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ヒロインはもう死んでいる!?~聖女ワトソンとオッサン探偵ホームズの事件簿~  作者: おさんぽミルク
メインヒロインはもう死んでいる!?

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第21話 さぁ、やり直しだ

 ワトさんと共に5回目(・・・)の6時間前の世界に戻ってきてから、軽く10分が経過しようとしていた。


 時刻は午後10時少し過ぎ。


 シィィィンッ! と張り詰めた10番倉庫の培養液に浸るキメラの影に隠れるように、俺とワトさんは『その時』が来るのを静かに待ち構えていた。


 チャンスは1回。


 その1回のチャンスに全てを込める。


 俺は漆黒のグローブ【色欲(アスモデウス)】に擬態させている7号をいつでも発動出来るように、地面に手を置き『その時』を待つ。


 ワトさんも覚悟が決まった瞳で警棒を握りしめ、『その時』を今か今かと待ちわびていた。


 流石に何度もやり直している(・・・・・・・)だけあって、最初に見えた目の甘えは消え、瞳に修羅を宿した少女がそこには居た。


 これなら今度こそ成功するかもしれない。


 そんな希望的観測に胸を膨らませていると、



 ――ギィィィッ!



 と錆びついたドアが開く音が倉庫内に木霊した。




「ッ!」




 ソレを聞いてワトさんの身体が跳ねる。


 キタ、主賓(しゅひん)だっ!


 俺はニンマリと笑みを深めながら、コツコツと倉庫の中へと革靴の足音を鳴らして入ってくる野郎の気配に全神経を集中させる。


 まだだ、まだ早い。


 あと7歩……4歩……3、2、1――




「――7号、カウントダウン・スタートッ!」

『了解、カウントダウンを開始します』




 7号の無機質なカウントダウンと同時に、地面に高速で霜を走らせる。


 突然の出来事に革靴の男――ウラギールが「んなっ!?」と驚きの声をあげて固まる。


 その一瞬の隙が致命傷となり、顔を除くウラギールの身体をパキパキと凍結していく。




「な、なんだコレはっ!?」

『25、24、23、22――』

「ワトさん、今っ!」

「ッ!」




 俺の合図に物陰に身を潜めていたワトさんがウラギールの前に踊り出る。


「お前はっ!?」と驚くウラギール、そのまま能力を発動させようと指先をワトさんの方へと向け、




「う、動かない、だと!?」




 自分の身体が凍結されていることにようやく気付き慌てだす。


 だが、もう遅い。


 ワトさんは大きく警棒を振りかぶり、


 ――ガツンッ!


 ウラギールの脳天めがけて警棒を容赦なく叩き落とした。




「~~~~~~カッ、ハッ!?」

「【ロード流剣術】壱ノ型『天撃(てんげき)』ッ!」




 ワトさんの全体重を乗せた一撃を前に、ウラギールはグルンッ! と白目を剥いて口から泡を吹く。


 それと同時に培養液の中に浸るキメラたちの身体が淡く輝きだした。




『12、11、10、9――』

「凍結解除」




 俺はウラギールの身体に張り付く氷を解除しながら、ババァの知り合いの吸血鬼が入っている培養液へと視線を向ける。


 ドチャッ! と明後日の方向からウラギールの肉体が地面へ崩れ落ちる音を聞きながら、キメラにされた吸血鬼の様子を確認し……「よし」と満足気に頷いた。


 俺の視線の先、そこには――元の姿に戻った1組の男女の吸血鬼が培養液の中でユラユラと揺れている光景が飛び込んできた。




『3、2、1――カウントダウン終了。【対能力者用試作兵器】7号モード色欲、使用限界時間に到達を確認。ただいまより3日間の冷却期間に入ります』

「お疲れちゃん。やったぞワトさん、成功だ! ババァの知り合いの吸血鬼、元に戻ったぞ!」

「ハァハァ……ほ、本当ですかっ!」




 僅か数秒の攻防で持てる力の全てを絞り出したらしいワトさんが、肩で息をしながら俺の方へと駆け寄ってくる。


 そして例の吸血鬼が入っている培養液を見上げ、心の底から嬉しそうに声を弾ませた。




「や、やった! 元に戻ってる! これでハロルド様の記憶を取り戻す薬が作れるっ!」

「何度もやり直したかいがあったな」




「はいっ!」と満面の笑みで頷くワトさん。


 そう、かれこれ俺とワトさんは5回過去へと巻き戻っている。


 これは俺も完全に予想外のことなのだが、どうもワトさんは俺と肉体的接触をしている間は俺の身体の一部として能力に認識されているようで、その間は俺の能力【時間遡行】の対象として共に過去に戻れることが2回目のやり直しで判明した。


 そこから俺達はウラギールの動向を探り、ヤツが必ず現れ油断する時間軸を調べ上げ、5回目となる今回のやり直しで無事に仕留めることが出来たのであった。




「す、凄いですこの警棒! 本当にポカンと頭を殴るだけで能力が解除されました!」

「警察の科学技術の粋を集めて作られた【能力無効化警棒】だからな。退職の際に1つ無断でかっぱらっといてよかったわ」

「これで今度こそアルテマさんの依頼クリアですね!」

「あぁ、これでエリクサーの素材が手に入るぞ」




 俺とワトさんは喜びを分かち合いながら、疲れと共に肺に溜まった空気を吐き出す。


 なにはともあれ、これにて任務完了だ。




「あとはこの培養液から吸血鬼の旦那を取り出して――」




 ――ガッシャァァァァァン!


 瞬間、倉庫の天井の窓が砕け散り、外からダークエルフの男が飛行魔法を使い飛び込んできた。




「ウラギール様ッ!」




 ハエのように飛び回るダークエルフの男は俺達の方に掌を向けると、目視できる程の風の刃が男の周りを取り囲み始めてっ!?




