体力封印と、至高の精神
魔導戦士たちを退けたのも束の間、敵の残党が執念で起動した最後の呪具――それは、対象の筋力、持久力、そして「体力」を極限まで奪い去る「枯渇の呪縛」だった。
ドサリ、とガイルがその場に膝をつく。
「クソっ……身体が鉛のように重ぇ……。指一本動かすのも億劫だぜ……」
百戦錬磨の戦士すら、立ち上がることすらままならないほどの絶対的な虚脱感が場を支配する。
クロノもまた、激しい倦怠感に襲われていた。立っているのがやっとの状態で、剣を握る腕には全く力が入らない。文字通り「体力がゼロ」に近い状態だった。
「ククク、スキル、知力、そして体力を失えば、いかに万能の天才とて終わりだ! 今度こそ、一歩も動けまい!」
勝ち誇る敵が、トドメを刺さんとゆっくりと歩み寄ってくる。
しかし、クロノは倒れなかった。
「……確かに、身体は動きません。でも、僕にはまだ『これ』が残っています」
クロノの瞳に、かつてないほど静かで、深い光が灯る。
彼には、あらゆる職業の正解を導き出してきた「知識」があり、先ほど取り戻した「明晰な頭脳」がある。そして、隣には同じように体力を奪われながらも、自分を信じて視線を送る仲間たちがいた。
「ルナ、僕の手のひらに、君の残った魔力をほんの少しだけ預けてください」
「ええ……っ、これくらいなら……!」
ルナから受け取った、ほんの火の粉ほどの微小な魔力。通常の魔法使いなら、初級の火球すら作れない量だった。
だが、今のクロノは「知力」も「看破の目」も健在。さらに「建築家」として培った構造の知識、そして「王」としての統率力がある。
「体力がなくて剣が振れないなら――空間の構造を書き換えて、勝手に敵が自滅する『正解』を作ればいい」
クロノは一歩も動かず、ただ手の中の微小な魔力を、演習場の天井にある「梁の結合部」に向けて、ピンポイントでピッと放った。
それは、建築家として見抜いた、建物の構造を支える「たった一つの崩壊点」。
直後、パキィン……と小さな音が響き、天井の巨大な装飾岩が、絶妙な角度とタイミングで自重により崩落した。
「なっ、うわあああッ!?」
襲撃者たちの目の前に、正確に巨大な瓦礫の壁が遮るようにドゴォンと落下し、彼らの進路を完全に塞いだ。それだけではない。崩れた風圧がドミノ倒しのように周囲の地形を動かし、襲撃者たちは自らの足場を失って、演習場の捕獲用ピット(落とし穴)へと綺麗に滑り落ちていった。
クロノは一歩も動かず、指先一つ、力を使うことなく敵の部隊を無力化してみせたのだ。
「ふぅ……。体力を全く使わない戦闘というのも、なかなか新鮮ですね」
壁に背を預け、少し息を切らしながらも、クロノは満足そうに微笑んだ。
「あんた、体力がなくなっても、頭脳と環境だけで無双するなんて……本当に底が知れないわね」
ルナが呆れを通り越して感嘆の溜息を漏らす。
「ハハハ! スキル、知力、体力、何を持っていかれても、お前はお前だな、クロノ!」
ガイルが笑う。
あらゆる力を封じられようとも、その場にある「正解」を手繰り寄せ、勝利へと変える。
万能の主人公クロノと、その仲間たちの絆は、もはやどんな呪いであっても断ち切ることはできない最強の領域へと昇華していた。




