東京ダンジョンと、新ジョブ【社畜(サラリーマン)】
日本に降り立ったクロノたちが最初に直面したのは、魔獣の襲撃ではなく、この国を支配する独自の社会構造だった。
戸籍も通貨もないクロノたちが合法的にこの世界で生き抜くため、クロノは即座に「完全看破」を発動。日本の経済、法律、そして労働環境をわずか数分でハッキングし、ある一つの結論に達した。
「この国で最も戦闘力が高く、かつ社会を裏から支えている最強の職業……それは【社畜】です。僕たちはまず、このジョブに就職します」
「しゃちく……? 凄まじく不穏な響きだが、神の領域に近い職業なのか?」
ガイルがゴツい身体をリクルートスーツに包みながら首を傾げる。
ルナも慣れないオフィスカジュアル姿で、支給された「ノートパソコン」という魔導書のような機械を睨みつけていた。
クロノたちが配属されたのは、数日後に社運をかけた一大プレゼンを控える、倒産寸前のIT企業。連日の徹夜と終わらないバグチェックにより、社員たちは文字通り「死屍累々」の状態だった。現代日本における、これ以上ない過酷な「戦場」である。
「看破」が導く業務効率化
「もう駄目だ……プログラミングのコードが複雑すぎて、どこにバグがあるのか分からない……! プレゼンまであと24時間しかないのに!」
絶望するプロジェクトリーダーの前に、クロノが静かに進み出た。
「代わります。僕の瞳には、その『スパゲティコード』の最適解がすべて見えています」
クロノの瞳が青く輝く。彼の「完全看破」は、数十万行に及ぶプログラミング言語の無駄、そしてシステムの欠陥を完全に捉えていた。
「ルナ、僕が今から指示するサーバーのポートを、君の魔力……いえ、タイピングで一瞬で書き換えてください。タイピング速度を200%に引き上げます(エスコート)」
「ええっ!? こうかしら!? ターン、タタタタン!」
ルナの神速のタイピングにより、バグが次々と消滅していく。
「ガイルさんは、その強靭な体力を活かして、このフロア全体の『物流(コーヒーと栄養ドリンクの配給)』を最短ルートで回してください。社員のモチベーションを維持するバフをかけます」
「おう! 待ってろ、今すぐ特級のカフェインを届けてやるぜ!」
「ジードさんは隠密スキルを使って、競合他社が仕掛けてきている『サイバー攻撃』のIPアドレスを特定、内側からアクセスを遮断してください」
「お安い御用だ。ネットの裏路地を歩くのは得意だからね」
ニホンの常識を覆す
プレゼン当日。
クロノたちが完璧に修正し、さらに「看破」によって市場のニーズを100%反映させた新システムは、クライアントに絶賛され、数十億円のビッグプロジェクトを勝ち取った。
ボロボロだった会社は一晩にして業界のトップランナーへと躍進し、社員たちは「神様がやってきた」と涙を流してクロノたちを拝んだ。
「ふぅ……。魔法や剣を使わない戦いというのも、なかなか新鮮ですね。この『有給休暇』という報酬は素晴らしい」
デスクで特茶を飲みながら、クロノは満足そうに微笑んだ。
「あんた、異世界に来てまで一晩で業界のトップに立つなんて……本当にどこに行っても万能ね」
ルナが呆れ混じりに感心する。
「ガハハ! だがこれでこの国の通貨も手に入ったし、美味いもんが食えるぜ!」
ガイルが日本の牛丼の旨さに感動しながら笑う。
異世界の常識すら一瞬で看破し、現代日本のビジネス界に突如現れた最強のルーキーたち。クロノたちの「ニホン無双」は、まだ始まったばかりだった。




