一章II 『快癒のツインナイフ』
「おお……!」
まず目についたのは、この坂を下った場所に広がった広大な草原と、その奥に見られる大きな広葉樹林。脇には大湖や河川のような水場も存在しており、そのまた奥には砂漠や雪原のようなものもみられる。
この範囲だけでも多数の環境があり、壮大さと美しさを感じられる。
空気はこれ以上ない程に澄んでいた。
夜空に散らばる星の輝きもハッキリと目に映り、転生前に見ていたビル群の景色とは大きく違う。
なんて美しい国だろう。
世界の中の自然を集約させたものがこの国。
地球は転生前でも転生後でも自然の美しさに変化はなかった。
水の惑星はまだ存在する。
自然は廻って変化することはない。
不変であり非の打ち所がない唯一の存在。
それが、自然なのだ。
「良いな……」
頭の中には事細かに感想が思い浮かぶのにいざ言葉にするとそんな感想も忘れて語彙力も無くしてしまう。
これからのたった独りの旅を鼓舞してくれる。
さあ、歩み始めよう。
ようやく国の中に到着し、さっさと神の元へ向かおうと言いたいが、貰ったパン以降何も飲まず食わずで運動をしていた為かなりお腹が空いている。
それに、時間的にもかなり眠くなってきたのでどこかで野宿をしようと思い、水が手に入る川の近くに行こうと草原に降り立った。
その矢先、岩に何かが刺さっているのを発見した。
双剣のようなものが刺さっている。
「そういえば、『武器を用意する』ってルクスが言っていたな」
こんな場所に置いて何者かに盗まれたらどうするのだろうか。色々と心配事はあったがとりあえず抜いてみる事にした。
「――!……ヨーヨーの時と同じか」
あの二つのヨーヨーを拾った時と同じく、この武器に関する知識が全て頭に入ってくる。どのような原理でこうなるのか気になるが、細かいことを気にしていたらキリがなくなるので早々に辞めることにした。
どうやらこの武器には名前があるらしく、【快癒のツインナイフ】という名で、剣ではなくナイフ。つまり短剣だ。
能力としてはダメージを受けても少しずつ傷が癒えていき、採集や狩りにも使えるらしい。
そして、遂には魔法が使えるようになるようで、炎属性、水属性、木属性、雷属性、風属性、氷属性、地属性、毒属性、花属性、霧属性を使えるらしい。
「少し試してみるか……」
向かおうとしている川の近くに丁度ウサギのような魔物?が居るので魔法を試してみる。
ナイフを正面に構え、魔法の名を唱えることで放つことが可能だ。
「火は……これだな、【キャンド】」
ボオオオという音を立て、炎の球がかなりの速さで魔物に向かって飛んでいく。
威力は申し分ないようで、ウサギ型の魔物を葬ることができた。
「す、すごい……信じられる光景じゃないね……」
もう一つ気づいたことがある。
どうやらこのナイフは魔法を使った後の数十秒間はその放った魔法の属性が付与されるらしく、炎を放った為、刃が炎を纏っている。
とりあえず川の方へ向かい、時には魔物と戦いながら果物のようなものを採集していた。
この国に生類憐みの令のような不殺生の法律があったら困るので、襲いかかってくる生き物以外は基本的に斬らないようにしている。
とはいえ、敵意を持って襲いかかる、自分が勝手に魔物と呼んでいるような生物もそこまで多くはない。
野宿すると言って、最初はテントなどを持ち合わせて居ないため、どうやって睡眠をとろうかと悩ませていたが、このナイフは万能グッズのような役割も持っており、木属性の魔法でテントを出すことができ、水属性のオマケ機能のようなもので釣竿にすることもできる。
タンパク質には困らなくなった。
住んでいた環境下から、米が欲しいところだが流石にそんなことも言っていられないのでとりあえず適当な魚を釣り、焼いて食べる事にした。
「悪くないね、こんな生活も」
夜も更け、星空も綺麗なので何か特別な気分になる。
お風呂に入れないことだけは少し気になるが、義務感で毎日入っているだけで毎日入りたい欲がある訳でもないので、許容範囲だ。
この時間になると、魔物達も寝ているのだろうか。襲われる気配がない。
