迫る崩落と、一瞬の盤面逆転
国家最高顧問としての執務の合間、クロノたちは王都周辺の地盤調査を兼ねて、かつて天災の被害を受けた孤児院のある山間部を訪れていた。
「よし、これで建物の補強指示書は完璧だな」
ガイルが満足げに頷いた、その時だった。
――ゴゴゴゴゴゴゴッ!!
突如、背後の切り立った崖から、大地を揺るがす不穏な地鳴りが響き渡る。先日の天災で緩んでいた地層が、ついに限界を迎えたのだ。
見上げれば、家一軒はあろうかという超巨大な巨岩が、凄まじい速度で孤児院に向けて崩落してくる。
「しまっ――! 避難が間に合わないわ!」
ルナが悲鳴をあげる。子供たちを庇うには、あまりにも時間がなさすぎた。
しかし、クロノの瞳はすでに限界を超えて青く澄み渡っていた。
「全員、動かないで。僕の指示通りに」
迫り来る死の岩塊を前に、クロノの脳内では「岩の密度」「落下の放物線」「衝撃が四散する角度」が完全に計算し尽くされていた。
「ガイルさん、大剣の腹で、僕が今から指示する岩の『中央やや左の亀裂』を思い切り引っ叩いてください! 斬るんじゃない、軌道を変えるんです!」
「おうっ、合点がいった!」
ガイルが跳躍し、弾丸のように迫る巨岩のピンポイントに大剣を叩きつける。金属音のような大音響と共に、岩の落下軌道がわずかに右へとズレた。
「ルナ! ズレた岩の真下に、斜め45度の『氷の傾斜板』を展開して! 摩擦抵抗をゼロにするイメージよ!」
「任せて! スライディングさせるのね!」
ルナの放った極大の氷の壁が、滑り台のように滑らかな角度で地面に現れる。
落下してきた巨岩は、ガイルに軌道をズラされ、ルナの氷の傾斜に吸い込まれるように着地した。凄まじい自重と加速エネルギーを保ったまま、岩は孤児院を綺麗に避けて、誰もいない谷底へと滑り落ちていく。
ドンッ……! と遠くで上がった土煙を見届け、ジードがふうと息を吐いた。
「やれやれ、心臓に悪い。だが、あの巨岩のエネルギーをそのまま谷底の開拓地への『土留め(どどめ)』として配置しちまうとはな。相変わらず恐ろしい執政官様だ」
「怪我人がいなくて何よりです。これだけの質量が動くなら、事前に看破して地盤を固めておくべきでしたね。まだまだ勉強が足りません」
涼しい顔で手帳に「崖の補強工事プラン」を書き込むクロノを見て、孤児院の子供たちとガイルたちは顔を見合わせ、呆れたように、しかし最高に誇らしげに笑うのだった。




