2(来栖の受難)
❖同刻/ひと気のない公園/来栖❖
その言葉を聴いたとき、来栖は気が狂いそうになった。
「マ……リ……ア……」
コクリに促され、マリアが去っていく。
彼女の背中に、コクリの手が添えられた。
来栖はありったけの感情を込めて、その手を睨む。
マリアが、ふらついた。
「まだ、魔力が十分ではなかったかな?」
コクリが、あろうことかマリアにキスをした。
マリアの喉が鳴るのが、見える。
音まで聴こえてくるような気がした。
見たくない光景、聴きたくない音。
「さらばだ、元婚約者くん」
コクリが微笑んだ。
来栖はマリアの後ろ姿をじっと見つめる。
マリアとは、最後まで目が合わなかった。
マリアの姿が、見えなくなった。
「ねぇ、もう食べていい?」
悪魔が嗤った。
「……は?」
来栖は理解できない。
「助けて……くれるんじゃ……?」
「そんな口約束なんて守るわけないじゃん。人間って馬鹿だね」
「そんな……話が……違う!」
来栖は最後の力を振り絞って、立ち上がった。
腹部が痛い。
全身が痛い。
気が狂いそうだ。
「きゃははっ」
ルーシャが標識や街灯を引っこ抜いて、こちらへ投げつけてくる。
来栖は必死に逃げる。
ルーシャが電柱を抜いて、フルスイングしてきた。
「うげっ」
脇腹を思いっきり打たれ、来栖は崩れ落ちた。
吐血する。
痛い。痛い。痛い。全身が痛い。
「じゃ、頂きます」
ルーシャが来栖の首をつかみ、来栖を宙吊りにした。
かすむ視界の中、ルーシャの口ががばっと開くのが見えた。
口がどんどん、どんどん大きくなっていく。
来栖の頭が、ルーシャに飲むこまれる――。
「【御身の手のうちに・御国と力と栄えあり・永遠に尽きることなく――AMEN】!」
光の槍が、ルーシャに突き刺さった。
「いったぁ!? 僕様ちゃんのお食事タイムを邪魔するのは誰? ――げっ」
ルーシャが来栖を投げ捨てた。
「第七旅団は、さすがに相手が悪い。じゃあね、美味しそうな子羊ちゃん」
(第七旅団……?)
デビル討伐を専門にする、日本最強の武装集団だ。
メギドヶ丘学園の卒業生たちの就職先でもある。
「そこの少年、大丈夫ですか!?」
見れば、フロックコートに山高帽という出で立ちの青年が、駆け寄ってくるところだった。
その後ろには、何人もの第七旅団員の姿も見えた。
来栖は気を失った。




