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ヒロインはもう死んでいる!?~聖女ワトソンとオッサン探偵ホームズの事件簿~  作者: おさんぽミルク
メインヒロインはもう死んでいる!?

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第10話 お嬢様とオッサン

「わ、私も連れて行ってください、写楽さん!」

「ダメ、不許可」

「え、えぇ~っ!? な、なんでですか!?」




 断られると思っていなかったのか、別嬪ちゃんの驚いた声が事務所へと木霊する。


 おぉっ、こんな品のない声も出せるんだ? 


 別嬪ちゃんの新しい一面、世界ふしぎ発見だぜ! とか心の中で茶化しつつ、俺のコートを握っている彼女の手を振り払う。




「いや、なんで逆について来れると思ったワケ? 絶対に連れていかんからな?」

「ど、どうしてですか!?」

「ちょっと考えれば分かることだろうが。お・ま・え・は・バ・カ・か?」




 自分のコメカミを指先でツンツン叩きながら全力で別嬪ちゃんを煽り散らす。


 途端に別嬪ちゃんは悔しそうに顔を真っ赤にしながら「くぅぅ~~っ!?」と小さく唸り、涙目で俺を睨み上げてきた。


 そんな目をされても俺の決意は変わらない。


 1人で行く、別嬪ちゃんは連れて行かない。




「流石は写楽先輩です。女性相手でも態度を変えないその姿勢、そこだけはマジで尊敬します」

「フェミニストなんてクソ喰らえよ!」




 クリスティーナの賞賛の声を湯水のように受け止めていると、今まで静観していたレイトン所長が「まぁまぁ」と間に割って入ってきた。




「僕からもお願いするよ写楽くん。ちゃんと説明してあげてくれるかな?」

「所長がやってくださいよ、分かっているんですから。そもそも、いつもならその手のやり取りは所長がしてくれるじゃないですか。その間に俺は情報を集めてきますんで」




 あとはよろしくっ! と所長と別嬪ちゃんを残して、今度こそ事務所を後にしようとして、


 ――むんずっ!


 2人揃ってコートに擬態している7号を握りしめた。




「そんな事言わないでさぁ~? 頼むよ写楽く~ん。ワトソンだって写楽くんから話しを聞きたいよね?」

「はい、叔父様ッ! 聞きたいですっ! お願いします、写楽さん!」

「うわっ、しつこい!? 親族揃ってしつこい!? 頑固の油汚れ並みにしつこい!?」




 俺はイクオに助け船を出して貰えるようにアイコンタクトを飛ばすが、イクオは我関せずとばかりに優雅にコーヒーを(たしな)んでいた。


 どうやら助けてくれる気は微塵もないらしい。


 クリスティーナに至っては何が問題なのかよく分かっていないようで「連れて行ってあげればいいじゃないですかぁ~。先輩のケチ」と呑気に野次を飛ばしてくる始末だ。


 もういいや、意地を張るのも馬鹿らしいし、さっさと説明して移動するか。




「……いいか別嬪ちゃん? 別嬪ちゃんを連れて行かない理由は1つ。それは別嬪ちゃんの身の安全を守るためだ」

「私の身の安全……ですか?」

「そうだ。考えてもみろ、襲撃者がバレル1人だけだと誰が決めた?」




 そこまで言えば流石に別嬪ちゃんも気が付いたようで、クリスティーナと同じく「あっ!」と声をあげた。


 そんな2人を無視して俺は言葉を重ねていく。




「もしかしたらバレルとは別の殺し屋が近くに潜んでいるかもしれない。その可能性がある以上、迂闊に別嬪ちゃんを連れまわすことは避けた方がいい。以上の理由から別嬪ちゃんの同行を拒否します、説明終わり」

「な、なるほど……。性根の腐った先輩のことだから、てっきりワトソンさんの悲しむ顔を見たいがためにイジワルをしているのかと思っていましたが、まさかちゃんと意味があったとは……驚きです」

「クリスティーナよ、そろそろお前、俺に怒られるぞ?」




 この貧乳ダークエルフはどうも先輩である俺への敬意が足りていないように思えて仕方がない。


 ここらで一発上下関係をハッキリさせておくべきか?


