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ヒロインはもう死んでいる!?~聖女ワトソンとオッサン探偵ホームズの事件簿~  作者: おさんぽミルク
メインヒロインはもう死んでいる!?

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第6話 10回目

「ほ、本当に頼りにしていいんですよね先輩?」

「…………」

「先輩? 写楽先輩? うそっ!? まさかのここで裏切りですか!? 言っておきますけどあの泥棒エルフを見逃したのはウチだけの責任じゃありませんからね!? 一蓮托生ですからね!?」




 分かっていますよね!? ねっ!? と、意識を取り戻すと同時にガクガクとクリスティーナが俺の肩を激しく揺さぶっていた。


 俺はクリスティーナにされるがままの状態で、状況を確認するようにキョロキョロと辺りを見渡す。


 場所は……雑居ビルの2階、レイトン探偵事務所の玄関前。


 時刻は……午前6時30分、か。


 このクリスティーナの怒り具合から察するに、張り込み失敗を所長に報告する前の状態だな。


 つまり今、事務所の中にはレイトン所長とイクオがふんぞり返って俺達の帰りを待っているワケだ。


 うん、ちゃんと予想通りのシチュエーションに戻ってこれたな。


 さぁ、ここからもう1度今日をやり直しだ。




「その前に一応確認だな。おいクリスティーナ、俺達はこれから窃盗エルフを取り逃がした件を所長に報告する手前……ってことで合っているよな?」

「??? そうですよ? なに当たり前のことを聞いているんですか、先輩? もうボケちゃったんですプゲラッ!?」




 ゴチンッ! と生意気な口を叩くメスガキダークエルフの頭に教育的指導(ゲンコツ)を施しつつ、俺はAカップに釘を指す。




「よし、なら当初の予定通り所長への報告は俺がする。お前は黙って静かに俺の後ろで震えていろ」

「痛いっ!? また先輩が()った!? フェミ団体に訴えてやる!」

「やってみろメスガキ。その前にお前の口を俺の唇で塞いでやるわ」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~っ!? セクハラぁぁぁぁぁ~~っ!? パワハラぁぁぁぁぁ~~っ!?」




 ピーチクパーチク騒ぐクリスティーナを無視して、事務所の扉を開ける。


 すると中には予想通りソファーに座ってふんぞり返り迷惑そうに顔を歪めるイクオと、困った表情で俺達を見つめるレイトン所長が居た。




「相変わらず五月蠅(うるさ)い男だな、ホームズ。発情期のゴブリンの方がまだ静かだぞ?」

「ちょっとぉ? 廊下であまり騒がないでよね写楽くん? また1階のカフェから『うるさい!』って苦情が――」

「――今から約2時間後の午前8時20分に殺人事件が起こる」




 所長の言葉を遮って、俺は要件だけを口にした。


 その瞬間、小言を言おうとした所長とイクオの唇がピタリッ! と止まる。


 俺は「はっ? 先輩いきなりナニ言ってんすか?」とアホの子を見るような目で俺を見てくる後輩ダークエルフを無視して、前回の時間軸のことを2人に話した。




「場所は出国ゲート付近のケバブ屋近くの路地裏。犯人は人間族の女、名前はバレル。バハムス帝国出身の24歳の殺し屋、能力者だ」

「ちょっ、先輩!? な、何を言って――」

「阿笠くん、ごめんね? あとで説明してあげるから、ちょっとお口をチャックしていてね?」




 所長の笑顔だが有無を言わさぬ圧力を前に、クリスティーナが「ひゃ、ひゃい……」と借りてきた猫のように大人しくなる。


 そんなクリスティーナを横目にイクオが『続けろ』とアイコンタクトを飛ばしてきた。


 俺は無言で首肯しながら、今回の事件の実行犯の情報を2人に述べていく。




「バレルの能力は『瞬間移動』、ただし視線の先にしか移動出来ない制約があり、直線的な動きしか出来ない。だがタイムラグはほぼないため、姿を晒すことなく移動が可能。その能力を使って密入国に成功している」

