二章III 『対咎人鎮圧兵器』
緑の閃光が瞬き、その目で睨みつけてくる。
腕部をこちらへ向け、機体全体から『捕らえてやる』というオーラを感じる。
(どう来る?とりあえずまずは様子を……っ!?)
何かが頬を掠めた。切れるような痛みではなく、ピリッとした痺れる痛みだ。
「速っ……!」
電気でできた砲弾を高速で発射し、全身を麻痺させようとしていたらしい。
迅速かつ着実に罪人を縛るという意志が痛いほど伝わる。一般人ではまず間違いなく勝てない。
「うん、いいね。動作に問題はない」
「とりあえずジェットを用意しよう。機動力を上回らないと」
〔かしこまりました。ジェットパック装着、完了しました〕
左腕部が飛行機のエンジンのような見た目になる。そこから仄かに青く煌めく炎が噴射された。
上空へと飛び上がり、高所をとって全体を見渡す。
地上でも見たが、本当に何も無い、真っ白な部屋だ。
純粋な戦闘力でやり合わなければならない。
「良くも悪くも……だね」
〔右腕部、ボムスロウに変更しました〕
ボムスロウ。単に爆弾を投射するモードで、嬉しいことに連射も可能だ。
「凄惨な技だけど、たんと喰らいなよ!」
床面の至るところで爆撃が起こる。安全圏からの爆弾投下、陰湿だが確実に追い詰める戦術だ。
爆風も爆発自体も、ロボットに直撃していないはずがない。
大体こんなもんか、と思ったところで投下を止め、煙が晴れるのを待った。
「……おいおい、傷一つ見当たらないよ」
「うむ、耐爆性能もバッチリだな」
「やるなぁ!爆破事件増えたしなぁ……助かるぜ」
ガラスの外と中では、当然だが、雰囲気の凄まじい温度差があった。
戦っている当の本人には聞こえていないが、客観的に見れば倫理的問題に問われるだろう。悪く言えば、異国の人間を連れ回して戦わせているのだ。
(猛進してくるか。あの速さなら僕が捕まることはまず無いけど……遠距離攻撃は持っているだろうね)
思っていた通り、爆撃を感知したからか、攻撃意志を感じ取ってガトリングガンを放ってくるようになった。
空中で銃弾を避けながら、ガジェットの機能を弄っていた。
「ポンポンと能無しに爆弾を放っていてもキリが無いしね、レパートリーはこれだけじゃないよ――」
銃弾の嵐が吹き荒び、それをかき分けながら右腕にエネルギーをチャージし始める。
〔E・ネオンボム、チャージ完了〕
「そんな名前だったんだ、さあ、発射だ!」
ドカン!という音ではなく、ブォンッ――というエネルギーが激しく拡散、運動するような音が鳴り響き、広範囲を青く眩い光で包む。
物理的な攻撃の枠になるが、限りなく魔法に近い攻撃法である。つまり、鋼でできた、殴れば粉砕骨折しそうな相手にもある程度の攻撃が通る。
「そんな手もあるか。やるね、モルモットくん」
(直撃したろ、大破してくれると助かるぞ……!)
爆ぜたエネルギーの残留が全て無くなり、姿が見えたが、まだ平気な顔で立っている。
盾のような物を構えて、爆破を軽減していたらしい。
本体へ当たっていれば破損は免れないだろうが、盾と右腕部に損傷を与えるのみであった。
「流石に傷つくか。ここは要検討っと」
パソコンでメモを取り、改善点を書き上げていた。
今よりももっと強くする予定があるようだ。
(威力のみじゃダメか。なら、少しだけ変えるか)
「少し物量でも攻めてみよう」
〔はい。右腕部をバズーカに変更しました〕
バズーカは一発一発が重たい遠距離攻撃を放つ。単発威力ならばこの武器ではトップクラス、機械相手でもかなりの期待ができる。
「――喰らえ、雷電の砲撃を!」
爆発する電気の砲弾を複数放ち、先程よりも高い威力と量、そして少しの派手さで攻め込む。
ギルは蛇行しながらこちらへ向かってくる。攻撃範囲を的確に避け、一撃も掠らずに足下へ到着した。
「ちっ、そりゃ速いよね、捕縛特化なら――!」
その後、背部に付いたジェットを噴射させ、急上昇する。いつの間にか同じ高さ、そして目前まで接近されていた。無機質から感じる冷淡な圧力が強まり、自然と体が後ずさった。
「まずい……!」
危機を察知したが既に遅かった。
テーザー銃が的確に胸を狙って撃たれる。
(無理な避け方をした……、慣れない空中動作で体勢が……!)
