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ヒロインはもう死んでいる!?~聖女ワトソンとオッサン探偵ホームズの事件簿~  作者: おさんぽミルク
メインヒロインはもう死んでいる!?

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第24話 天を喰らう弾丸、神を墜とすイカヅチ

 ゼロ距離で対物ライフルの弾丸をくらい、悲鳴のような雄叫びを上げながらビルの下へと落ちていくドラゴン。


 ワトさんは落ちていくドラゴンと対物ライフルを構えるソースケを交互に見返しながら、呆然とした声音で小さく呟いた。




「す、すごい……ドラゴンを一撃で……。ほ、ホームズさん、この男性は一体?」

「この前髪で顔が隠れているギャルゲーの主人公のような男の名前は江戸川(えどがわ)ソースケ、探偵さ」

「刑事だ、バカ」

「ぎゃるげー? 主人公?」




 俺の警察時代の元同期であるソースケは、混乱するワトさんを横目に俺に命令を飛ばしてくる。




「そんな事より早く仕留めろ、ホームズ」

「あいあい、分かってるよ」




 俺は7号が擬態しているバイクから降りつつ、ビルの下へと視線を向ける。


 そこには苦し気に(うめ)いているドラゴンの姿があった。


 流石にドラゴンと言えど対物ライフルをゼロ距離で受け止めたら無傷とはいかないらしい。


 それでも確実に回復はしているようで、燦々と殺意に満ちた瞳でビルの上に居る俺達を睨んでくる。


 あと数分もしない内に完全に復活しそうだな。


 ……まぁその数分が命取りなんだが。




「起きろ【憤怒(サタン)】」




 俺の呼びかけに呼応して、バイクの形をしていた7号が液体状へと変化し、俺の掌へと集まってくる。


 バイクに乗っていたワトさんはドシンッ! とその大きなお尻をコンクリートに打ちつけ「ひゃんっ!?」と変な声をあげていたが、無視して意識を7号へと集中させる。


 7号は俺の手の中でミニショットガンのような形に収まると、まるでこの時を待っていたかのように1度だけ大きく脈動した。




「い、痛いぃぃ~~……お尻打ったぁ~。ひ、酷いですホームズさんっ! って、その拳銃は?」

「対能力者用の最終兵器……になるハズだった拳銃だ」




 ワトさんに短くそう告げながら、俺はミニショットガンの銃口をドラゴンの方へと向ける。


 普段使う拳銃より一回りも大きく長いソレは、一週間に一発しか撃つことが出来ない。


 しかも誰がトリガーを引いてもいいというワケではない。


憤怒(サタン)】に選ばれた者以外が引き金を引けば、たちまち地獄の雷によりその身を焼かれ即死する。


 そして(こう)か不幸か俺は【憤怒(サタン)】に選ばれた。選ばれてしまった。


 結果、俺はこの国でただ1人、唯一軍隊に匹敵する特級戦力を持った男となった。




「知ってるか、ワトさん? 警察組織の歴史は超能力者共に苦戦を強いられてきた歴史だ」




 絶対数で勝る犯罪者に対応は遅れ、警官の犠牲は増えるばかり。


 そこでババァたち特殊チームは極秘にいくつか【対能力者用】兵器を開発した。


 そのほとんどは正式採用され、今日の対能力者、テロ用に実践導入されている。


 その中でたった1つ、ババァが不採用にした兵器があった。




「それがこの拳銃【対能力者用試作兵器】7号だ」

「し、知ってます。アルテマさんが言っていました、不採用になった理由は能力者にしか使えないから……ですよね?」

「表向きの理由はな」




 表向き……? と頷くワトさんに、俺は「あぁ」と小さく頷いた。




「実はな、もう1つ理由があるんだよ」




 ババァがこの7号を不採用にした理由、それは――




「それは7号(コイツ)の能力【憤怒(サタン)】があまりにも強力すぎたからだ」

「強力すぎた……ですか?」

「意味が分からんって顔をしているな? 安心しろ。その答えを今――見せてやる」




 ソースケが放った対物ライフルのケガも回復したのか、今にも俺達めがけて再び飛翔しようとするドラゴン。


 そんなドラゴンの頭部に照準を合わせながら、俺は【憤怒(サタン)】の引き金を引いた。




 ――直後、轟音と共に大きな銃口から黒い稲妻が走った。




「GAAAAAAAAAA――ッッ!?」




 刹那、危険を感じたのかドラゴンが急いで後方へと飛ぶ。


 だが、




「もう遅い」




憤怒(サタン)】から放たれた黒い(いかづち)はまるで意思を持っているかのようにうなり、ドラゴンの巨体を追いかけていく。