「実質テレポートか……厄介な能力だな。得物(えもの)は?」

「短刀だ。能力の性質上、小回りの利く武器を好む傾向にあるようだが……一番の理由は命に手が触れている実感があって好きなんだとさ」

「……下衆(ゲス)め」




 イクオが不愉快そうに顔を歪める。


 こういう他人の命を屁とも思わない(やから)が嫌いなイクオにとっては、到底許せない相手なのだろう。


 クールに見えて誰よりも熱い正義マンだからな、コイツ。




「写楽くん、被害者の名前は?」

「被害者はワトソン・サンライズ・メル・エル・ロードです」

「ッ!? わ、ワトソンだって!?」

「お知り合いですか先生?」

「ぼ、僕の姪っ子だよ……。今日、このあとバハムス帝国から第六民主国に来る予定で……なるほど、そういう事か」




 どうやら俺が何度か戻って来た(・・・・・)らしいぞ、と察したらしいレイトン所長が確認するように俺に尋ねてきた。




「写楽くん……何回目だい?」

「10回目です」

「えっ? えっ? 所長も先輩も何の話しをしているんですか?」




 俺の能力を知らない故に1人だけ状況についてこれていないクリスティーナが頭の上に「???」を乱舞させる。


 悪いな、今は説明している時間が惜しい。


 スマンが暫くはそこで【あばばばっ!?】していてくれ。




「なるほど、わかったよ。――何が欲しいのかな?」

「A級装備をお願いします。非殺傷弾では手に負えませんので」

「A級装備……だと?」




 イクオの眉根がピクンッ! と跳ね上がる。


 まぁそういう顔になるわな。


 俺が静かにイクオと睨み合っていると、我慢できなかったらしいクリスティーナがおずおずと言った様子でレイトン所長に尋ねていた。




「あ、あのぉ~? 勉強不足で申し訳ないのですが所長、A級装備ってなんですか?」

「あぁ、まぁ普通に生きていたら聞かない単語だよね。これは警察用語でね? 殺傷能力のある装備や国の機密情報に無許可でアクセスできる機材のことだよ」

「殺傷能力のある装備……ということは、実弾ですか!? 先輩、そんなモノを何に使う気なんですか!?」

「黙ってろ、クリスティーナ」




 うるせぇ、と後輩ダークエルフの額をペチン! と叩く。


 途端に「ふにゃっ!?」と変な声をあげながら額を両手で抑えて恨めしそうに俺を見上げてくる貧乳。


 惚れられたかもしれない。




「そこまでの相手なのか、ホームズ?」

「もう既に2回、俺は殺されている」

「いや、生きてるじゃないですか先輩?」




『何言ってんだコイツ? バカか?』という不愉快極まりない後輩ダークエルフの視線を無視して、イクオを真っ直ぐ見つめる。




「生け捕りは?」

「無理だ。瞬間移動を持っている(やから)だぞ?」

「霧生くん」




 レイトン所長がイクオの名前を呼ぶ。


 長年の付き合いでそれが何を意味しているのか、イクオにも理解出来ただろう。


 手回しが自分の方でやっておくから、写楽くんの好きにやらせてあげて?


 敬愛するレイトン所長にそこまで言われたら、イクオとしてももう引くしかない。


 イクオは「ハァ……」と小さく溜め息を溢すと、キッ! と鋭い視線で俺を睨み上げ、




「分かった、手配しよう」

「最初からそう言やいいんだよ」

「ただし、やるからには確実に仕留めろ。いいな?」

「当たり前だ。よし、時間もないし武器庫に行くぞ? クリスティーナ、お前もついて来い」

「えっ!? なんでウチが!? というか行くってどこへ!?」




 困惑するクリスティーナの肩を抱いて、事務所を後にしようとする俺。


 そんな俺に対してクリスティーナは無駄な抵抗を示してくる。




「踏ん張るなバカ。行くぞ?」

「だから何処へ!? ちゃんと言ってください! 怖い!?」

「話しを聞いてなかったのかテメェ? 警察庁だよ、警察庁。今からA級装備を取りに行くんだ」

「なんでウチも一緒に!? もうお家に帰りたいんですけど!?」

「あぁん? そんなのお前、決まってんだろ? 今日からお前も刑事だからだよ」

「……はぁ?」




 心底ムカつく表情で俺の顔を見上げる後輩ダークエルフ。


 ほんと腹立つな、コイツ?




「ウチが刑事(けいず)ぃ~? せんぱ~い? バカも休み休み言ってくださいよぉ~? いやまぁ休んだところでバカしか言わないんですけどね、先輩は?」

「張り倒すぞメスブタ? 冗談じゃねぇっての、なぁイクオ?」

「そうだな。ホームズの言っていることは本当だ、阿笠クリスティーナ」




 堅物に水を向けると、『やはり知っていたか……』と俺を一瞥しつつ、コクンと小さく首肯した。




「オレが今日この事務所に来た目的の1つは君だ」

「へっ?」

「阿笠クリスティーナ、この2年間において度重なる殺人事件への協力、及び解決の一助を担ったとして、特例ではあるが警察庁捜査一課の刑事見習いとして貴君をスカウトしにきた」

「……へっ?」

「喜べクリスティーナ、今日からお前は一課の刑事だ!」

「……へっ?」




 クリスティーナは瞳をパチクリさせながら、俺とイクオの顔を交互に見返して、




「……へっ?」




 と言った。

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