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ヒロインはもう死んでいる!?~聖女ワトソンとオッサン探偵ホームズの事件簿~  作者: おさんぽミルク
メインヒロインはもう死んでいる!?

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第20話 写楽ホームズの能力についての考察

 俺とワトさんが18時間後の未来から戻って来て30分後のアルテマ婆さんの自室にて。


 俺は本当にワトさんが俺の能力に巻き込まれて時間を(さかのぼ)ったのか確認するべく、ババァと共にこの18時間以内に起こる出来事をワトさんから聞き出していた。




「――そんなワケでウラギールという男に腕を融合させられた私たちは、最後の手段としてホームズさんの能力【時間遡行】を使い過去に戻り、それぞれの腕を取り戻しました。そのあとは2人の知っての通りです」

「黒幕のウラギールに原始融合の超能力のぅ……ホームズよ、ワトさんの言っていることは本当かえ?」

「……し、信じられないかもしれませんが本当ですっ!」




 信じてくださいっ! とワトさんのどこか必死な目が俺を射抜く。


 信じるも何も……なぁ?


 俺のワトさんの言動は俺の知っている未来と完全に一致しているワケで……そこから導き出される結論は1つしかないだろうに。


 ワトさんの話を一通り聞き終えた俺は、観念したように脱力しながらコクンッ! と頷いた。


 その姿を見てババァが「おぉっ!」と何故か嬉しそうに声を弾ませた。




「まさかホームズ以外に未来から帰ってこれる(やから)が居るとはっ! ワトさん、お主もしかして能力者かえ?」

「い、いえ……私は普通の人間です。それよりもアルテマさんは知っているんですか? ホームズさんの能力のことを」

「もちろんじゃ。なんせヤツの能力を分析・解明・命名したのはワシなんじゃからな!」




 そう言ってババァは何故か自慢気に俺の能力について語り始めた。




「写楽ホームズの超能力は【時間遡行(そこう)】、その名の通り24時間以内であればどの時間軸にも(さかのぼ)ることが出来る能力じゃっ! ただし1度使用すると再使用までに遡った時間分の冷却期間(クールタイム)が必要になる。この冷却時間中はもう1つの能力が使えなくなるから注意が必要じゃ」

「もう1つの能力?」

「なんじゃワトさん、知らんのか? ホームズの能力【時間遡行】にはただ時間を遡るだけじゃない、もう1つの強力な能力が宿っているんじゃよ。その名も――」

「喋り過ぎだ、ババァ」




 俺は口の軽いババァの言葉を奪うように遮りながらジロリッ! と睨む。


 情報は力であるということをババァも知っているハズなのに、どうもこの金髪ロリババァは気に入った相手だと口が滑りやすくなって(かな)わん。


 おかげでワトさんが俺のもう1つの能力に喰いついてしまったではないか。




「ホームズさんのもう1つの能力!? やはりホームズさんは多重能力者だったんですね!? そ、それでそれで!? ホームズさんの能力は『氷を操る』能力ですか!?」

「いや、多重能力者なんてそんな大層なモノじゃないぞ。ホームズの能力は基本的に1つじゃよ。もう1つの能力はその派生形で――うん? 氷を操る?」

「はいっ! ホームズさんは凄いんですよ!? 指先1つで巨大な氷を作ったり、相手を凍らせたりっ! あんな強力な氷の能力、私見たことがありませんっ!」

「あぁっ、それはホームズの能力じゃないのぅ。それはワシが作った7号の能力じゃ」

「アルテマさんが作った……?」




 なんですか、ソレ? と興味深々のご様子でババァに詰め寄るワトさん。


 自分の作った作品に興味を持たれて嬉しいのか、ババァは「ホームズ」と短く俺の名を呼んだ。


 どうやら『貸せ!』ということらしい。


 俺は意識をコートに擬態している7号へと移動させながら、解号を口にした。




「起きろ【憤怒(サタン)】」




 俺の号令に反応するようにコートに擬態していた7号が液体状へと変質する。


 黒い液体へと変わった7号は俺の掌の上に集まると、漆黒のボディーをしたミニショットガンの形をした拳銃へと姿を変えた。




「あいよ」

「うむ、ご苦労ッ!」




 ババァは俺から7号を受け取ると満足気に頷きながらワトさんの方へと振り返る。




「これがワシが作った7つの形態に変化する【対能力者用試作兵器】7号ちゃんじゃっ!」

「対能力者用試作兵器……?」

「うむ、これはワシがまだ警察で働いておるときに作ったシロモノでのぅ。『対能力者用に常人でも使用できる能力兵器』をコンセプトに作った作品じゃ! この7号の中には、かつて警察が捕まえた凶悪な超能力犯罪者の能力が封印されておる。その能力を使い無能力者でも能力を使って犯罪者を制圧できる兵器を開発したんじゃ」

「す、すごいっ!? アルテマさん、凄いですっ! 天才ですっ!?」

「いやぁ……それほどでもあるがのぅ♪」




 照れ照れ、と嬉しそうにババァの顔が緩む。


 確かにコレだけ聞けば凄い兵器だろう。 コレだけ聞けば……な?




