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ヒロインはもう死んでいる!?~聖女ワトソンとオッサン探偵ホームズの事件簿~  作者: おさんぽミルク
メインヒロインはもう死んでいる!?

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第23話 VSドラゴン

 ドラゴンに変態したダークエルフの男と夜空をランデブーすること15分。


 俺とワトさんは死に物狂いでバイクに擬態した7号を操りながら、ドラゴンの猛攻を紙一重で躱し続けていた。




「ホームズさん、きますっ! 右ッ!」

「あい、よぉぉぉぉ~~~~~~ッッ!!」




 ハンドルをグイッ! と思いっきり右に切りながら、車体を限界ギリギリまで傾ける。


 数秒遅れて俺達が居た場所をドラゴンの牙が、爪が物凄い勢いで通過していく。


 あんなの喰らったら人間なんて一瞬でお陀仏である。




「今のはギリギリだったなぁ~、あっぶねぇ~」

「言ってる場合ですか! 前からまたキますよ!」




 クルリと器用に旋回したドラゴンが、大きく口を開けて再び俺達に迫ってくる。


 あんな巨体を前に警棒や拳銃でやり合おうだなんて思わない。というかそんなチャチな道具で勝てる気がしない。


 あんなバケモノを仕留めるにはコチラもソレ相応のブツを用意しないといけないのだが、




「そんな暇はないしなぁぁぁぁぁ~~~~っ!?」




 急降下してドラゴンの(アギト)を躱す。


 後ろに乗っていたワトさんが「ホォォォォムズさぁぁぁぁぁ~~~んっ!?」と悲鳴に近い声をあげていたが、気にしている余裕はない。


 俺は失った高度を回復するべくハンドルを手前に引き、Ⅴ字の要領である程度の高度へと素早く舞い戻る。


 ……ちょっとGがキツイな。




「きゅ、急に上下しないでくださいホームズさん。お、お腹の中がグチャグチャになっちゃう……おえっ!?」

「あっ、ごめん! でも緊急事態だったから……さぁぁぁぁぁぁっ!」




 再び真後ろから突撃してきたドラゴンの一撃を左に旋回して躱す。


 途端にドラゴンはイライラした様子で「GAAAAAAA――ッッ!!」と大きく吠えた。


 とりあえず現時点で分かることは、あのドラゴンはまだ自分の能力をフルに活用できていないということ。


 ブレスを吐かなければ魔法も使わない、ただその巨体で突進することしか出来ない。


 その突進も直線的で予測しやすい。


 おそらくドラゴンに変態してまた間がないせいだろう、上手く身体をコントロール出来ていないのだ。


 これならいくらでも躱せるが……




「流石にそろそろ気力がヤバいな」




 俺はアクセルを全力で絞るも、加速は微々たるモノだった。


 どうにも俺の中に残っている気力もそろそろ限界を迎えつつあるらしい。


 このままだと空中走行を維持できなくなり地面に落下してしまう。


 ドラゴンに喰われるのが先か、それとも自滅するのが先か……。




「どっちも嫌だよなぁ」

「ホームズさんっ! なにか、なにかこの危機を脱出する案はないんですか!?」




 ワトさんが焦った様子で俺に進言してくる。




「脱出する案、ねぇ~? 脱出というか、あのドラゴンを仕留める方法なら一応あるにはある」

「えっ? えっ!? 仕留められるんですか!? あのドラゴンを!?」

「おう、ほぼ間違いなく」

「そんな奥の手があるなら早く出してくださいよ! なんで勿体ぶっているんですか!? 状況を分かっていますか!?」




 ベシベシッ! と俺の身体を軽く叩くワトさん。


 いや、出したいのは山々なんだけどさ? その隙がないんだもん。




「隙を作るにしても手元の材料じゃどうにもこうにも……うん?」




 ――お兄ちゃん、電話だにょん♪ お兄ちゃん、電話だにょん♪


 俺がいよいよ困り果てていたそのとき、7号に繋いでいたスマホの着信音が俺の耳朶を打った。




「な、なんですかホームズさん、これは!? お、女の子の可愛い声がバイクから聞こえてきますよ!?」

BLUETOOTH(ブルートゥース)だな」

「ブルートゥースッ!? 青い牙ッ!? 何かの作戦の隠語ですか!?」

「う~ん? まぁそんな感じだ」




 説明するのが面倒くさくなった俺は、テキトーにそんなことを口走りながら一瞬だけ思考を走らせる。


 このタイミングで電話をかけてくるような空気の読めない男を俺は1人だけ知っている。


 だがこういう時のヤツは誰よりも頼りになることも俺は知っている。


 アイツに借りを作るのは後々怖いが、今は背に腹は変えられん!


