第18話 ラーニング完了
ワトさんの右腕と俺の右腕が半分ずつ融合するように混ざり合ってから30分後の倉庫街の10番倉庫にて。
俺はキメラの入った数多の培養液に見守られながら、この30分で得た見識をワトさんと共有していた。
「よし、大体分かった」
「何がですか?」
「もちろんあのスーツ姿の男、ウラギールの能力だよ」
俺は不貞腐れたような表情を浮かべるワトさんにも見えるように、彼女と融合してしまった左腕を見せる。
まるで最初から1つの肉体だったかのように綺麗に融合した俺とワトさんの腕。
この腕がかなりのヒントを俺達に与えてくれた。
「あの人の能力、ですか?」
「おう、元に戻る前にワトさんには伝えておこうと思ってな。……まぁ意味のないことだとは思うが、一応な」
「えっ? えっ!? も、元に戻れるんですか、コレ!?」
本当にっ!? と先ほどとは打って変わって猛烈な勢いで俺に詰め寄ってくるワトさん。
その瞳はキラキラと未来への希望に輝いていて……現金な女性は嫌いじゃないぜ?
「おう、最終的には元に戻れる。まぁあのウラギールの野郎が思い描いていた道筋とは違う方法だが、な」
「??? どういう意味ですか?」
「それを話すにはまずウラギールの能力について話さないとな」
そう言って俺はこの30分の見識で得た1つの推論をワトさんに語り始めた。
「ヤツの能力はおそらく原子融合だ」
「げんし、ゆうごう?」
「簡単に言えば物質と物質を1つに合わせる超能力ってことだな」
バカみたいな具体例を出すのならアレだ、メロンソーダにコーラを混ぜるみたいなモンだ。……あれメッチャ美味いんだよなぁ。
ヤベ、思い出したら飲みたくなってきた。
この仕事が終わったら飲みに行こっと♪
「いやぁ、それにしても危なかったなぁ? もし俺がヤツの能力を妨害していなかったら、今頃俺とワトさんはこの培養液のキメラと同じように完全に一体化していた所だぞ?」
「この培養液の人達のように……うぅっ!?」
ブルリッ!? とワトさんが青い顔を浮かべて身体を震わせる。
俺と一体化する想像でもしたのだろうか?
まったく、俺のようなイケてるダンディーな男と1つになれるだなんて、幸せなレディーである。……あっ、1つになるって言ってもエロい意味じゃないからね? セクハラとかで訴えないでね?
「お、恐ろしい能力ですね?」
「まったくだ。しかも俺の見解だと、この能力はウラギールにしか解除できない」
「ということは、これからあの人を探すんですか? ……この状態で?」
嘘ですよね? と俺達の繋がった腕をこれみよがしに見せつけるように動かすワトさん。
俺はそんなワトさんを安心させるように、ダンディーな笑みを顔に張り付けた。
「安心しろ、そんな事はしない」
「ほっ……良かった。こんな状態で街を歩いていたら晒しモノもいいところですもんね?」
「まぁそれ以前にもう2度とウラギールが俺達の前に現れないっていうのがデカいな」
「……えっ?」
安堵の吐息を溢していたワトさんの表情がピシリッ!? と固まる。
どうしたのだろうか?
「に、2度と現れない? あの人が?」
「あぁっ、もう俺達の前には絶対に姿を現さないだろうな」
「ど、どうしてですか!?」
どこか焦った様子でワトさんが俺に詰め寄る。
いや、どうしても何も、ちょっと考えたら分かることだろうに?
