経済戦争と、見えざる流通網
神との決戦を制したクロノたちだったが、王都に戻った彼らを待ち受けていたのは、武力ではなく「金」と「流通」で国を干上がらせようとする、隣国による執拗な経済戦争だった。
隣国は王国の主要な交易路を封鎖し、生活必需品や魔導素材の価格を吊り上げ、内側から王国を崩壊させようと画策していたのだ。物価は高騰し、市場からは物が消え、民の間に不安が広がっていく。
「剣や魔法じゃ、上がっちまった小麦の価格は斬れないぜ……」
ガイルが悔しそうに拳を握る中、国家最高顧問であるクロノは、王都の市場全体の流れを「完全看破」で見つめていた。
「大丈夫です。経済の動きも、突き詰めれば『人と言い値の流れ』という名の数式に過ぎません。どこが目詰まりを起こしているか、すべて看破しました」
「看破」が導く奇跡の貿易ルート
クロノの脳内には、大陸全土の物資の備蓄量、隠された密輸ルート、そして隣国が価格を操作している「買い占め拠点」のデータが完全にプロットされていた。
「ジードさん、隣国の商人が密かに物資をため込んでいる隠し倉庫の場所を特定しました。そのルートを逆手に取り、隠密スキルで彼らの『買い占め資金』の動きを攪乱してください。彼らが焦って物資を手放さざるを得ない状況を作ります」
「へえ、裏をかいて市場に物資を吐き出させるわけかい。大泥棒よりスリリングでいいね」
「ルナは、かつて僕が設計した『要塞ギルド』の物流拠点をベースに、魔導転送陣を使った『超長距離・即時輸送網』を構築してください。これで隣国の封鎖線を無視して、他国から直接、適正価格で塩や小麦を仕入れます」
「任せて! 輸送コストをゼロにすれば、隣国の吊り上げた価格なんて一瞬で暴落するわね!」
「そしてガイルさんは、義勇軍を率いて、その新しい魔導輸送ルートの警備をお願いします。商人たちが安心して取引できる『絶対の安全』を保障するんです」
「おう! 悪徳商人どもに、俺たちの流通網には指一本触れさせねえってところを見せてやるぜ!」
市場の支配者
クロノ自身は、王都の商合議所に乗り込み、【国家最高顧問】としての権限をフルに活用して、新たな市場のルールを次々と打ち出していった。
隣国が「これで王国は干上がる」と確信していたまさにその日。
王都の市場には、ルナの転送陣によって運ばれた大量の新鮮な物資が山積みにされ、隣国の提示する価格の「半値以下」で売り出された。さらに、ジードの工作によって買い占め資金を凍結された隣国の商人たちは、大赤字を抱えて自滅していく。
「ば、馬鹿な……! なぜ我が国が何ヶ月もかけて仕掛けた経済封鎖が、わずか数日で完全に無力化されるのだ……!」
隣国の工作員たちが絶望する中、王都の市場には民の歓声が響き渡った。
「武力で勝てないからと経済で攻めてくるのは定石ですが、情報がすべて見えている僕に対して『隠し財産』や『独占』は通用しませんよ」
一滴の血も流さず、ただの1本の剣も振ることなく、知略と仲間の技術だけで一国の経済危機を救ってみせたクロノ。
あらゆる職業、あらゆる盤面において「正解」を導き出す少年の万能ぶりは、今や一国の経済をも完全に支配する領域に達していた。




