一章I 『ヨーヨー、岩をも穿つ』
「ん?あれか?」
二分程走っただろうか、遠くに高く聳える山が見えてきた。長時間同じスピードで走っていても特に疲れはしないことに、後から気がついた。
想像していたような『自然の国』ではなく、見えるのは燃え盛る火山で、緑の欠片も見つからない。
どうやらあの山を超える必要があるようだ。
「序の口、なんだろうね」
走る速度を上げ、山へと向かう。
最初のステージが火山とは、いきなりハードルが高い。大体終盤に出てこないか?火山というのは。
さらに一分程走ってようやく到着した。
「思ったよりかは低いか?」
国と言う割には整理などされておらず、門だとか壁なども見られない。攻められたりしないのだろうか。
この国を囲う山脈が国境や壁の役割を果たしているのだろうが、それにしても入国が容易すぎる気がする。
「ん?これは……入口?」
登っている途中に洞窟の入口のようなものを発見した。
「これ以上登っても、か。行ってみよう」
中は整備されているようで、広間のようになっていた。ここまで来ても門番などの人は見られない。
『自然の国』というだけあって人間は存在しないのだろうか。
人間は自然ではないと捉えているのだろうか。
だとしたら、ここは最高の国だ。
「グァルルル……」
この世界に来てからは聞き慣れない音が聞こえた。
「狼——!?」
自分の数メートル先に硬そうな鎧を纏った狼が見える。間違いなく味方ではないが、こちらから仕掛けても反感を買うだけか?と感じ、とりあえず様子を見てみる事にした。
「グゥルル……!」
先程、あまりに意外で大声を出したのを忘れていた。完全に目が合い、殺意を剥き出しにされている。 そしてその直後、明らかな敵意で飛びかかって来た。
「来た……!」
どうするか考える前に先に体が動いていて、一歩後ろへ下がり、瞬時にヨーヨーを下から振り上げ顎に直撃させた。
ガゴッ!と心地の良い音が鳴り良い一撃だったのがわかった。
ただし、見るからに硬そうな岩石の鎧を纏っている為怯むことなくこちらへ向かってくる。重そうな図体なくせして、素早いやつだ。
「普通の動物なら気絶してるぞ……!」
"アオォォォォン!"
突然、遠吠えを始めた。
好機、隙が出来たためすかさず攻撃を加えようと思ったその時、ズドン!という重々しい音が自分の足元周辺に響き始め、信じられない出来事が起こった。
「っ――!?」
踏み出した地点の標高が突然上がり、前へ転びそうになる。
「岩……ッ?!」
自分の真下から岩が突き出てきて大きく吹き飛ばされた。鳩尾に直撃し、唾が吹き出る。
痛い、でも痛いだけだ。
すぐに空中で体勢を整えて武器を構えた。
漫画やゲームなどのファンタジーの世界ならば、今のは魔法というやつで間違い無いのだろう。自分だけ撃てないのが癪ではあるが、今はそんなことよりも目の前の化け物に集中しなければならない。
ヨーヨーを左右へ投擲し、空中に滞在させる。急降下して化け物の目の前に降り立ち、空中に残ったヨーヨーを、狼を挟むように戻す。
「グゥ……!」
見事、命中。
「割れるか――?!」
という期待を抱き叫んだがそんなことは叶わなかった。
少しヒビが入っただけでダメージも少量だろう。
「ちっ……これでもだめか――なら!」
策を思いついた。
今度は自ら真上へ飛び上がり、先程入れたヒビに対してもう一度ヨーヨーを投げつける。
それと殆ど同時に急降下し、狼へ向かうヨーヨーの少し後ろに殆ど同じスピードで向かう。
投げたヨーヨーは狙い通りヒビの部分に直撃する。
「ここだ――!!」
その瞬間を見極め、かかと落としの追撃を放つ。
ヒビが入ったのならその一点を責めれば確実に悪化するはず。その予想はドンピシャで、狼の体を覆っていた鎧が砕けた。同時に狼も怯んだことを見逃さず、トドメを刺そうとヨーヨーを回転させ、遠心力も加えて、全力で眼前の狼へと投げる。
ヨーヨーは回転しながら狼の周りを衛星のごとく高速で回り、紐はその軌道を描いた。
その後、高速で狼にぶつかる。
相手をホーミングし確実に仕留められる技――
「――【衛星急襲】!」
「グァアルル……!」
ヒビから露出した毛皮から、直接重い打撃を加えられ、力なく倒れ込んだ。
纏っていた岩石は崩れ落ち、やがては、残った狼の部分も消滅した。
「ふう……初戦勝利、だね」
ようやく戦いが終了したと安心していたが、よくよく考えてみれば一体しか存在していないなんてそんな事は恐らくないだろう。
このような戦いが何度も続くと考えるととても気が滅入る。
休憩をしている暇もないので洞窟の道に沿って走り始める。
(どうやら山は単なる壁だったようだね。恐らくこの道を進んでいけば開けた場所にでるだろうね……っと)
「またか」
今度は先程の狼が三体立ちはだかってきた。複数を相手にするならこのヨーヨーはかなり輝くはずだ。射程や攻撃範囲はかなり頼りになるし、なんと言っても殆どの技が相手を一掃するような技だ。
「悪いね、慣れるのが早いんだ。すぐに終わらせるよ」
「【裂空球】!!」
空中でヨーヨーを乱雑に振り回し、全ての相手に打撃を与える。
ここから別の技に繋げる事も可能だ。
「これで二体まとめて仕留めよう……【鬼牙砕森】」
両手のヨーヨーを斜め上に投げ、頂点になった時に思い切り振り下ろす。
鎧を砕くことに成功し、その勢いで本体をダウンさせる。
残りは一体。
(さてと、【衛星急襲】でも良いがせっかくなら練習しよう)
左手に装着したヨーヨーを伸ばし、相手をヨーヨーの紐で絡め取り、そのまま持ち上げる。
そこからはもう玩具のようなものだ。
「一撃で仕留めようか、【鬼蜘蛛】」
絡めとった相手を振り回し地面に打ちつける。
地面にヒビが入る程の威力となる。
鎧も流石に耐久力がもたずにそのまま本体へと攻撃が通る。
「よし、片付いた。さ、出口に向かおう」
この洞窟の道程はかなり長い、五分ほど走ったが未だに景色が変わるような様子もなく、先程の狼とも六体程対峙した。
火山のためか気温が高く、空気が熱されてサウナのようになっている。この環境の中走ると流石に気分を害されるが疲れた雰囲気は特に感じない。
(まさか『自然の国』なんて言って火山だけって事は無いよな……)
精神的な疲労は意外とあるらしいので段々とマイナス思考になる。メンタル面は強化されないらしい。
元から飽きやすい性格なのかもしれないが、ここまで同じ景色だと溜め息をつきたくなる。
「――ん?少し涼しくなってきたな」
風を感じる。
合計して十分程走っただろうか、ようやく外が近くなった傾向を感じる。
少し気分が上がり速度を上げて走り、道中の狼も何となくで退けながら走る。
同じ敵としか戦っていないので、戦い方を完全に理解し、一匹二十秒程あれば倒せるようになった。
ここまで気にしてはいなかったがこれは動物虐待なのか正当防衛なのかどっちなのだろうか。
そもそも法律なんてあるのか?
ここに来ても変わらず下らない考え事をしているが、そうこうしている間に出口が見えてきた。
外はもう夜のようで、太陽の明るさがない。
やっとのこと洞窟を抜けることができた。
『自然の国』に到着したようだ。