 あっ、一発って言ってもエロい意味じゃないからね? 俺の好みはケツとタッパのデカい女だから。こんなチンチクリンリンな女じゃありませんよ?




「いいか? この世界、刑事も探偵も警戒心を失った者から死んでいく。クリスティーナ、お前も長く刑事を続けたいのならこのことを肝に銘じておけ」

「せ、先輩が珍しくマトモなことを言ってる……」

「おい、返事はどうした後輩?」

「は、はいっ! 了解です、先輩っ!」




 ジロリッ! と俺に睨まれコクコクッ! と首を縦に振るクリスティーナ。


 とりあえずはこれで先輩の威厳は(たも)たれただろう。


 俺が一仕事終えて「ふぅっ!」と額の汗を爽やかに拭っていると、静かに俺の言葉に耳を傾けていた別嬪ちゃんが満を持して口をひらいた。




「……分かりました。確かに刺客が1人とは限りませんよね、写楽さんの言う通りです」

「よしよし、いい子だ。お兄さん物分かりがいい子は大好きだよ」

「フッ、お前に好かれたところで嬉しくもなんともないだろうがな」

「お黙りイクオッ! じゃないとテメェの唇を所長の唇で塞ぐぞ、あぁん!?」




 えっ、僕とばっちりでは!? と(おのの)くレイトン所長を横目に、俺は今度こそ事務所をあとにしようとして、




「では依頼しますっ!」




 別嬪ちゃんが先回りして俺の行く手を阻んできた。




「依頼ぃ~?」

「はいっ! 叔父様から聞きました、探偵は依頼を受けると報酬と引き換えに願いを叶えてくれると! だから写楽さんに依頼をお願いしますっ! 私を刺客から守ってください、そしてハロルド様の記憶を取り戻す方法を一緒に探してください!」

「つまり俺に護衛の依頼を頼みたいと?」




 はいっ! と元気よく頷く別嬪ちゃん。


 なるほどねぇ、よく考えたもんだ。


 確かに依頼なら俺は別嬪ちゃんの護衛として彼女を守るべく一緒に行動しなければならない。


 この一瞬でよくこんな手を思い浮かべたもんだ。


 俺の予想以上にこの別嬪ちゃんは案外(したた)かな性格らしい。


 だが、




「お断りしま~す♪」

「えぇっ!?」




 俺がその依頼を受けるかどうかは別問題だがな。




「ど、どうしてですか!?」

「どうもこうも所長の姪っ子を危ない目に遭わせるワケにはいかん」




 俺は1人の大人として毅然(きぜん)とした態度で別嬪ちゃんに言ってやった。




「レイトン所長は俺の恩人だ、その恩人の姪っ子を危険な目に遭わせることは絶対に出来ない。だから大人しく事務所で待ってろ。心配しなくても解毒薬の件はちゃんと聞いてくるから」

「ほ、報酬として私の手持ちの全財産を渡しますから! ……と言っても200万円しかありませんけど」

「同じことを何度も言わせるな! ――ついて来い別嬪ちゃん、俺が絶対に守ってやるから!」

「さっきと言っていることが違いますよ、先輩っ!?」




 クリスティーナが『正気かテメェ!?』と驚きに満ちた目で俺を見てくる。




「警戒心はどこへ行ったんですか!?」

「いいかクリスティーナ、肝に銘じておけ。この世界では警戒心が強い刑事は成功しない、時には危険と分かっていても踏み込む勇気が必要なんだ」

「さっき銘じた肝と180度違う!?」




 このテキトー男めっ! と俺を罵るダークエルフ後輩を無視して、俺はレイトン所長へと視線をよこした。




「そんなワケで所長、姪っ子ちゃん連れて行きますね?」

「もぉ~、ケガだけはさせないでよぉ~?」

「了解で~す。よし行くぞ別嬪ちゃん、ついて来い!」

「は、はいっ!」




 パァァァッ! と顔を輝かせて俺のあとをヨチヨチついてくる別嬪ちゃん。


 まるで2年前この事務所のドアを叩いたクリスティーナのようである。


 俺はほんのり懐かしい気分に浸りながら、今度こそ事務所をあとにするべく別嬪ちゃんと共にドアを潜った。

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