裏の社会と、闇を駆ける新たな仲間
IT企業を救ったクロノたちだったが、そのあまりにも神懸かった知略と技術は、日本の裏社会に生きる「闇の組織」の目に留まることとなってしまった。
ある夜、退勤途中のクロノたちの前に、空間の気配を完全に消し去った一人の少女が立ちはだかる。
漆黒の和服を崩して着こなし、手には一本の妖刀を握る彼女の名は「千代」。この国の裏社会で「最強の暗殺者」と恐れられる、現代に生きる忍の末裔だった。
「東京のパワーバランスを崩す不確定要素……ここで排除する」
千代の身体がブレたかと思うと、次の瞬間にはクロノの首元へ、音もなく極薄の刃が迫る。
ジードすらも目を見張るほどの、現代日本における「隠密と暗殺」の絶対的な極致。
しかし――キィン、と乾いた金属音が夜の路地裏に響いた。
クロノは手にしたビニール傘の先端で、千代の妖刀の「最も力が分散する一点」を正確に捉え、その軌道を完全に弾き返していた。
「なっ……!? 刀の軌道が見えていたというのか……!?」
驚愕し、距離を取る千代。
「見えているだけじゃありません」
クロノの瞳が、街頭の光の中で青く澄み渡る。
「あなたのその優れた身のこなし、そして卓越した暗殺術。それは素晴らしい技術ですが……連日の闇仕事のせいで、腰の骨格が数ミリ歪んでいますね。それでは本来の速度の7割も出ていません。非常にもったいないです」
「な、何を言って……」
「ジードさん、彼女のステップの癖をカバーするように、影から足元を少しだけ支えてあげてください。ガイルさんは、彼女の刀の風圧をいなすルートの確保を」
クロノは千代の敵意を完全に無視し、彼女の「戦闘フォームの最適化」を脳内で開始した。
襲いかかる千代に対し、クロノは攻撃するのではなく、彼女の動きの「無駄」をビニール傘でパズルのように修正していく。
「そこ、右肩が上がっています。ステップはあと3センチ深く。――ルナ、彼女の刀に『摩擦抵抗をゼロにする』コーティングを!」
「はい、任せて!」
数合の交差の後、千代は自らの身体に信じられない変化が起きていることに気づいた。
クロノの指示に誘導されるたびに、身体の痛みが消え、刀の速度がこれまでの数倍へと跳ね上がっていく。かつてないほどに、自分の技術が「完璧(正解)」へと導かれていく快感。
「これが……私の、本当の力……!?」
千代は刀を引き、呆然とその場に立ち尽くした。敵対しにきたはずが、戦いの中で自らの技術を極限まで引き上げられてしまったのだ。
「あなたの技術は、裏の暗殺に使うにはもったいない。僕たちの仲間になって、この国の『裏の脅威』を一緒に看破しませんか?」
クロノが穏やかに手を差し伸べると、ジードが影から笑う。
「お嬢ちゃん、このリーダーの下にいると、自分の限界なんて簡単に消し飛んじまうよ。俺と同業なら、大歓迎だ」
千代は差し出されたクロノの手を見つめ、静かに刀を収めた。
「……私の負けだ。これほどの『理』を見せつけられては、従うほかない」
現代日本の忍にして、最強の暗殺者・千代。
新たなる仲間を迎えたクロノたちの「ニホン無双」は、表のビジネス界から、いよいよこの国の「裏の戦場」へとその舞台を広げていく。