 俺は躊躇(ためら)うことなく7号の通話をONにした。


 瞬間、7号のスピーカーから軽薄な野郎の不愉快極まりない声が俺とワトさんの身体を包み込んだ。




『やっほ~♪ ホームズくん、お困りのようだね?』

「お、男の人!? こ、今度は優しい感じの男の人の声が聞こえてきますよホームズさん!?」

「冷やかしなら切るぞアルフォンス?」




 驚くワトさんを尻目に、短く電話の主である俺の元同期――アルフォンスにそう告げる。


 アルフォンスは『おや?』と(とぼ)けた調子の声を上げながら、不思議そうな声音を作って会話のキャッチボールを楽しもうとしてくる。




『珍しく余裕がないねホームズくん? 大丈夫?』

「うるせぇっ! お前のことだ、コッチの事情はもう分かってんだろ? 絶賛ドラゴンと夜のお空をデート中だよ!」

『アッハッハッハッハッ! もちろん知ってるよ! いやぁ、すごい状況だね? どうやったらそんな状況を作れるのさ?』

「お前の大好きな先生の姪っ子の願いを叶えようとしたらこうなったんだよ」

「ホームズさん、来ますっ! 下からっ!?」




 明るいバカ野郎の相手に集中し過ぎて、背後のドラゴンへと向ける注意を一瞬だけ外してしまう。


 その隙を突くように急降下し俺の死角へと移動したドラゴンが、大きく口を開け急上昇ッ!


 そのまま7号ごと俺とワトさんを噛み砕こうとし――ヤッベ!?




「クソ、曲がれぇぇぇぇぇぇっ!?」

「ひぇぇぇぇぇぇぇ~~~~っ!?」




 無理やりハンドルを横に切って、体勢を崩しながらも何とか躱す。


 だがその代償としてかなりの気力を持って行かれて……ヤバいな。


 あと5分、いや10分走行できるかどうか。


 いよいよ追い詰められてきた。




『おぉ~、今すごい音がしたけど大丈夫? 生きてる?』

「ハァハァ……こんな所で俺様がくたばるかよ」

『流石はホームズくん、ゴキブリ並みのしぶとさだね!』

「冷やかしならもう切るぞ? ぶっちゃけ余裕がないんだ」

『もちろん分かっているさ。だから電話したんじゃないか』




 通話の向こう側から『ズズゥ~♪』と優雅に紅茶を(すす)る音が聞こえてくる。


 どうやら電話の向こう側の主様は余裕のティータイムらしい。


 こういう所、マジでムカつくよなぁ。


 今度会ったら絶対に張り倒してやるわ!




『7号のアレ、使いたいんでしょ? でもその隙がなくて困っているんだよね?』

「……やっぱお見通しか、お前?」

「7号のアレ?」




 ワトさんがコテンと小首を傾げる。


 そんなワトさんに「あとで説明してやる。それよりもドラゴンの動きに注視してくれ」と伝えつつ、アルフォンスに話しの続きを促す。




「それで? お前のことだ、何か策を用意してくれたんだろ?」

『流石は長年の付き合いなだけあって話しが早いね、ホームズくん』

「むしろ遅いわ! 長々と無駄話をしよってからに!」

『アハハハハハッ! ごめん、ごめん! 久しぶりの親友との語らいについ熱が入っちゃったよ。許しておくれ?」

「誰が親友だ、誰が? 張り倒すぞテメェ?」




 マジでコッチは余裕がねぇんだよ!


 テメェの戯言に付き合っている暇はないの!


 はやく本題を喋れ!?




「ホームズさん、左ッ! 急旋回っ!」

「ふんぬぅぅぅぅぅっ!」




 ワトさんに言われた通り左に思いっきり舵を取る。


 すると弾丸の如きスピードで俺達の居た場所を通過していくドラゴン。


 今回はギリギリ躱せたが、もうあと何回も避けらんねぇぞアレ!




「アルフォンス、はやく喋れ! 俺は何処(どこ)に行けばいい!?」

『……本当に話しが早いねホームズくん? OK、伝えるよ』




 通話の向こうでアルフォンスが紅茶のティーカップを置く音が聞こえてくる。


 この非常時にナニをまったりしてんだ、コイツ!?


 もう絶対ぶん殴る! 今度会ったら絶対ぶん殴る!


 心の中でそう誓いを立てながら、俺はアルフォンスの言葉に耳を傾けた。




『――グランドオニオン国立公園、その近くのビルにソースケくんがスタンバイしている』

「ッ! よっしゃ了解ッ!」




 瞬間、ハンドルを切って駅前の方へと進路を変える。


 俺は残りの気力を注ぎ込むように7号に力をこめ、車体を加速させる。




『それじゃ健闘を祈っているよ。あっ、ちなみにコレは貸しだからね?』




 ばいば~い♪ と陽気な声をあげるアルフォンスの声をぶった切るように通話をОFFにし、目的地のグランドオニオン国立公園へとアクセルを吹かす。




「しっかり掴まれワトさんっ! 加速するぞっ!」

「は、はいっ!」

「GAAAAAAAAAAAA――――ッッ!!」




 後ろからドラゴンの雄叫びと共に死の気配が強まってくる。


 それでも俺は振り返ることなく車体を加速させ、夜空を滑るように駆けていく。


 グランドオニオン国立公園まで全力で飛ばして5分。


 チンタラ普通に走っていたら確実に()られる距離だ。


 そう、普通に走っていたら……な?




