神域のチェスボード
審判の神ゼノスが、ただ静かに指先を上げた。それだけで、クロノの周囲の空間がガラスのようにひび割れ、絶対的な消滅の光が襲いかかる。
「消え去るがいい、人の子よ」
本来なら、触れた瞬間に存在ごと消し飛ばされる神の断罪。しかし、クロノの身体は、まるで最初からそこに光が降ることを知っていたかのように、1ミリの無駄もない最小限のステップでそれを回避した。
「ガイルさん! 右へ3歩! ルナ、その場でしゃがんで! ジードさん、僕の影に飛び込んで!」
クロノの鋭い指示が飛ぶ。神威に気圧されていた3人は、その声に弾かれたように身体を動かした。直後、彼らがさっきまでいた場所を、神の不可視の衝撃波が消滅させていく。
「な……!? なぜ我が一撃を、完全に予期している……!?」
神の冷徹な声に、初めて驚愕の色が混ざる。
「言ったはずです。あなたは完璧すぎる『神』だ。完璧だからこそ、その攻撃の予備動作、魔力の収束、空間の歪み方には、1ミリのブレもない『絶対の法則』がある」
クロノの瞳――『森羅万象・完全看破』は、神の行動ルーティンを完全に先読みしていた。
チェスの先読みのように、神が右手を動かせば3秒後にどこが消滅するか、その安全地帯がクロノの脳内にはっきりとグリッド線として見えていた。
「ルナ! あなたの足元に、神の攻撃によって生じた『次元の歪み(魔力の空白)』があります。そこに、残った魔力を1滴だけ落として!」
「えっ……!? はいっ!」
ルナが言われた通りに魔力を落とした瞬間、神の強力な結界に、ほんの針の穴ほどの「綻び」が生じた。
「ジードさん、その綻びを影縫いで固定して! ガイルさん、その固定された隙間に、大剣を――投げて(、、、)ください!」
「おうりゃあああッ!!」
ガイルが渾身の力で投げつけた大剣。それは、神の無敵の障壁の、わずか数ミリの「概念の隙間」をすり抜け、神の胸元へと突き刺さった。
「ぐ、おっ……!? 我が、人の技術ごときに傷つけられるとは……!」
神が初めてよろめき、その絶対的な神威が大きく揺らぐ。王都を圧迫していた重圧が、一気に霧散していった。
「皆さん、足枷は外れました。これが、僕たちが見つけた『神を倒す正解のルート』です」
クロノが剣を構え、ガイル、ルナ、ジードが不敵な笑みを浮かべて並び立つ。
絶対無敵の神を相手に、知略と連携だけでその牙城を崩した少年たち。ここから、人類による神への反撃が始まる。