「顔も能力も割れているんだ、身の安全を考えて普通なら地下に潜る。俺ならそうする」
「地下に潜る?」
「要するに姿を眩ませるってことだ」
「そ、そんなっ!? それじゃどうするんですか、この腕!? も、もしかして一生このままですか!?」
「待て待て、落ち着け? 慌てるな? ちゃんと元に戻る算段はついてるから」
パニック寸前に陥りかけたワトさんを諭しつつ、俺は意識を自分の内側へと向ける。
……うん、大丈夫だ。
能力はいつも通り使えそうだな。
「ぐすん……。ほ、本当ですか?」
半分泣きの入ったワトさんが縋るような視線で俺を見上げてくる。
この子も大変だよなぁ。許嫁が記憶喪失になったかと思えば婚約を破棄されて、そのうえ殺し屋に命を狙われた挙句こんなダンディーなイケメンお兄さんと腕が一体化するだなんて……最後のはご褒美か。
まぁナニはともあれ、ここらで一発ガツンッ! と本気で安心させてやるか。
それに丁度いいタイミングだし、ワトさんの疑問に答えてやるとしよう!
「ワトさんよ。実は言ってなかったんだが、俺は能力者だ」
「ぐすん……知ってます。『未来を視る』力と『氷を自由自在に操る』力ですよね? 私、多重能力者なんて初めて見ました――」
「残念、それはワトさんの勘違いです」
えっ? と呆けた声をあげるご令嬢に俺は続けた。
「俺は多重能力者ではありません。俺の能力は今も昔も1つだけです」
「で、でも実際に能力を2つ使って――」
「それにはカラクリがあるんだよ。俺の能力は至ってシンプルさ」
そう言って俺は秘匿としてきた己の超能力をワトさんに語った。
「時間遡行、それが俺の能力だよ」
「じかん、そこう?」
「まぁ簡単に言えば今の自分の意識を過去に飛ばせるってことだな」
「自分の意識を過去に?」
そう、と俺は小さく首肯しながら生まれ持ってしまったこのヘンテコな力――時間遡行についてワトさんに説明した。
「現時点から数えて24時間以内であれば好きな時間帯の過去に意識を飛ばすことが出来る力。ただし使用後は巻き戻した時間分のクールタイムが必要で連発は出来ないっていう制約があるけどね」
つまり10時間前に巻き戻れば、その後10時間は能力を使用することが出来なくなる。
が10時間経てばまた能力が使用可能なので、実質的にやろうと思えばその日を何度もリープことが出来る。
正直に言えば刑事にとってはまさに理想的すぎる能力だ。
「まぁなんでこんな能力を生まれ持ってしまったかは分からんが、今はその力を有効活用させて貰おう」
「それって、つまり!?」
「うん、今から能力を使ってウラギールが俺達の腕をくっつける前の過去に戻る。これで腕の件は解決だ」
「す、すごいっ! 凄い能力ですよ、ホームズさん! 過去に戻れるだなんて無敵の能力じゃないですか!?」
「アッハッハッハッハッ! そうだろう、そうだろう!」
すごいっ! すごいっ! と手放しで俺を褒めるワトさん。
クリスティーナの時にはなかった反応なので、なんとも嬉しい。
本当に良いリアクションをしてくれるお嬢様だ。
「それじゃさっそく過去に戻るとしようか?」
「はいっ、お願いしますっ!」
「うん、いい返事だ」
俺は自分の体内に意識を向け直し、静かに力を練り始める。
巻き戻す時間は……ババァに依頼の話を持ち掛けられる直前でいいか。
ということは大体……18時間前ってところか。
カチカチカチカチッ! と体内時計の針を逆方向に回すイメージで目的の時間軸を定める。
……よし、準備は出来た。
「あっ、ちなみに過去に戻れるのは俺だけで、この時間軸のワトさんとはここでお別れね」
「……えっ?」
「だから今話した内容も、ウラギールとの出来事も全部忘れちゃうけど、心配しないで? ちゃんとコッチで解決しておくから」
「えっ? えっ!? ちょっ、ホームズさん!? 待って――」
「さぁ、やり直しだ」
慌てるワトさんを無視して俺が時間遡行の解号を口にした瞬間、
――ブツンッ!
とテレビの電源を無理やり落としたような音と共に、俺の意識は闇へと落ちていった。




