表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/37

3(マリアの死)

❖同日二十一時/メギドヶ丘学園・校舎裏/来栖(くるす)


 待っている間に、来栖は準備を終えた。

 一度家に帰って、シャワーを浴びて、昔マリアに選んでもらったワイシャツとカーディガンとチノパンに着替え、マリアから贈ってもらった指輪を薬指に嵌めて、バックパックを背負った。


 家を出るとき、ブレーカーを落とした。


 それから、コンビニやATMを渡り歩いて全財産を引き出し、バックパックに詰め込んだ。

 すべてを終えてメギドヶ丘学園の校舎裏に向かうと、すでにマリアが来ていた。


「今さら、何」


 マリアが開口一番、刺してくる。

 だが、来栖はめげない。

『覚悟』はすでに決まっていた。


「その、聞いた。結婚するって」

「うん。親戚の人。傍系だけど、魔力総量も魔力操作量も、ボクより上なの」

「マリアより強い術師がいるなんて」


 やはり、決闘を仕掛けるのは無謀だ。

 だから来栖は、その『覚悟』を口にした。


「逃げよう、マリア。そのためのお金は貯めてきた。ほら、三百万ある」


 そう、そのためにお金が必要だったのだ。

 マリアと駆け落ちして、阿ノ玖多羅家から逃げ続けるための資金が。

 来栖はマリアの手をぎゅっと握る。


「海外で暮らすための方法も考えてきた。準備は全部できているんだ」


 マリアが三百万円を見て、それから、


「…………………………………………は?」


 と言った。


「ま、マリア?」

「どうして?」


 マリアが頭をかきむしる。


「どうしてそれを、三年前のあの日、言ってくれなかったの? ボクがどれほど悲しかったか、キミに分かる? ボクは絶望して、絶望して、三年かけてたっぷり絶望して……けれど、いい加減、絶望するのにも疲れて、最近になってようやく心に折り合いをつけることができたんだ。だからこうして、結婚の話も受け入れた。なのにキミは、今さら何?」

「でも僕は――」

「僕、僕、僕! 弱い男なんて大っ嫌い。高一にもなって、まだ分からないの? 阿ノ玖多羅家の力は全世界に及んでいる。駆け落ちなんてしても、隠れおおせる場所なんて世界のどこにも存在しない。さよなら、来栖くん。ボクの、最高最強『だった』幼馴染」


 来栖は打ちひしがれる。

 決定的に嫌われてしまった、と思った。

 いや、マリアの中では、来栖はすでに過去の存在になっていたのだ。


 マリアが去っていこうとする。

 が、不意に振り向いた。

 目を見開いている。

 マリアが、来栖の足元を見ている。

 つられて、来栖も見た。


 来栖の足元に、蛇がいた。

 それも、一匹や二匹ではない。

 来栖の足元を埋め尽くす量の蛇が、ひしめき合っていた。

 明らかに自然現象ではなかった。


(この感じ……西洋魔術!?)


 次の瞬間、蛇たちが寄り合わさって大蛇になった。

 無数の歯が生えた口を開いて、来栖を食い殺そうとしてくる!


「逃げて、来栖くん!」


 そのとき、信じられないことが起きた。

 マリアが、来栖の体を押したのだ。

 来栖の代わりに、マリアが蛇に呑み込まれた。

 マリアが、来栖をかばったのだ。


「マリア⁉」


 脚から呑み込まれたマリアの、左手。

 来栖をかばったその左手が、大蛇に食いちぎられる。





 ぶち、

   ぶち、

     ぶち、

       ぶち、

         ぶち。





 マリアの五指が弾け飛び、薬指に巻いていた絆創膏が剥がれた。

 中から現れたのは、シルバーの指輪。

 来栖が小学校のころに、全財産をはたいてマリアに贈った婚約指輪だ。


(隠してまで指輪をしていた? なんで? 嫌われていたんじゃなかったのか? 見捨てられたんじゃなかったのか?)


 マリアの指輪が転がってきて、来栖の爪先に当たった。

 来栖は本気の悲鳴を上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