「それじゃその7号さんを使えば私にもホームズさんみたいに能力を使うことが出来るんですね!」

「あっ……いや、それは……」

「残念ながらワトさんよ、それは無理だ」




 ツツーと気まずそうに眼を逸らすババァの代わりに、俺は答える。


 ワトさんは「どうしてですか?」と納得がいっていない表情で俺に詰め寄ってきた。


 すまんなワトさん、期待をぶち壊すようで申し訳ないが、この7号は実は――




「――失敗作なんだよ、ソレ」

「えっ? 失敗作……?」

「そっ。『対能力者用に常人でも使用できる能力兵器』をコンセプトに作ったはいいが、実際に使用するには能力者が自然と身体から発している電磁波のようなオーラが必要になってくるんだ」

「え、え~と? つまり?」

「つまり、その7号は能力者にしか使えない兵器ってことだ」

「え、えぇ~……? それじゃ本末転倒じゃないですかぁ……?」

「ほんとソレな」




 ワトさんの言う通り、この【対能力者用試作兵器】7号はマジで本末転倒な最終兵器なのだ。


 無能力者でも使える能力兵器を開発していたハズが、能力を使用するためには能力者でなければならないというワケの分からないジレンマに(おちい)った可哀想な兵器、それがこの7号なのだ。




「た、確かに本末転倒な兵器に仕上がったが、それでも内に秘める潜在能力(ポテンシャル)はピカイチじゃぞっ!?」




 そう言って言い訳でもするようにババァが口をひらいた。




「発動したら3分間は姿を消すことが出来る『透明化』能力を持った【傲慢(ルシファー)】ッ!」

「ただし1度使用したら途中解除は不可能なうえ、再使用には3日かかるぞ」

「3日……」

「く、空気中の水分を気化冷凍させ、自由自在に氷を操ることが出来る局地戦闘最強兵器【色欲(アスモデウス)】ッ!」

「これも1度使用したら途中解除は不可能なうえ、使用時間は30秒と極端に短い。しかも再使用には丸3日の冷却期間(クールタイム)が必要」

「これも3日……」

「えぇい、うるさいぞホームズ!? 細かいことをネチネチネチネチとっ! だからモテないじゃキサマはっ!」

「はぁぁぁ~~~~っ? モテてますけどぉぉぉ~~? モテすぎて困ってるくらいですけどぉぉぉ~~~っ!? テキトー言うなよババァ?」

「ハンッ! 見栄を張るな、このシロウト童貞めっ!」

「「…………(メンチの切り合い)」」

「ちょっ、喧嘩はやめてください!? 喧嘩はっ!?」




 今にもババァとキス出来そうな至近距離で睨み合う。


 そんな俺とババァの間に身を滑り込ませて喧嘩を仲裁しようとするワトさん。


 チッ……仕方がねぇ、ここは良い大人の男である俺が引いてやるよ。


 まったく、相変わらず歳だけ無駄に喰ったガキンチョババァである。




「そ、それよりも、どうして私は過去に戻れたのでしょうか? ホームズさんの話だと過去に戻れるのはホームズさん1人だけのハズですよね?」

「むっ? あぁ、それについては簡単に推測が立つ。おそらくワトさんは巻き込まれたんじゃよ」

「巻き込まれた? ホームズさんの能力に、ですか?」




 うむ、といつもの調子を取り戻したババァがコクリと首肯した。




「おそらく肉体が融合してしまったことでホームズとワトさんの自我の境界線が曖昧(あいまい)になったのじゃろう。故に2人で1つの個体と認識したホームズの能力がワトさん諸共過去へ飛ばした可能性がある。……まぁ推測じゃがな」

「そんなことありえるのかよ、ババァ?」

「分からん」




 お手上げじゃ♪ とばかりに可愛く肩を竦めながらペロッ! と舌を出すロリババァ。


 おい、やめろ? 可愛い子ぶるな? (とし)を考えろババァ? 張り倒すぞ?




「わ、分からないって、そんなテキトーな……」

「しょうがないじゃろうが。人間族の超能力はブラックボックスの塊じゃぞ? 魔法と違って解明出来ていない部分が多すぎる、正直ソレっぽい理由を挙げてはみたが、果たしてコレが正解なのかどうもか怪しい」




 いやぁ興味深いのぅ! と瞳をキラキラさせながら俺とワトさんを交互に見返すババァ。


 あの目はワトさんがもう1度過去へ飛べるのか検証したくて(たま)らない顔だ。




「果たして今回限りの特別な1回なのか、それともホームズの能力が拡張したのか、ぜひとも検証せねばならんのぅ! どれ、まずは手始めに腕が融合していた状態に近い状態で再現してみるか! ホームズよ、ワトさんの手を掴んでちょっと過去へ飛んでみよ。時間は5分前で構わん。それから――」