「チッ!? ワトさんっ!」

「へっ? キャァァッ!?」

「テルサリンクスッ!」




 俺がワトさんの身体を抱きしめるのと同時に、風の刃が俺達の身体を切り刻むべく迫ってくる。


 クソっ、間に合うか!?




「起きろ【嫉妬(レヴィアタン)】ッ!」




 刹那、手袋に擬態していた7号が漆黒の杖へと変わる。


 俺は間髪入れず杖の切っ先で地面へカツンッ! と叩いた。


 瞬間、俺達の周りを半ドーム状の半透明な壁が覆うっ!


 半透明の壁は飛んできた鋭利な風の刃などものともせず、簡単に全て防いでみせた。




「よし、間に合った! あっぶねぇ~!」

「ほ、ホームズさん、コレは!?」

「探偵7つ道具、もとい【対能力者用試作兵器】7号の能力、絶対防御の【嫉妬(レヴィアタン)】だ。この半透明のドームの中に居る間はどんな物理的攻撃も無力となる、まぁ俺の奥の手の1つだ」




 まぁ他の形態と同じく、その分制約もデカいけどな。


 と心の中で1人呟いている間に、例のダークエルフの男が気を失っているウラギールを抱えて倉庫から飛んで出て行ってしまう。




「あっ!? マズいですよ、ホームズさん!? 犯人に逃げられちゃいますっ!?」

「あっ、待ったワトさん!」




 追いかけないと! と俺の制止を振り切ってウラギールを抱えたダークエルフの男を追いかけようとワトさんは駆け出し、


 ――ガツンッ!


 盛大に半透明のドームの壁に頭をぶつけた。




「むぎゅうぅぅ!? い、痛いですぅぅ~~……っ!?」

「ごめん、ワトさん。実はこの【嫉妬(レヴィアタン)】ね、1度使用すると3分間は絶対に中からも外からでも出られない仕組みになっているんだよ」

「い、言うのが遅いですよぉ~……っ!」




 ぶつけた額を両手で抑えながら、恨みがましい視線を俺に向けるワトさん。


 いやだって、俺が説明する前に駆けだすんだもん。




「私が外に出られないのは分かりました。ならホームズさん、はやく追いかけてください! ホームズさんなら使用者だし、外に出られるんじゃありませんか?」

「ごめんね、ワトさん。期待をぶち壊すようで申し訳ないけど、実はコレ、1度発動させると3分間は身動き出来なくなっちゃうシロモノなんだ」

「えぇ~と、つまり?」

「俺は3分間、この場所から動けないってこと」




 ごめんね? とお茶目に謝ると、ワトさんが「えぇ~っ!?」と声を悲痛な声をあげた。




「どどど、どうするんですかそれじゃあ!? ここまで追い詰めておいてみすみす見逃しちゃうんですか!?」

「いや、もちろん捕まえるぞ。この時間軸で全部決着をつける」




 俺がニヒルな笑みを浮かべるのと同時に、3分経過したようで半透明のドームが大気に溶けるように霧散していく。


 その光景を眺めながら、俺は再び解号(キー)を口にした。




「起きろ【怠惰(ベルフェゴール)】ッ!」




 瞬間、漆黒の杖が液体化するとカチカチと組み上がるように形を変えていき、数秒にも満たない時間で漆黒のバイクへと変貌(へんぼう)した。


 俺はバイクに擬態した7号に(またが)りながら「乗れ」とワトさんに短く告げる。




「ソレに乗って地上から追いかける気ですか? 無茶ですよっ! 遮蔽物(しゃへいぶつ)が多いうえに、相手は飛んでいるんですよ? 例え追いついたとしてもどうしようも――」

「いいから、早く乗れ」




 時間が惜しい、とバイクのエンジンをブルンッ! と吹かせ、ピーチクパーチク騒ぐワトさんを黙らせる。


 ワトさんはなおも何か言いたげだったが、俺に考えがあると信じ、バイクの後ろへ飛び乗る。


 そのまま俺の腰にギュッ! と手を回し、身体を密着させる。


 おかげで彼女の大きなおっぱい、略して『おっぱい』が俺の背中で柔らかく潰れる。


 おっぱい柔らけぇ~♪ (あたた)けぇ~ッ♪




「もうっ! 信じますからね、ホームズさんっ!」

「任せろFカップ!」

「Fカッ!? な、何故ソレを!?」




 シュボッ! とワトさんの体温が上がるのを背中越しに感じながら、俺はアクセルを全力で手前に引いた。


 ――途端に俺達を乗せた7号バイクは(ソラ)を駆けるように空中を走り出した。




「ちょっ、えええぇぇぇぇぇ~~~~~っ!? ほ、ホームズさん!? この車、浮いていますよ!?」

「車じゃなくてバイクな。コイツはババァが作った作品の中でも移動に特化した兵器だ。俺の気力が尽きない限り、陸・海・空どこでも走ることが出来るバイクの形をした移動要塞だ」




 陸でも空でも海でも道なき道でも関係ない、コイツはどこでも走れるし何処へでも行ける、そういうコンセプトで造られた兵器だ。


 コイツにかかれば空の優位性など何もない。


 ……ただし使用後がありえないくらいの倦怠感が身体を襲うが。




「いや、未来のことは考えねぇ! 明日のことは明日の俺が何とかしてくれる! 行くぞ、ワトさん! ソニックウェーブには気をつけろぉぉぉぉ~~~~っ!」

「あ、安全運転でお願いしまぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~ッッ!?!?」




 こうして俺とワトさんを乗せた7号は、10番倉庫の天井をぶち抜き、ダークエルフの男を追うべく夜の街を滑空した。

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