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ヒロインはもう死んでいる!?~聖女ワトソンとオッサン探偵ホームズの事件簿~  作者: おさんぽミルク
メインヒロインはもう死んでいる!?

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第16話 チープなスリル

 ダークエルフの男に導かれ、右に左にと路地裏を進むこと10分。


 俺とワトさん、そして猫獣人とドワーフのカップルたちは開けた場所へと案内されていた。




「ちょっとここで待っていろ」




 ダークエルフの男は愛想なくそう告げると、近くの扉の中へと消えていく。




「荷物でも取りに行ったんでしょうか?」

「いや、なんかそういう風な感じには見えなかったが……」




 ワトさんの言葉を軽く否定しつつ、俺は念のため情報収集として猫獣人のカップルの男に声をかけた。




「一体どんなバイトをさせられるんだろうな。知ってる、お兄さん?」

「さぁな、知らねぇ。まっ、金さえ貰えれば何でもいいがな」

「そりゃごもっともだ。だが、どうにも俺は少し身の危険を感じるんだよなぁ。だって考えてもみろよ? 2時間ばかし働いて10万円だぜ? 割りが良すぎるだろ? 何か悪い犯罪に巻き込まれるんじゃないかと内心ヒヤヒヤしてるぜ」

「なら辞めちまえ。止めねぇから」




 そしたらオレがお前の分まで働いてもう10万貰うだけだ、と不敵に微笑む猫獣人のダンナ。


 そんな単純な話しじゃないと俺は思うんだがねぇ。


 このダンナ、楽して金が貰えるなら全力で楽するタイプとみた!


 多分オツムの方はあまりよろしくない感じだな。




「ソッチのイケてるドワーフのカップルさんはどう思う?」

「話しかけるな、人間風情が」




 ジロリッ! と鋭く男のドワーフに睨まれる。


 おぉ、怖い、怖い。


 このドワーフ、人間嫌いかよ。


 ロクなヤツが集まってないな? ……まぁロクなバイトじゃないからだろうけどさ。


 なんて事を考えていると、ダークエルフの男が消えた扉の奥から違う男がゾロゾロと出てくる。


 その数、およそ10人。


 10人はカタギとは思えない殺気を身体中から発散させながら、俺達を取り囲むようにグルリッ! と展開すると、手に持っていた鉄パイプを目の前で構えた。


 途端にイケイケゴーゴー系の猫獣人の旦那が男達を威嚇し始める。




「なんだぁ!? なんのつもりだテメェら!?」

「これから二次面接を行う」

「二次面接じゃと? そんなモノ聞いとらんぞ?」




 不愉快そうにドワーフの男が眉根をしかめる。


 そんなドワーフの男に鉄パイプを持った男たちのリーダーと思われる野郎が「今伝えた」と飄々とした様子でそう告げた。


 するとドワーフの男は激昂したように声を荒げ、男達の方へと詰め寄る。




「そういう問題――ウガッ!?」




 ――ガキンッ!


 近づいてきたドワーフの男の顔面を容赦なく鉄パイプで叩く男たち。


 瞬間、ドワーフの男の彼女とワトさんが「ひぃっ!?」と小さく悲鳴をあげた。


 ドワーフの男はその頑丈さで一撃を耐えると「こんのっ!?」と男たちに殴りかかろうとして、鉄パイプでタコ殴りにされていく。


 いくら強靭な肉体を持っているドワーフでも、これだけタコ殴りにされたら流石にどうしようもないらしく、もはや顔面の形すら変わるほどのダメージを受けて、冷たいコンクリートへと倒れた。


