5(力を蓄える来栖)
❖同日日中/神戸鎮台・射撃訓練場/来栖❖
「おー、上手いじゃないですか」
十メートル先の的に弾を当ててみせた来栖に対し、千晶が称賛を送った。
来栖は照れる。
手にした第七旅団正式兵装『南部式自動拳銃』にセーフティロックをかけるのも忘れない。
「ええ、まぁ。中一の冬まではメギドヶ丘学園にいたもので」
「中一から射撃訓練を?」
「いえ、小学四年生から」
「天才児じゃないですか!」
「……昔の話ですよ」
「ともあれその腕前なら、『エンジェルバレット』も問題なく扱えるでしょう」
千晶が懐から小さなケースを取り出した。
『天使弾実包』と印刷されている。
ケースの中に入っていたのは、銀の弾丸だ。
「今からこれに、魔力を注ぎ込みます。ですが、私は魔力が少ないので――」
千晶が背後を見た。
そこに、背後霊のようにピッタリと張り付く少女がいる。
麦わら帽子の少女が、警戒中の小動物のような目で来栖を見ている。
「ほら、自己紹介しなさい」
少女が消え入りそうな声で、「……咲」と言った。
「よくできました。じゃあ咲、一本もらいますね」
千晶が、黒い手袋をした左手で咲の尻に触わった。
八本の尻尾のうち一本が消える。
一本分の魔力を千晶が吸い取ったということなのだろうか。
「ひゃんっ!? 馬鹿っ、変態っ、セクハラっ、千晶っ!」
真っ赤になった咲が、千晶に強烈なローキックを叩き込む。
それから、プリプリしながら射撃場から出ていってしまった。
「AHAHA。可愛いでしょう? 自慢の義妹なんです」
(こ、この人、平然とセクハラしてるっ)
「あの子は捌岐家の直系なんです。ご存知です、捌岐家? 護国拾家の八番目、ヤマタノオロチを封じている家なんですけど」
「あっ、もしかしてあの尻尾って」
「はい。蛇の頭ですね」
霊感が弱まっているせいで、来栖はぼんやりとしか視えていなかったのだ。
「あの蛇がしょっちゅう魔力暴走を起こすせいで、咲は学校にも通えなくて。不憫な子なんです。まぁ、今は私がそばにいるから大丈夫なんですけど」
千晶が、薄っすらと光り輝く左手でエンジェルバレットを握りしめた。
「【御身の手のうちに・御国と力と栄えあり・永遠に尽きることなく――AMEN】」
メギドヶ丘学園の生徒が教えられる、最も基本的なエクソシズムの詠唱だ。
尻尾一本分の魔力が弾薬に注ぎ込まれた。
「撃ってみてください。反動がものすごいんで、くれぐれも気をつけて」
「は、はい。痛っ!?」
渡された実包は、触れただけでも来栖の霊体に痛みを生じさせた。
とんでもない威力だ。
来栖は拳銃から弾倉を外し、エンジェルバレットを弾倉に装填し、その弾倉を拳銃に装填した。
スライドを引くと、今現在装填されていた弾薬が薬室から放出され、エンジェルバレットが薬室に装填される。
飛び出した未発泡の弾薬は、器用に空中で受け止めた。
「いやぁ、本当に手慣れてますね! プロ顔負けじゃないですか」
「そんな、はは」
来栖は足をしっかり踏ん張って、的を狙った。
「いきます」
引き金を引いた。
その瞬間、部屋に太陽が現れた。
太陽かとみまごうほどの巨大な光の槍が銃口から射出され、的を消し飛ばし、数百メートル先の壁に大穴を開けたのだ。
「AHAHAHAHA!」
千晶が腹を抱えて笑っている。
「あーあ、やっちゃった。あの大穴を直すのに何百万円かかることやら」
「なっ、なぁっ!? 撃てって言ったの、千晶さんですよね!?」
「私は『撃ってください』とは言いましたが、『エンジェルバレットを』とは言ってませんよ。じゃ、あとはよろしく」
千晶が逃げ出す。
来栖は拳銃のセーフティロックをかけてから、慌てて千晶を追いかける。
廊下に出た。
「やーいやーい、鬼さんこちら」
(こっ、この人、いい性格してるな!?)
音を聞きつけた第七旅団員たちが駆けつけてきて、千晶の顔を見るなり『あぁ、またこいつか』という顔をする。
彼が起こす騒ぎに、慣れっこになってしまっているのだ。
来栖は千晶を追いかけるが、旅団員の間をスイスイ避けて走る千晶があまりにも素早くて、追いつけない。
「こっ、このっ」
苦肉の策で、靴を脱いで投げつけた。
「おっと」
後ろにも目が付いているのか、千晶がノールックで来栖の靴をキャッチした。
そのままクルリと振り向いて、来栖に靴を差し出してくれる。
「はぁっ、はぁっ……捕まえましたよ」
「どうです、少しは元気出ました?」
「……え?」
言われて初めて、来栖は自分が笑っていることに気づいた。
「あ、えっと」
全力疾走したせいか、気持ちがスッキリしている。
さっきまでマリアやコクリのことでうじうじ悩んでいたのが、嘘のようだ。
「コクリ討伐隊へのご同行、お願いしますよ?」
「いや、それは」
「このくらい威力のある攻撃を連発できるのだと考えたら、阿ノ玖多羅コクリが相手でも勝てそうな気がしませんか?」
「で、でも僕は……」
「あーあ、あの壁の補修費用、いったいいくらになるのかな~。討伐戦に参加してくれたら、謝礼金でチャラにしてあげられるのに」
「うぐっ」
ひどい大人だった。