 ドラゴンが死に物狂いで避けようが関係ない。


 1度放たれたが最後、コイツは獲物を喰らうまで離さない。




「終わったな、オレは帰る」




 そう言ってソースケは上空で黒い稲妻から逃げ惑うドラゴンから視線を切り、屋上をあとにしようとした。




「おい待てソースケ。対物ライフル(コイツ)はどうするんだよ? 放置か?」

「あとでアルフォンスの使いの者が回収にくる。それまでお前がここで待機して見張ってろ」

「ナニを勝手なことを……あっ!? おい待てよソースケ! ソースケぇぇぇ!?」




 ソースケは俺の方へと振り返ることなく、さっさと屋上を後にした。


 ギィィッ! バタンッ! と無情な音を立てて屋上の扉が閉まる。


 マジで帰りやがったよ、アイツ……。




「……相変わらず人をイラつかせる天才だな」




 元同期と旧交(しんこう)を温めようとは思わんのかね?


 ……いやまぁ俺もソースケと旧交を温めようなんざ微塵も思わねぇけどさ。なんか気持ち悪いし。




「凄い……空で2匹の魚は泳いでる」




 まるで踊るように夜空を飛翔し続けるドラゴンと黒い稲妻をポケーッ! とした表情で見上げるワトさん。


 魚とはまた素敵な表現をする。


 まぁ実情はドラゴンが死ぬ気で黒い稲妻から逃げているだけなんだけどな。


 やがて逃げられないと判断したのか、噛み砕こうと逆に黒い稲妻に向かっていき、




「GAAAAAAAA――――ッッ!?!?」




 ターゲットのドラゴンに直撃した。




「GAAAAAAAA――――ッッ!?!?」

「それは悪手だろ、トカゲちゃん?」

「す、すごい……」




 雷に打たれたように苦痛の雄叫びをあげるドラゴン。

 息を呑むワトさんは、ただただその光景を見上げていた。




「ソイツには攻撃も防御も関係ない。触れたら終わりの死の(いかづち)だ」

「こ、このあとはどうなるんですかホームズさん!?」

「どうもならん」




 へっ? と間抜けた声をあげるワトさんと共に空の上で苦しみ悶えるドラゴンを見上げる。




「あとは絶命するまで苦しみ続けるだけだ。逆転はもうない」

「お、終わりということですか?」

「そういうことだな」




 俺がコクリと頷くと同時に、黒い稲妻に焼かれるドラゴンの身体がドンドン小さくなっていった。


 ドラゴンの巨体は小さく人型へと変形していくと、2つの肉塊へと……ダークエルフの男とウラギールの姿へと変わっていく。


 その光景を前に、ワトさんが驚いたような声をあげた。




「ど、ドラゴンの身体が人間にっ!? 人間にっ!?」

「どうやら元に戻ったようだな」




 やがて黒い雷が消えると同時に、空中に浮いていた2人の身体が地面に向かって自由落下を開始し始めた。


 2人共もう絶命しているようで、ピクリとも動ないまま真っ直ぐグランドオニオン国立公園の方へと落ちていき……姿が見えなくなる。


 俺は静かになった屋上で小さく吐息を吐き出しながらワトさんに(ねぎら)いの言葉をかけた。




「お疲れワトさん。これにてババァからの依頼は達成だ」

「達成……したんでしょうか?」




 何とも釈然としない表情でそう呟くワトさん。


 彼女がナニを考えているのかは何となく予想出来るか、だからと言って共感は出来ない。


 だから俺はいつもの調子で、若干の疲れを滲ませつつ、こう言うのだ。




「もっと喜べばいいものを。これで帝国の王子様の記憶が戻る薬が手に入るんだぞ? 嬉しくないのかよ?」

「嬉しくないかと聞かれれば、もちろん嬉しいですけど……でも代わりに――」

「ワトさん、同情すんなよ。全てはアイツらの自業自得だ」

「……はい」




 やや突き放すようにピシャリッ! とそう言い放ちながら、俺はウラギールたちが落ちていったグランドオニオン国立公園の方を見続けた。


 悪人はロクな死に方をしない。


 これは真理である。


 だからきっと俺もロクな死に方をしないのだろう。




「なぁ~んて、おセンチな気分に浸ったりして……」

「??? 何か言いましたか、ホームズさん?」

「んにゃ、なんでもねぇよ」




 不思議そうに顔を見上げてくるワトさんから逃げるように視線を夜空へと滑らせる。


 そこにはどこまでも広がる闇が続いていて、まるで絶命したウラギール達の人生のようにお先が真っ暗であった。

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