 その様子を見て、流石の猫獣人のダンナもビビったのか「な、何してんだよお前ら!?」と焦った声をあげた。




「面接だ」

「面接? これが?」




 青い顔を浮かべてガタガタと震える猫獣人のダンナの代わりに、俺はドワーフの男を一瞥しながら鉄パイプの男に声をかけた。


 男は「そうだ」と特に焦った様子を見せることなく、ドワーフの男の顔を蹴り飛ばす。




「この仕事にはある程度の腕が必要だ。ソレを今からテストする」

「つまり、アンタらを倒して無力化しろと?」

「その通りだ」

「そ、そんなこと聞いてねぇぞ!?」




 猫獣人のダンナが青い顔を浮かべて吠える。


 そんなダンナの言い分を「今説明した」と(うそぶ)いて軽くスルーしてみせる鉄パイプの男。


 チッ、ババァめ? 面倒な仕事を押しつけてきやがって……。


 心の中で悪態を吐きながら、俺は「ほ、ホームズさん……」と不安気な声をあげるワトさんの頭をワシャワシャと撫でまわした。




「うわわっ!?」

「そう心配すんな。ワトさんの身はちゃんと守るよ」




 仕事だしな、と心の中で付け加えつつ、俺はコートに擬態している7号に命令を飛ばした。




「起きろ【|色欲《アスモデウス】ッ!」




 瞬間、液体状になった7号が俺の両こぶしへと移動し始める。


 やがてパキパキと形を変え、黒のグローブへと姿を変えるなり、周りにいた男たちが警戒するように鉄パイプを俺の方へと構え直した。




「お前……能力者か?」

「どうかな? 7号、カウントダウン・スタートッ!」

『了解、カウントダウンを開始します』




 俺の合図と同時にグローブに擬態した7号から無機質な声音が路地裏へと響く。


 それとほぼ同時に鉄パイプを持った男たちが一斉に襲い掛かってくる。




「こりゃありがたいねぇ。敵さんが向こうから来てくれやがったわ」

『30、29、28――』

「ほ、ホームズさんっ!」

「大丈夫」




 俺は掌に薄い強靭な氷の膜を張りながら、顔面めがけて振り下ろされた鉄パイプをガッシリと掴む。


 途端に俺の掌を起点に、鉄パイプを持っていた男の身体にパキパキと氷が走り、1秒にも満たない時間で顔を除き氷漬けになる。




「こ、これはっ!?」

「氷の超能力かっ!」

『23、22、21、20――』

「10秒経過に残りは9人……か。よし、ドンドンいくぞ?」




 俺は中途半端な距離で鉄パイプを構える男の肩へと手を伸ばす。


 男は『ヤバイッ!?』と本能で危険を察したのか、慌てて俺から逃げようとするが、もう遅い。


 俺の指先が男の肩へと触れた瞬間、


 ――パキパキパキッ!