「ワトさん、トラウマになったらゴメン」

「もう既にトラウマになりそうなほど怖いんですけぉぉぉぉぉぉ~~~~っ!?」




 俺はワトさんの絶叫を置き去りにするように急降下を開始。


 ひぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁ~~~~ッッ!? と悲鳴をあげるワトさんを横目に、重力に引っ張られた車体が物凄い勢いで加速し始める。


 だがそれは相手も同じ。


 ドラゴンも俺達めがけて急降下を開始。

 重力の力をその巨体に宿しながら、物凄い勢いで俺達に迫ってくる。


 やっぱりスピードじゃ勝ち目はないか。


 でもっ!




「小回りならコッチが上だね!」




 俺は地面に衝突する寸前でハンドルを手前に引き、急上昇。


 紙一重のところで衝突を免れる。


 だがドラゴンはその勢いのままアルファルトの地面へと突撃し、


 ――ドォォォォォンッ!


 土煙をあげながら盛大に地面と衝突した。




「うっわ、すげぇ音。痛そぉ~」

「や、やりましたよホームズさん! 確実に仕留められる奥の手ってコレの事だったんですね!」

「いや違うけど、思いつきにしては中々だったな」

「これでドラゴンも起き上がれないでしょう! 私たちの勝利です!」

「あっ、馬鹿ワトさん!? それフラグッ!?」




 へっ? と呆けた声をあげるワトさんの背後で、


 ――GAAAAAAAAAAAAAAAッッ!!


 怒り狂ったドラゴンの雄叫びが響き渡る。


 一瞬だけ背後へと振り返ると、そこにはあれだけの勢いで激突したにも関わらずピンピンしている真っ赤なドラゴンの姿があり……あ~あ。




「ほらぁ、ワトさんが変なことを言うから」

「私のせいですか!? ごめんなさいっ!」

「うん、素直に謝れるのはワトさんの美徳だよね」




 俺はアルファルトをタイヤで切りつけながら夜の街を疾走していく。


 目的地まで残り300メートル。


 ここから先は時間と運の勝負である。




「GAAAAAAA――ッッ!!」




 真っ赤な体躯のドラゴンは『逃がさん!』と言わんばかりに大きく吠えたかと思うと、超低空飛行で俺達の後を追いかけ始める。




「ひぃぃぃっ!? お、追いかけてきたぁぁぁぁ~~っ!?」

「おいおい? 街の住民のことなんかお構いなしか?」




 ドラゴンはその羽ばたきでビルの壁やら車やらを破壊しながら、高速で俺達に接近してくる。


 何もしなければあと30秒もしない内に俺達の身体はあの牙に切り裂かれるだろう。


 流石にもうグランドオニオン国立公園の中まで突っ走る時間はなさそうだ。


 と、くれば……俺は素早く辺りを見渡し目ぼしいビルの屋上を把握していく。


 グランドオニオン国立公園の近くで、なおかつ狙撃しやすい位置は……




「見っけ!」




 俺は最後の力を振り絞りアクセルを振り絞ると、とあるビルに向かって全力で突っ込んでいく。




「ちょっ、ホームズさん!? ぶつかる、ぶつかる!?」




 後ろに乗っていたワトさんが半日修行体験でやってきたОLのようにキャーキャー騒ぐが、構わない。


 俺はそのままバイクごとビルへと突っ込み――ビルの壁を垂直に登り始めた。




「うぇぇえええっ!? か、壁を走ってる!? このバイク、壁を走っていますよホームズさん!?」

「喋ると舌噛むぞ?」




 ピーチクパーチク五月蠅いワトさんと共に、ビルの屋上めがけて壁を走り上がる。


 突然ビルの壁を駆け上がり始めたバイクに、すぐ後ろを飛んでいたドラゴンは対応することが出来ず、先ほどのリプレイでも見ているかのようにその巨体をビルへと突っ込ませる――かと思いきや、器用に羽ばたいて急上昇。ほぼロスタイムナシで俺達を追いかけてくる。


 どうやらドラゴンの身体の使い方に慣れてきたらしい。


 おいおい勘弁してくれよ?


 まださらに早くなるのかよ?




「まぁ今更遅いけどな」

「ほ、ホームズさぁぁぁ~~ん!? ドラゴンの口が、牙がっ!? もうすぐそこにぃぃ~~~っ!? は、鼻息が当たるぅぅぅ~~っ!? 食べられちゃうぅぅぅ~~~っ!?」




 お父様、お母様、ハロルド様あぁぁぁぁぁっ!? と元気いっぱいに叫ぶワトさん。


 そんな彼女の絶叫に背中を押されながら俺はビルの屋上へと登り切った。


 ――そこには対物ライフルを構えた俺の元同期がスタンバイしていた。




「あとは頼むわ、ソースケ」

「チッ……余計な仕事ばかり増やしやがって」

「えっ、誰ぇっ!?」




 屋上でバカデカいライフルを構える謎の男に、ギョッ!? と目を見開くワトさん。


 それとほぼ同時にドラゴンの巨体が対物ライフルの射線上へと上がり。

 

 ――瞬間、ドラゴンの土手っ腹に対物ライフルの弾丸がめりこんだ。

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