側には、一人の老人が座っている。


二人を見ると、老人の表情が曇った。


「……あの神社へ行ったのか。」


木村は驚いた。


「どうして分かったんですか?」


老人は静かに答える。


「お前さんたちから、鐘の匂いがする。」


平は思わず聞き返した。


「鐘に匂いなんてあるんですか。」


「ある。」


老人は真っすぐ二人を見た。


「死の匂いだ。」



---


老人は二人を家へ招き入れた。


部屋には古い写真が何枚も飾られている。


その中の一枚に、木村は目を留めた。


白黒写真。


神社の前に並ぶ村人たち。


その中央には、白い装束を着た若い女性が写っていた。


石碑に刻まれていた名前。


鈴音。


「この人が……。」


老人は深く息を吐いた。


「最後の巫女だ。」


「最後?」


「鈴音が死んでから、この村は滅んだ。」


部屋の空気が重くなる。


老人は写真を見つめたまま続けた。


「村人は皆、鈴音を呪いの元凶だと言った。」


「違うんですか?」


「違う。」


老人は首を横に振った。


「鈴音は最後まで、村を守ろうとしていた。」


平と木村は言葉を失う。


今まで恐れていた巫女は、人を殺す悪霊ではなかったのか。


老人は震える手で古い木箱を取り出した。


「これは、鈴音が残したものだ。」


箱の中には、一冊の古びた日記が入っていた。


表紙には墨で一文字だけ書かれている。


『鐘』


木村がゆっくりと日記を開こうとした、その時――


遠くの山から、重く低い音が響いた。


ゴォーン……。


老人の顔色が一瞬で変わる。


「しまった……。」


「どうしたんですか!」


老人は立ち上がり、震える声で叫んだ。


「鐘が……目を覚ました。」


その瞬間、家の窓ガラスが一斉に激しく震え始めた。


第二章 第十三話「巫女の日記」へ続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。