「ご馳走様でした。さて、やる事も無いし休める内に休んでおかないとだな」
テントに関しては防御力も優れていて、驚く事に、魔物が近づくと追い払ってくれるらしい。こんな代物、転生前にも欲しかったと感じる。
……眠る前に色々整理しておかねば。
「一日で整理のいく情報量じゃあないね……。ルクスの言っていた事は今のところ全部正しいし味方って事で良さそうだね。そして僕の身体能力も信じられないほど上がってる。運動は得意な方だったけどこんなにできるのは流石にビックリだね」
少し眠くなってきた。
「そういえば、神はどこにいるんだろう?奥に見えた砂漠や雪原は開けていたのに見えなかったから違うとすると……山の上か森の中か。でも山だとするなら、態々神様なんてものが壁際に居るとも思えないし、あの森の中かな」
独り言を喋るような性格ではないが、言葉に出さないとどうも整理できるような気がしない。
「なら森へ向かうか?いやでも戦うって事になったら今のまま勝てるとは思えないな……。ならちょっとした練習のためにあの雪原に向かおう。この川の奥だしそこまで時間はかからない。雪だし少し手強い魔物もいると思うしね」
軽く明日の予定を決め、本格的に眠ろうと思ったのだが……。
「――ん?待てよ?」
一つ気になることがある。
そういえば、ルクスがこんなことを言っていた。
『戻す方法は見つかっているんです』
当時は冷静になろうとしてなれていなかったこともあって聞くことができなかったが、今になってみればあれに関して説明をされていない。
「『地球を戻す方法』……?そんなことどうやってやるんだ……。星を丸ごと変えることになるのにそんな事が可能なのか?それに、見つかってるんならルクス本人がやればいいんじゃないのか?何故僕に何も説明せずにそのまま話を進めたんだろう。神にはできないけど人間にはできるって事なのかな……?そんな事があって大丈夫なんだろうかね」
とりあえず寝ることにしよう……明日も活動量は多いはずだし、明日だけで終わらないことは明らかなのでここで死ぬ訳にもいかない。
「ふぅっ……。意外によく眠れるもんだな」
魔物などに襲われることもなく、とてもぐっすりと眠ることができた。
服は仕事服のままだし、慣れない環境下で過ごすことになったから、一睡もできないのではないかとも思っていたが、そんなこともなく熟睡していたようだ。
無意識にも相当疲れていたのだろう。
川の水で顔を洗い、眠気を覚ます。寝ぼけていた目もスッキリして視界が良好になり、朝の自然の国が映し出された。
太陽の位置が高くないので午前ではあると思うが、この世界でその知識が通用するかは謎だ。
と、太陽の位置を確認した目が、雲ひとつない青空の下に広がる、壮大な草原に釘付けになった。
昨夜見た美しさとは異なり、活力を与えられる一面の緑、野を走り回る動物、川のせせらぎやそよ風が奏でる自然の音色。
全てが相まって、この世界に「おはよう」と伝えているようだ。
誰もが一度は、こんな草原の真ん中に家を建てて、静かに過ごしたいと思ったことがあるはずだ。
ここはまさに、『こんな草原』の理想に最も近いものと言っても過言ではない。
起きて間も無い朝に、ここまで気分が高揚するのも初めてだ。
「神はいつもこんな所で住んでいるのか……」
羨ましさからくる嫉妬を呟いてしまった。
雪原に向かうと言ったのに、こんなにのんびりとしている暇は無いのにも関わらずついこの景色に見とれてしまっていた。
朝食は昨日採った林檎を小分けにして食べることにした。朝から重いものは食べられないタチなので魚を焼いて食べようとは思わなかった。
「上から見た時は、この川に沿って行けばあの雪原に辿り着くようになっていたよね。ほんわかするのは終わりにしてさっさと行こう」
と、平和で爽快な気分だった自分の目を覚まさせるように、独り言を呟いた。
あまり距離はないため、色々と収穫を得られたらまたここへ戻って来ることにしよう。今の時点で神に会いに行くのは、この経験量だと気が引ける。