 コンマ数秒の間で顔を除いた全身が氷漬けになった。




「大丈夫、殺しはしねぇから」

「17、16、15――」

「残り8人……は流石に時間が足りんな。仕方ない、アレやるか」




 俺に近づけば氷漬けにされるということが分かったせいか、逃げるでもなく、かといって攻め込んでくるでもない中途半端な位置で鉄パイプを構える男たち。


 残りの【氷結操作】の使用秒数を考えると、1人1人を相手にしている時間はない。


 ちょっとケガするかもしれんが、大技でキメるか。




『10、9、8――』

「ワトさん、俺が合図したジャンプしろ」

「えっ? じゃ、ジャンプですか? ど、どうして?」

「いいから」




 俺は地面のコンクリートに手を這わせると、一気に冷気を爆発させた。




「今っ!」

「ッ!」




 ワトさんがジャンプすると同時に爆発させた冷気を、俺を中心に周囲へ展開する。


 イメージは波。


 触れた瞬間、全身が凍結する絶対零度の風。


 ピシピシッ! とコンクリートに霜が走り、冷気に触れた肉体が一瞬で凍結する。


 気がつけば俺とワトさんを除く全員が、氷漬けになって気を失っていた。




「ヤバッ、獣人カップルは流石に残しておくべきだったか?」

『3、2、1――カウントダウン終了。【対能力者用試作兵器】7号モード色欲、使用限界時間に到達を確認。ただいまより3日間の冷却期間に入ります』

「あいよ、お疲れちゃん。それじゃ起きろ【【傲慢(ルシファー)】」




 液体状になった7号が再び黒のコートへと姿を変える。


 俺は7号に袖を通しながら、ワトさんの方へと振り返り彼女の無事を確認した。




「ケガないか、ワトさん?」

「……ほ、ホームズさんは【未来を視る】の能力者じゃなかったんですか?」

「んっ? どうした突然?」

「いや、この氷!? この氷はなんですか!? 私、聞いていませんよ!?」

「安心しろ、誰も死んでないから。氷が溶けたら目を覚ますよ」

「そういう事を聞いているんじゃありません!」




 目の前で氷漬けになっている男たちを見渡しながら、ワトさんが混乱したように声をあげる。




「これだけ強力な氷の能力を使う人、帝国でも見たことがありません!」

「俺も自分より強力な氷を使うヤツは見たことがないな」

「何を呑気なことを言っているんですか!? ホームズさん、アナタは一体何者ですか!? 複数の能力を持った人間なんて聞いたことがありませんよ!?」

「そんな事より、ちょっと派手に暴れ過ぎだよなぁ。二次面接、どうなるんだろ? もしかして中止か?」

「――それは心配ない」




 人の話を聞いてください! と荒ぶるワトさんを横目に、空へと批難していたダークエルフの男がゆっくりと俺達の前へと降りてくる。


 その瞳は氷漬けになった仲間たちへと向かっており、何故か薄っすら笑っていた。




「素晴らしい、合格だ。今回の仕事はお前たちに任せる」

「そいつはよかった。それで? そろそろ仕事内容について教えてくれよ」

「内容はお前も知っている。荷物の運搬だ」

「……冗談だろ? ホントにそれで10万なのかよ?」

「本当だ」




 ダークエルフの男はポケットから直径7センチほどのUSBメモリと、簡単な地図のようなメモを取り出して俺に手渡してきた。




「これを所定の場所まで運んで貰う」

「ハァ? なんじゃそりゃ?」




 俺は思わず渡されたUSBメモリから視線を切り、(いぶか)しがるような瞳でダークエルフの男を見た。




「こんなモン、バイトに頼らず1人でさっさと運べばいいだろうに」

「理由を話す必要はないな」




 余計な詮索はするな、と言外に言われる。


 やべぇ、キナ臭い仕事の香りがプンプンするぜ。


 ババァも面倒くせぇ仕事を寄越しやがって。




「無事に届けたら、金と引き換えにデータを渡せ」

「ぶ、無事に届けたら……ですか?」




 ワトさんの問いかけに「そうだ」とぶっきらぼうに答えるダークエルフの男。


 無事に届けたら……ね?


 それはつまり無事に届けられないこともあるってことか。


 あぁ~、ヤダヤダ。危険な匂いがプンプンしますわよ奥様?




「今日の午前4時までに終わらせろ」

「4時って……残り1時間ちょいじゃねぇか」




 俺の文句に取り合うことなく、男は飛行魔法を使用して夜の空へと消えて行った。


 男の姿が完全に見えなくなるのを確認するなり、ワトさんが「ホームズさん……」と俺の名前を呼んだ。




「このお仕事、ちょっとおかしくないですか?」

「おっ! ワトさんも気づいたか?」

「そりゃ気づきますよ。明らかにおかしいですもん」




 そう言ってワトさんは渡されたUSBメモリへと視線を落とし、キナ臭そうな顔を浮かべた。




「普通どこの誰かも分からない人達を集めて、自分たちの大切な情報を運ばせるなんてリスクは犯しませんよ」

「そりゃそうだ。こんなモン、さっさと自分たちでやっちまうべきだ」




 持ち逃げされるとは考えていないのだろうか?


 ……いや、違う。




「もしかして、このUSBには何もデータが入っていないのか?」

「??? どういう意味ですか、ソレ?」

「言葉通りの意味だよ。このUSBメモリの中身は(カラ)で、本命は俺達を目的の場所まで移動させることにあるんじゃないか?」




 俺は渡された地図へと視線を落とす。


 そこには『ここへ向かえ』と男の文字で雑に書かれた字と共に、倉庫街の見取り図が描かれていた。


 どうやらこの場所が所定の場所らしい。




「まぁここで悩んでも仕方がないし、とりあえず行ってみるか」

「えっ!? い、行くんですか!?」

「当然だろ。まだ目的の吸血鬼の居場所が分かってないんだから」

「でも、罠かもしれませんよ?」

「かもな。でも安心しろよ、ワトさん。ちゃんともしもの時の策は用意してあるから。それともここで諦めるか? その場合、ババァの依頼は失敗扱いになり、王子の記憶を取り戻す薬はもう手に入らんことになるが」

「も、もちろん行きますよ!」




 ここで諦めるなんてありえません! と勇気を振り絞ってそう口を開くワトさん。




「上等。それじゃ時間もないし、行くぞ?」

「は、はいっ!」




 俺とワトさんはパキパキと霜を踏み砕きながら、来た道を引き返して行った。

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