「ぐっ……!チェンジだ、ヨーヨーに!」
間一髪で左に避けられたが、右腕のバズーカ部分に当たってしまい、一度武器を持ち替え、ヨーヨーの糸でギルの腕にぶら下がる。
一瞬の休息、すかさず次の行動を考え、実行しなければならない。
(このまま後ろへ回る、この重々しさなら空中制御はそう簡単に出来ないだろ!)
少しの遠心力で距離を伸ばす。
「よし、来い!復旧のダブルガジェット!」
間合いを調整し、武器を戻す。それと同時にモードを変換する。
〔ジェット、右腕に装着完了。レーザービーム、左腕に装着完了〕
レーザービーム、基本的には高圧、長射程の光線を真っ直ぐと飛ばす。属性付与が可能であり、炎熱、水流、樹木の成長、風力、凍結の五つの属性から、様々な効果を得られる。
「炎熱を付与、喰らえ――!」
紅炎が旋回する、高電圧のビームが放たれる。ギルは振り向きに間に合わず、もろに喰らってしまう。
「爆破耐性があるなら熱耐性も搭載済だ。さあ、どうなるかな?!」
手に汗を握り、自分達の作った機械の性能の程を心待ちにしている。
「炎を付与した、熱と爆発、そして高電圧のコンボ……機械の君に耐えれるかな?!」
黒煙が切り裂かれ、一筋の閃光が輝く。
「――!テーザー銃ッ!」
目が突然の光に驚愕し、焦って脳に信号を送る。それによりなんとか避けることに成功した。
そんな朧の事を、自身ですらも気にしている暇はなく、この場にいる人間全員が、黒煙の晴れる中に佇むギルの姿に、目を皿のようにしていた。
「耐える……か……。どれだけ高性能なんだ……」
感心を超えた戦慄により、冷や汗が頬を伝った。
〈おいおいまじかよッ!?腹に穴空いてるぜ?!なのにまだ動くってのか!〉
「損傷は免れないが、まさか健在だとは、私も思わなかったよ……」
ギルはテーザー銃を連射している。
朧はそれをなんとかして避け続け、タイミングを見計らう。
(もう一発、もう一発レーザーを喰らわせてやれば倒せる……どうするか)
ジェットを吹かし、空中遊泳しながら思考を巡らせる。空中の機動力はこちらが格上だ。
奴はジェットを真下にしか噴射できない様で、空中に来れば、その点からは動かない。
利用するならば奴が無防備な今、この状況だ。
「――チェンジ」
〔左腕、ボムスロウに変更しました〕
(さっきの、やってみようか)
黒く小さな弾を、緩やかに真上へ投擲する。
少し上昇した後、直ぐに高度を下げた。
「何やってんだ?アイツ」
「小さくて良く見えないね」
朧の全身を灰色の煙が包む。
「煙玉か」
景色の騒がしさの反面、両方の部屋に沈黙が走った。
(属性を二つ以上混ぜられるけど、相殺されて単なる光に戻るが……今はそれは気にしなくていい。効果だ、今は効果だけを重視する。――水流、樹木成長エネルギー付与)
属性を二つ以上混ぜた時、属性を相殺し、レーザーの効果だけを残すことができる。
「発射ッ……!」
纏った煙から、ギルの目が閃いた時と同じように、白い光が一閃を放つ。
「煙幕からのビーム発射……ただ、ギルの学習能力的に……」
真っ直ぐ放たれた光は、いとも簡単に弾かれた。
「流石だぜ、AIってのは」
だが、伸びた光は一本だけではなかった。
(本命はこっち……!)
