序章II 『始まってしまった』
限りなく冷たい態度での『誰?』であった。
「そんなに冷たくなくても……じゃなくて、すみません、私の名は【ルクス・オゾン】と申します」
「えっと……ルクスでいいかな?」
「構いませんよ。恐らく何を言っても理解して貰えないと思うので、全て単刀直入に申しますね」
話の展開が早い。脳が現状に追いつくのを待って欲しいものだ。
「今までの世界が全て作り変わったこと、貴方には全てを元に戻してもらうこと、その為に戦ってもらうこと、この世界では貴方の言う現実は通用しないことです」
情報量が多すぎる……脳が一瞬で悲鳴をあげてしまいそうだ。
それに、『作り変わった』と言った。ここは元は地球なのか……?
「なあ、まず自己紹介を頼んでもいいかな?」
「あっ、申し訳ないです」
「聞いたところ賢者か神か何かか?」
「その通りです。役職としては神で、神王と呼ばれています。少々恥ずかしいですが」
「わかった。僕は朧命、見ての通り人間だ。本題に移ってくれ」
「はい、では順を追いましょうか、まず、世界が変わったということについて」
「貴方が見た通り、元の地球は滅びました。ただ、あの時見た隕石はかなり特異なものだったようで…」
「世界を丸々変える力があったと?」
「勘がいいですね。その通り、その結果このような有様になったということです」
「今までいた人間は?」
「貴方を除いて滅びました。――いえ、生まれ変わったと言った方が正しいでしょう」
「転生……ってことか」
「はい、貴方が姿形何も変わらず生き残った理由は――ただの奇跡でしょうかねえ。他の者は皆記憶も姿も全てが変わっています」
昔から閏日に生まれたり血液型がO型RHだったりと、自分でも嫌になるほど盛りに盛られた要素で、奇跡の人間とは言われていたが、こうともなると自身の存在すらも疑ってしまう。
「私もその中の一人で、一般人だったそうですよ」
「待て、聞きたいことが山ほどある。まず、何故前世の記憶がある?」
「そうですね……神の特徴なのでしょうか。思い出すことができたのです」
「はあ……無理矢理理解するしかないな」
「では、次に全て戻すということ。簡単に言うと、地球を元に戻してもらいたいのです」
「不可能だ」
食い気味に言った。絶対に否定したかったからだ。
「そう言うのも無理はないですね。ですが、戻す方法は見つかっているんです」
「それを僕が?」
嫌だ。あんな惑星に戻したところで意味が無いだろう。
「嫌そうな顔をしないで下さい。使命なので」
「誰にも命令された覚えは無いが?」
「この私が」
癪だがやるしか無いらしい。拒否したら不思議な力で意思もなくされ服従させられそうだ。
「心配することはないですよ、戻した暁には、貴方に私達と共に神として働いてもらうので」
「え?」
信じられない言葉が聞こえたが、話を止める隙はなかった。
「そのための三つ目、戦ってもらう事です」
「貴方にはこのヨーヨーから始まり、この世界にある《国》にいる、全ての神に協力を要請してもらいたい」
「おい、こんな玩具で戦える訳が無いだろ」
「それは後で分かります。とにかく、その為に、神達に前世の記憶を取り戻して貰い、世界を戻すための力を得て欲しいのです」
「はあ……わかったよ」
「話が早くて助かります。では、このヨーヨーについてですが、一度持ってみてくれませんか?」
そういえば、落ちていて眺めただけのヨーヨーの存在を忘れていた。
「……わかったよ――うわっ?!」
「見えましたか?」
「本当に、意味がわからないな……」
持った瞬間に自身の頭の中に戦い方、技が全て入ってきた。まるで教科書を脳内にコピーしたかのように。
「では、模擬戦と行きましょうか」
「は?神と?」
「怪我は与えませんよ、場所は……ここで良さげですね」
木刀?何かを構え始めた。
戦うとは言われたが急に実戦を持ちかけられた事に何も理解が追いつかない。
「お、おい待てよ。そんないきなり言われたって……」
「でも、何をするかはわかっているのでしょう?」
「僕は君と違って戦った経験なんて無いんだぞ?」
「つべこべとうるさいですね……とにかくやってみて下さいよ、意外と行けるものですよ」
「兎にも角にもでどうにかなる問題じゃないだろ……って、なっ――!?」
――ヒュンッ
突然向かってきたと思ったら木刀を振りかざして来た。だが、何故か瞬発的に体を横に捻らせ攻撃をギリギリで躱していた。
無意識だった。
勿論現実世界で戦ったことなんて一度も無い。喧嘩ですらやった事も覚えていない。
そんな僕がこんなに動けるものなのか?一端の銀行員だったんだ、そんな事が出来るはず無い。
――バッ
「っ!」
シュッ――
「危な……!」
カンッ!