正直なところ、この国に少しでも長く居たいという気持ちが心の底にあるのは秘密にしておく。が、そんなことを言っても戦わないとならないので歩き始めた。
そういえば、国と言い張る割には国家の要素となる国民を、未だに見ていない。
そもそも、政府があるのかどうかも不明だし、他国との外交などはどうなっているのだろうか。
それよりもまず、そもそもこの国に、人間の役割に値する、知的生命体を未だに見ていないのに、国と名乗って良いのだろうか――というか、国と名乗る者がいるのだろうか。といった疑問を少しの間抱えていたが、そういえば地球のルールなんて関係ないのだから国の定義などもないのでは?と自己解決をした。
我ながら下らないと思った。
でも、今言った通りだとするならこの国に知的生命体は神しか居ないことになる。
たった一人でこれ程までにない自由な国を統治するのはあまりにも荷が重いのではないだろうか。
いや、逆に知能ある生命体が居ないからこそ統治という行為すら必要もないのかもしれない。
ただ、魔物のようなものは所々で見られるから完全に平和という訳でも無さそうだ。
しかし、その魔物も牛や馬などの転生前に見られたような害のない動物を攻撃している所は見ていない。魔物の特性や名前などは何も教えられて居ないので何もかもが未知だ。
思考が縦横無尽に走ってしまう。
「ふわぁ……ここまで何も無いと散歩している気分だよ」
遂に欠伸までしてしまった。
あまりにも平和だ。
さっきから鳥も飛んでいるし。
――ん?鳥?
「あ……?あの鳥、やけにでかいな……。無意識で気づかなかったけど、ずっと影があったってことは……」
何かを察して、ツインナイフを取り出した。
同時に、あの怪鳥も勘づかれた事を察知し、こちらに向かって突撃してきた。
「くッ……!?」
近くにくるとその大きさが更にわかる。
ただの鳥ではない。
戦闘、開始だ――。
○属性について
見慣れない属性もあるかと思います、設定を述べていきましょう。
・この世界において、魔法の属性に対する研究などは進んでおらず、皆何となくで使っています。
・その為、相性なども不明で、複数の属性を使える人は『水を火にかけると消える』程度の知識で使い分けています。
火属性:勿論、炎を使います。使う人によっては炎の色が変わったり変わらなかったりします。爆発系の魔法も多い。
水属性:水です、万能そうですが、どちらかというと攻撃特化です。攻撃の種類は様々で、広範囲だったり一点集中だったり。波だったり、渦潮だったり。
木属性:木、草でもあります。回復と攻撃を両立します。攻撃の場合はかなり重々しい攻撃が多いですね。命くんがテントを造っていますが、そういう使い方もあります。
雷属性:雷、電気。生き物、機械にとってはとんでもない弱点になる属性です。速くて高威力、シンプルに強い。
風属性:風を巻き起こすだけです。でも、風を舐めてはいけませんよ。人を切り裂くこともあるので。
氷属性:冷たいですね。雪も扱うことが出来ます。雪像を造ったり、氷柱を発射したり、霰や吹雪、雹などを吹かせたり。
地属性:かなりざっくりな属性。土、砂、岩、鉱石などなど、色々あります。マグマは火というより地属性に近いかなと思っています。高威力で重い技が多い。
毒属性:ねちっこい技を使うタイプの属性。毒は厄介なイメージがあるので、時間をかけて相手を倒すという技が多いです。人にとって毒だなと思うものは大体使えます。使い手によるけど。
花属性:ここから見慣れないでしょうか。木属性はなんとお花を使うことはできず、お花はこっちに分離しています。回復特化な属性ですが、使う花が特別で攻撃をしたり、毒を持っていたりします。綺麗な薔薇には刺があるってね。
霧属性:風属性と水属性から派生したような属性です。
隠密性能が高かったり、回復ができたり。直接攻撃はしないのが特徴ですね。範囲が広く、霧の中に居るとダメージを喰らったり、体調が悪くなったりすることもあります。
○技の説明
【キャンド】:炎属性の下級魔法と言ったところ。ハンドボール程の大きさの火球を一発、狙った方向に真っ直ぐ飛ばす。名前の由来は蝋燭の《キャンドル》から。




