6(ラストバトル)
❖同刻/阿ノ玖多羅邸上空/マリア❖
「ボクに考えがある。一分だけ、一人で持ちこたえてもらえる?」
コクリとルーシャは、無類の攻撃力を誇る強者だ。
そんな両者を来栖一人に任せるのは、正直言って不安だった。
果たして来栖は、
「誰に向かって言ってるんだ?」
と、強めの笑みで返してくれた。
「くぅ~~~~っ」
マリアはもう、たまらない。
「最っっっっ高だよ、来栖くん!」
マリアは結界の頂点まで急上昇。
「【全知】!」
天使流の索敵術式を使って、父を探し出そうとする。
父が敷地内にいるのは間違いないが、詳細な居場所までは見つけられなかった。
(おかしいな。【文殊慧眼】の上位互換、神級魔術のはずなのに)
使い慣れていないからか。
もしくはシンプルに、マリアが索敵や鑑定のような繊細で退屈な作業を苦手としているからか。
(たぶん、違う。父さんは臆病な人で、隠密や隠蔽の魔術が得意な人だったから。なら、直接探し出すまでだ)
マリアは降下して、人が歩く高さで飛び回る。
あたりには阿ノ玖多羅家の術師たちがひしめいており、こちらに気づいた者が攻撃してくる。
が、マリアは【私はよき羊飼い】で相手を押し流していった。
大半は顔見知りの人たちだ。
操られてのことでもあり、殺すのは忍びない。
(考えてもみれば、ボク、十八年もここで暮らしていたんだ)
すっかり崩壊してしまった家屋の間を飛び回る。
感慨深くはある。
だが、名残惜しいとは思わなかった。
果たして父は、客間の一つに隠れていた。
「父さん」
「……マリアか」
諦め果てた笑顔で、父が言った。
「大きくなったなぁ」
父の手には、写真立てがあった。
父が書斎に飾り続けていた、幼稚園時代のマリアの写真だ。
「さようなら、父さん。【光あれ】」
❖ ❖ ❖
❖同刻/阿ノ玖多羅邸跡地/来栖❖
来栖がコクリとルーシャを一人でさばいていると、牙王が参戦してきた。
「どうした、牙王?」
「操られていた術師たちが、正気を取り戻したンだよ」
(マリア、やり遂げたのか)
「貴様ぁああああっ!」
コクリが斬りかかってきた。
来栖は【マレブランケ】で牽制しつつ、コクリに【ケルベロス】を叩き込んだ。
決まれば相手の腹を食い破り、相手が生物ならば確実に殺せる凶悪な魔術だ。
だが、コクリに【ケルベロス】は効かない。
彼を守るオーラに変じていた管狐たちが、即座に受肉して盾になるからだ。
今も、哀れな管狐が一匹、腹を食い破られて死んだ。
地獄級魔術一発で、管狐を一匹。
収支に合わない小さな戦果だ。
(けど、問題ない)
そう、問題ない。
今の【ケルベロス】は、コクリの意識をこちらに向けさせるためのものだったからだ。
そして目論見どおり、コクリは今、来栖に集中している。
「【神は言われた・光あれ・と】!」
頭上で、極大の魔力反応。
マリアの得意技が、コクリ目がけて降り注ぐ。
「ぐあぁああああああああああああっ!」
熱光線が管狐たちのオーラをも貫き、コクリの顔面を焼いた。
「【エクストラヒール】!」
だが、コクリが呼吸困難に陥る前に、ルーシャが上級治癒魔術でコクリを癒やしてしまった。
(構うもんか。あとはもう、力押しだ!)
来栖の【プレゲトン】、マリアの【光あれ】、そして牙王の圧倒的大質量による物理攻撃。
来栖たちの飽和攻撃で、コクリは今や防戦一方。
ルーシャもまた、コクリを回復するので手一杯の様子だ。
もはや状況は決した。
来栖たちの勝利だ。
コクリが空へと逃れた。
あの、プライドの高いコクリが退いたのだ。
「くそくそくそっ」
コクリが頭をかきむしる。
「こんなところで身共の覇道が潰えるなど、あってはならない! ルーシャ、完全召喚だ」
「そんなことしたら、僕様ちゃんが二度と元の姿に戻れなくなっちゃう!」
コクリの隣で、ルーシャが泣き叫ぶ。
『魔王召喚には二段階あるの。力を大幅に抑えた「半召喚」と、すべての力を開放した「完全召喚」』
来栖は、数日前にマリアに教えてもらったことを思い出していた。
(ルーシャの完全召喚は、不可逆性なのか)
来栖は迷う。
(どうする、妨害するか? けど、仲間割れしてるみたいだし)
「それがどうした」
「僕様ちゃんと一緒に世界征服したいって言ってくれたのは嘘だったの!?」
「嘘ではない。完全召喚状態になろうが、お前はお前だろう」
「やだやだやだ! 完全召喚状態になっちゃったら、力が増大する反動で、自我が失われちゃうんだよ!?」
「いいから、やれ」
(力が増大!?)
来栖は慌てる。
「マリア、妨害する――」
「いやだぁああああああああああああああああああああああああああっ!」
ほんの数秒の迷いが命取りになった。
泣き叫ぶルーシャが数秒のうちに肥大化していき、醜い巨人へと姿を変えた。
「【光あれ】!」
「【プレゲトン】!」
来栖たちの魔術は、巨人に傷一つ負わせることができなかった。
来栖とマリアは巨人に拘束され、呑み込まれた。