「何っ?!」
反射的に顔の前に手を出したつもりだったが、振りかざされた木刀を両手に持っていたヨーヨーで弾き返していた。
「ほら、できるじゃないですか」
「僕自体も変わったのか……?」
「この世界に、無意識に順応してはいると思いますが、ここまで才がある者も中々いないですよ」
「じゃあ、何が『できるじゃないですか』なんだよ……」
「細かい事は気にしないように。さあ、技の一つでも出してみたら終わりにしましょう。」
「ああ何なんだ……!こうなったらやるしか無さそうだね!」
今更気づいたが、やけに力が漲る。
根拠も何もないが、できそうな気がして止まないのでとりあえず突っ走ってみて、理解した動き方を真似てみる。
趣味としてヨーヨーはよくやっていた為、使い方は完全にマスターしていた。糸で作られた輪に指を通し、相手に向かって投擲する。
「できる……!」
「おお、強い……。やはり頼んで正解のようですね」
次はどうしようか。どうやら体を使いながら考える事もできるらしい。ここまで出来ると自分が恐ろしいとも思える。
「これか……いわゆる必殺技ってやつか……?」
頭の中に転写された教科書を一頁一頁捲った末に見つけた強そうな技を試してみる。
ヨーヨーを脚に装着し、ブレイクダンスの如く動き相手を撹乱、一掃する――!
「【脚装式・乱嵐暴龍】――!」
「やりますね……!」
広範囲かつ連続で打撃を放つ、荒々しい技だ。
「はあ……はあ……流石に少し疲れるな」
「お疲れ様です。戦い方はこの辺にして少し休憩がてらお話を」
「わかった。僕もそうしたかった」
体力も上がっているようだ、こんなに激しく動いても体が音を上げない。未だに理解はできないが。
「何も食べていないでしょう、これを」
「助かる。これは……パンか?この世界にもあるんだな」
「衣食住などに変化はないようですね。ものの名前の変化も見られませんでした」
「へえ。それで、話の続きってのは?」
「そうですね。まず貴方に向かってもらうのはここから北東に進んでもらったところにある【自然の国】に行ってもらいたいのです」
「順番があるのか?」
「いえ、特にはありませんがこの国の神は温厚なので楽かなと」
「なるほど、僕は具体的に何をすればいいんだ?」
「前世を思い出させる方法は私にもよくわかりません。ふとした時に思い出すかもしれませんし、何か衝撃を与えなければならない可能性も」
「戦わないとってのはそういうことか」
「はい 。次いでに武器に関しても伝えておくと、おそらく、大体各国に入った時に貰えるかと」
「貰える?見知らぬ人なのに?」
「ええ、貰えちゃいます」
「そうか……本当にやらないといけないらしな……」
急にファンタジーな事を言われたがそろそろ慣れてきた。
とは言っても、何故僕だったたんだろうか……。
「そういえば、他の国については教えてくれないのかい?」
「私から言わずとも恐らく神達が教えてくれると思いますよ」
話せるようになる事が前提とされていることが不満だが突っ込まないでおこう。
「というか、流したけど、日本とかアメリカとかじゃなくて、自然の国っていう名前なのか?」
「そうですね、どの国もそんな感じです。地球や人間活動を構成していたもの、とでも言うんですかね。そういうものを国にしています。自然の国はその名の通り、地球が創り、地球を創った自然をメインにした国ですね」
「へえ……」
戦う危険性に目を瞑れば、観光は少し楽しみになった。
「神……神ってぱっと人間の前に現れて話してくれるのかな」
「心配要りません。彼らは人の姿になって王のような役割も果たしてくれているので」
何とか、諸々の話を呑み込んだ。未だに喉の奥につっかえている気がするが。
「そうか……。わかった、僕から聞くことはもうないかな」
「長々と失礼しました。私からもここで伝えることはこれで終わりです」
「まだ難しいがとりあえずやってみようか。いい情報感謝するよ」
「はい。それでは、健闘を祈ります」
「君も自分の国があるんだったな、首を長くして待っててよ」
「あはは、あまり長くは待ちたくないですね」
「わかった。じゃあもう行こうか」
と言い終わり僕は言われた方角に歩き出した。
何もかもがいきなりで理解もやはり追いつかない。
地球を戻して人間を救うだなんて僕に任せるのは間違いだ。
まあ、そんな事を思っても仕方がないし、この変わってしまった世界でいることも特に意味は無いだろう。
不本意だが、決意は固まった、終わってしまった世界を取り戻すために、まずはこの世界を終わらせてしまおう。
なんて似つかわしくない言葉だと嘲笑いたいが……なってしまおう、救世主というやつに。
一匹の狼が、双方の手に武器を構えて駆け出す。
再生の旅が開幕した――。