「待てババァ。色々と実験したい気持ちがデカいだろうが、今は無理だ。戻ったばかりで能力が使用できん。諦めろ」

「むぅ……そうであったのぅ」




 残念じゃ、とガックシ肩を落とすババァ。


 悪いな婆さん? これ以上年寄りの道楽に付き合ってやれるほど、俺達には時間がないんだ。




「そんな事よりも依頼の報告だ。ババァの探していた吸血鬼だがな、ウラギールの能力でキメラにされていたぞ。場所はさっきも話したが倉庫街の10番倉庫。培養液の中で保管されていたから生きてはいるらしいが、正直あの様子だと『ただ生きている』だけっぽいな」

「むむむ……そうか」




 ババァが難しい顔をして小さく唸る。


 さて、これにてババァから与えられた任務は完了だが……そうも言ってられんわな。




「一応ババァの依頼は達成したが、このままだと王子の記憶を取り戻す薬は手に入らねぇよなぁ」

「うむ、申し訳ないがそうなるのぅ」

「えっ!? ど、どうしてですか!?」




 約束が違いますっ! と慌てた様子でババァに食い下がるワトさん。


 そんなワトさんにババァは申し訳なさそうに表情を歪め。




「すまんのぅ、ワトさん。エリクサーを作ってやりたいのは山々なんじゃが、材料がないんじゃよ」

「材料が……ない?」

「忘れたのかワトさん? そもそも俺達がババァの依頼を受けたのは、エリクサーを作って貰うほかにエリクサーの素材を持っている吸血鬼の居場所を探るためだ」




 そこまで口にしてワトさんも思い出したようで「あっ!」と小さく声を漏らした。




「エリクサーの素材を持っていた吸血鬼はウラギールによりキメラにされた。つまりもうエリクサーの素材は手に入らない」

「そ、そんなの分からないじゃないですかっ! キメラにされても吸血鬼さんの意識が残っていて、エリクサーの素材を譲って貰えるかもしれませんし、救出してみましょうよ!」

「仮に救出したとしても、あのキメラは培養液の中でしか生きられない。そして培養液の中では意識を(たも)つことはない。つまりどうあがいてもエリクサーの素材は手に入らない」

「いやっ! でもっ!? ……うぐぅぅぅ~~っ!?」




 反論の言葉が思い浮かばないのか、ワトさんはギュッ! と唇を浅く噛みしめ俯いてしまう。


 気持ちは分からなくもない。


 なんせ1年かけてようやくたどり着いた王子の記憶を取り戻す手がかりが、意味不明な悪意と理不尽によって打ち砕かれようとしているのだから。


 そりゃ悔しいわな。




「そ、そうだ巻き戻しっ! ホームズさんの能力で時間を巻き戻して、吸血鬼さんが元気だった頃に戻ればっ!?」

「ババァ、その吸血鬼が行方不明になって何日経った?」

「……軽く2週間じゃな」

「2週間か……悪いがワトさん、俺の能力じゃ例の吸血鬼は助けられない」




 ワトさんの顔は絶望に染まる。




「ど、どうして……?」

「純粋に俺の能力範囲外だからだよ。忘れているみたいだからもう1度説明するが、俺の能力は24時間以内であればどの時間軸の過去にも戻れる能力だ。逆に言えば24時間しか巻き戻れない。ごめんな? 俺の能力は無敵じゃねぇんだ」

「そんな……」




 ワトさんの目尻から一筋の涙が零れる。


 ……希望が打ち砕かれる瞬間を見るのは、何度見ても良い気分がしないな。




「すまんな、ワトさん。これも運命だと思って受け入れてくれい」

「…………」




 ババァの言葉に返事を返すことなく、ペタンッ! とその場に崩れ落ちるワトさん。


 その瞳からは目の焦点が消え、どこまでも暗い闇が広がり始めていた。


 ……正直、見るに堪えんな。


 俺はワトさんから視線を切り、ババァに意識を向け直す。




「一応聞くが、ババァの持っている最後のエリクサーをくれるというのは?」

「無理じゃな。渡してやりたいが、一応コレはドイルの形見でもあるからな」

「そうか」




 じゃあ仕方がない。


 ババァはドイルを愛していたからな、異性として。


 アイツの形見ならどれだけ金を積まれようと渡さんだろうよ。


 これで本当に一縷(いちる)の望みを消えたワケだ。




「と、なると俺達に残された道は1つだけか」




 まったく、世話の焼けるお嬢様だ。


 俺は心の中で苦笑しながら、感情が抜け落ちた無表情で床を見つめるワトさんに声をかけた。




「絶望しているところ申し訳ないがワトさん、仕事の時間だ」

「…………」

「仕事内容は単純明快、あのキメラにされた吸血鬼を助けてエリクサーの素材を入手するぞ」

「……えっ?」




 ワトさんの身体がピクンッ! と震える。


 暗闇が広がっていた瞳に少しだけ光が戻り、呆然とした顔で俺を見上げてくる。


 そんなお嬢様に俺は満面の笑みを浮かべて言ってやった。




「さぁ、やり直しだ!」

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