不遇職「害虫駆除員(クリーナー)」の真価
王都の復興も一段落した頃、ギルドに一つの奇妙な依頼が舞い込んできた。それは、建国以来誰も立ち入ったことのない「最深部の大地下迷宮」の調査だった。
しかし、この依頼には奇妙な条件がついていた。
『迷宮に充満する特殊な障気により、正規の戦闘職(剣士や魔導士など)はすべてのステータスが激減する。唯一、障気の影響を受けないのは、世間から「ゴミ職業」と蔑まれる生産・雑務系最下位ジョブ【害虫駆除員】のみである』
「おいおい、そんなふざけた職業、王都のどこを探しても現役の奴なんていねえぞ……」
ガイルが頭を抱える中、クロノはギルドのジョブ変更の水晶に手を置いていた。
「なら、僕がその職業になります」
まばゆい光と共に、クロノのギルドカードの表記が【害虫駆除員】に書き換わる。
本来なら、攻撃スキルも魔法スキルも一切持たない、街の裏路地でネズミや虫を追いかけるためだけの最弱不遇職。しかし、クロノの「完全看破」がその職の真のシステムを紐解いた瞬間、彼の瞳に怪しい光が宿った。
「なるほど……世間の人たちは、この職業の『定義』を狭く見積もりすぎていますね」
「駆除」の定義を書き換える
クロノ、ガイル、ルナ、ジードの4人は大地下迷宮へと足を踏み入れた。
案の定、障気によってガイルたちの身体は重くなり、本来の力の1割も出せない状態になっていた。そこへ、迷宮の主である超巨大な古代の魔獣「レギオン・ベノム」が、無数の眷属を引き連れて地響きと共に現れる。
「クソッ、この身体じゃまともに剣も振れねえ……!」
ガイルが歯噛みする中、クロノは一歩前に出た。手にするのは、武器屋の片隅で誇りを被っていた害虫駆除員専用の道具――ただの「燻煙筒」と「捕獲網」だ。
「ガイルさんたち、下がっていてください。ここからは『専門職』の仕事です」
クロノは「完全看破」を発動。彼の脳内には、眼前の魔獣が持つ「毒素の分子構造」と、害虫駆除員の初期スキル『害虫選別』の効果範囲が完全にオーバーラップしていた。
「この迷宮の魔獣は、生態系において『環境を害する不要な存在(=害虫)』とシステム上定義されています。なら、僕のスキルの対象内です」
クロノが燻煙筒に少量の魔力を込め、パッと投げつける。
ただの虫除けの煙のはずだった。しかし、クロノが「看破」によって魔獣の呼吸器官の弱点に合わせて成分を1ミリグラム単位で最適化したその煙は、古代魔獣にとって「一呼吸で全神経を麻痺させる絶対の劇薬」へと変貌した。
シューッ……! と煙が広がった瞬間、あれほど凶悪だった魔獣の群れが、まるでハエ叩きに落とされた虫のように、一斉にポタポタと地面に落ちて気絶していく。
「な……なによその効果!? 初級の即死魔法でもあんな綺麗に決まらないわよ!?」
ルナが目玉を飛び出さんばかりに驚愕する。
「さらに、仕上げです」
クロノは手にしたボロい捕獲網を軽く振るった。
害虫駆除員のスキル『一網打尽』。本来は小さな虫をまとめて捕まえるだけのゴミスキル。しかし、クロノの放った網は、空間の魔力の流れ(レイライン)と連動し、巨大な魔獣の巨体を因果律ごと縛り上げる「神の鎖」へと変化していた。
ズシンッ! と網に捉えられ、完全に無力化される迷宮の主。
「害虫駆除員のスキルは、対象が『害をなすもの』であればあるほど、効果が乗算で跳ね上がる仕様なんです。国家を脅かす大魔獣なんて、システムから見れば『最大の害虫』ですからね。一撃ですよ」
ゴミ職業など存在しない
一瞬で最深部の調査を終わらせ、地上に戻ってきたクロノたち。
ギルドで「最下位職で単独ボス撃破」の報告が上がった瞬間、王都中の冒険者や研究者たちが大騒ぎになったのは言うまでもなかった。
「はは、どんなゴミ職業を渡されても、お前が握れば世界を滅ぼす兵器に変わるんだな」
ジードが呆れ果てたように笑う。
「どんな職業にも、用意された『正解の使い道』があるんです。それを誰も見つけようとしなかっただけですよ」
クロノはギルドカードの【害虫駆除員】の文字を見つめながら、次なる「誰も知らない最適解」に思いを馳せて、楽しげに微笑むのだった。