弾かれる直前に、ビームが枝分かれし、湾曲する。
「残念……!」
そして、枝分かれした方がギルの背後から再度撃ち込まれる。
「水流による自在性と、樹木の成長による枝の発達だ」
ギルは墜落し、床に静止した。
「あの子、よく頭が回るね。逆に、改善の余地を見つけるのが難しいよ」
「へえ……いいな、アイツ」
やがて、ギルはその場に倒れ込み、爆散した。
〔ジェット噴射終了。緩やかに落下を開始します〕
(ふむ……この武器、ヨーヨーとか【快癒のツインナイフ】にくらべると俊敏性は落ちるね。けど、破壊力と対応力は明らかにこっちの方が上だった。総合的な便利さは流石にナイフの方が勝るけど)
使い心地を振り返り、ゆったりと床に足を着いた。
「お疲れ様、だ。さっきの所から出てきてくれ」
朧の居る部屋にマターがアナウンスをした。
空中で凝り固まった身体をストレッチで解しながら部屋を出た。
「ふう……」
「おかえり、まさか何ともなしに勝つとはね」
「君のロボにも結構驚かされたよ」
「命!お前、面白ぇ戦いだったな!」
「頭の中のものをそのまま体へペーストしただけだよ。それで、実験の結果の方はどうだい?」
「うん。良い収穫になった、成功と言って差し支えない」
「俺もそう思うぜ」
「君の戦略的な勝利のお陰で、予想外の深い所まで、改善点が見つかったがね」
「そこは技術者の腕の見せどころだろ?」
「間違いないね。物理的攻撃以外に対する攻撃耐性、それから対空性能、それに伴って空中動作、あとは装甲の問題だな。そうだ、攻撃を喰らってみて、どうだったかな?」
「うーん、直撃は基本避けたからよくわからないけど、当たっていたら勿論捕まってたし、問題は無いと思うよ」
「まっ、普通の犯罪者がこんな高レベルな武器持ってる訳もねえし、これ以上威力上げねえでも十分だろうよ」
「ふむ、それもそうだね」
感想会からの軽い議論が少しの間続いた。
「おっと、そうだ、報酬を渡すよ。えーと……右腕を出して貰えるかな?」
「はい」
「まずは私の連絡先を登録してっと……、次はこのラボの会員証……そして、五万ポイントだ」
「おぉっ!太っ腹だなァ!」
右腕のガジェットで何かを受信し、左手では免許証程の大きさのカードが渡された。
「一応、命がかかっていたんだ。これくらいは渡さないと」
五万円……という解釈なら、個人的には有難い量だが、この国の金銭感覚が分からない。
「五万ポイントの相場が分からないんだけど、この国じゃあどれだけ凄いんだい?」
「まあ、この国にあるものなら大抵一つ以上は買えるね」
おっと、日本円での感覚で考えるよりも、かなりの金額になるらしい。
「ちなみに、駅でこっから自由区に行くのに大体五百ポイントだぜ!」
「ありがたく受け取るよ。あと、会員証は……僕なんかが貰っていいのかい?」
「ん?ああ、貰ってもらわないとこちらが困る」
「困る……?」
「この部屋、関係者以外立ち入り禁止だし」
「え?」
この局長、堂々と不正をしていたらしい。
「あぁ、あと駅の話で思い出した。定期券も渡すよ」
「凄いくれるね……ありがとう」
前の国での過ぎた独力とは異なり、至れり尽くせりだ。有難いことこの上なかった。
「局長、金持ちなんだぜ?」
「ここの局長の私が金持ちじゃなかったら、悪徳企業だろうな、ここは」
「それもそうだな!」
「もう一つ渡しておくか。君、私の住んでいるマンションに住むといいよ。宿が無いと困るだろう?」
「あ、ああ……君、凄いね……」
「可愛いモルモットの世話をするのは飼い主の役目だ」
「それは気に食わないけど」
「私の隣の部屋だ。帰りたくなったら私に声をかけてくれ。――いや、もう遅いし、帰ろう。定時オーバーだ」
「おっと、もうそんな時間か!じゃ、俺は先にお暇するぜ」
「ああ。ではまた。では、私達も行こうか」
「そうだね、かなり疲れた」
エアとの戦いから休息らしい休息がなかった為、とてつもない疲労が体に覆いかぶさっていた。
技術者開発局を後にし、駅へと向かった。
○ガジェットのモードについて
ジェット:ジェットパックです。片腕でも十分な飛行能力があります。手の甲の上に飛行機のエンジンのようなものが付く為、手の平は空いている。
ボムスロウ:色々な爆弾を放つことができる。巨大な筒が腕を覆い、そこから任意の力加減で爆弾を放つことが可能です。
バズーカ:砲弾を発射する。この時、手を常にグーにする必要があり、放つ際に手の平を広げます。つまり、手の平から放たれます。
レーザービーム:五つの属性は5本指に対応し、装着している腕輪を通してレーザーを放つことで属性の融合、効果の変化、レーザーの拡大を行っています。




