二章I 『復旧のダブルガジェット』
《カルダシェフスケール》という言葉は、ある天文学者が提唱した、所謂文明レベルの段階である。
『タイプ一』とされる段階では、地球に存在するエネルギーを丸々掌握し、自由自在に利用できる段階を指す。現在の地球ではそのレベルにまで到達して居らず、それの六から七割程度とされる。
「あっちの国の神はどんなやつなんだい?」
エアと戦闘の後、しばらくの休憩を挟んで移動していた。
「うーん、そうだなあ。男性で、頼りになるお兄さんって感じかな」
力を多少借りて、二つ目の国へと共にに向かっていた。
「あー、でも、結構義理深いってか正義感の強い人だから、自分勝手に物事進め始めるとかされると結構嫌がるかも?」
「要は、理にかなっていればいいんだろ?」
「そうね〜」
軽やかに山を昇り降りする。
「そういえば、前世は画家をやっていたんだよね?」
「まあ、一応。世間からはそうやって呼ばれてたよ」
「活動してた時の名前とかはあるのかい?」
「ええっと……確か、【夕凪】って言われてたかな」
「おぉ……!聞いたことあるな」
元の地球では、半年に一回は展覧会が開かれる程に人気で著名な風景画家だった。
その展覧会は、本人の意思で行われていた訳ではなかったが。
「えっ、ほんと?サインいる?」
「ふっ、戻ったら頼もうかな。実際、すごく綺麗な絵だしね」
「なんか、知らない所で有名になってたよねぇ」
インターネットでかなり有名で、自分も密かに、新しい絵が見られるのを楽しみにしていた。
「君って何歳なの?」
エアが尋ねてくる。
「二十三だね。社会人なりたてって感じだよ」
「わぁ、ピチピチ。あんた結構優秀でしょ」
何を判断材料にしたのか、褒めの言葉を貰った。
「いや、そんなことはないと思うけど……」
「その歳で銀行の人やってるんなら多分将来楽でしょ?」
「そんなに大した役職じゃないよ。しかも、そのあっただろう将来も豹変してるしね」
「たしかに。私なんか訳も分からず神様になってるし」
己の境遇を嘲笑うかのように言っていたを
同じことを共有する会話は、やはり誰としても楽しい。世界が変わっているので、前世の記憶がある者との話は自然と弾む。
「それで、君の方も教えてよ。不可思議な画家の事なんて誰でも気になっちゃうさ」
「私は前だと二十六だったね〜。高校卒業してすぐあんなことしてたから、大体八年くらいはフラフラしてるのかな?」
なんと、歳上だったらしい。若々しい見た目をしていたので、自分と同じか一個下ぐらいだと思っていたが、驚きの事実だ。
「いいね、自由な人生だ」
「ていうか、ほんとビックリ。私さ、もっと身長小さかったんだけど、景色が高い高い。見た目も変わってるみたいで、複雑な気持ちだよね〜」
「やっぱり今とは見た目が違うんだね。変わっていないのは僕だけか……」
「でも、顔は変わってなくて、なんか、お姉さんらしくなっちゃったかな?」
冗談も混じえるタイプのようだ。……いや、意外と正しいことかもしれない。実際、雰囲気は大人だ。
というか、エアのコミュニケーション能力が高い。こちらも気兼ねなく話すことができる。
「あっ――そろそろかも。鉄の香りがしてきた」
「て、鉄の香り……?」
「え?感じない?」
「うん……」
鉄の匂いは感じずとも、目線の最奥にはかなり高い直方体の物体が微かに見える。
「あそこはね〜、ほんと凄いよ。空を飛ぶ車があるし、真上を見るとでっかい時計があって、時間とかニュースが分かるんだよ」
「SFチックなんだね?」
「あーそうそう。アニメ漫画の世界をイメージしたそのまんまだと思うよ」
近未来的な建造物、機械が溢れかえる国というイメージになった。
「【技術の国】って言うから、産業革命とかその辺の蒸気機関みたいなスチームパンクだと思ったけど、もっと先の発展か なんだね」
「あー、そういうのは別にあるね」
別の国、ということか。
「そういえば、この世界には、いくつ国があるんだい?」
「ここだけなら八つだったかな?それより他の所は行ったことないかな」
「八つ以上か。骨が折れるね……」
「頑張ってね〜。――っと、ほら、着いたよ」
「なんだ、これ」
雑談の末ようやく辿り着き、眼前に四角形の枠のようなものがずっしりと立ちはだかった。
「まぁ、門だね。潜ってなんか起きるわけでもないよ」
「なんだ、ただの装飾か」
「そうそう。ほら、行ってきな」
「うん。感謝するよ」
「困ったら助けてあげるね〜」
神は飛び立って、自分の国の方向へと戻って行った。
門というには威厳のない門を潜った。
「はぁ……!?」
幻かと思った――いや、幻であった方がまだ納得できる。
門を潜る前、確かに高いビルなどは見えたが、潜った瞬間に景色が一変した。
「言ってた通りのSFだ……でも、これは想定していてもビックリするよ……」
空を飛ぶ車、新幹線よりも速く走る列車、乗ると一瞬でどこかへ飛んで行く台……何もかもが見たことの無い代物で溢れている。
建物はほとんど黒や白で統一され、道路らしき物も全て黒いツルツルとした材質で造られている。
もし、以前の地球の文明レベル、カルダシェフスケールとやらが一へとたどり着いていたなら、このようになっていたのだろうか。
かつてあったどの先進国も、これを見れば空いた口を閉じられなくなるだろう。
かつて、産業革命という言葉には、蒸気機関車や蒸気船の普及、工業化の促進などで、スチームパンクという言葉が当てはまるだろう。
だが、今見えているこの景色は、産業や工業の発展という言葉では正確に言い表せないような気がする。言うなれば文明レベルでの進歩。
《文明革命》とでも言うべきか。
「これは……魂消たな……」
見知らぬ文明に足を入れた。
「さて、どうやって動こうかな」
とりあえず足を踏み入れるも何処に何をしに行けばいいのか検討もつかない。
一先ずは前に進み、何かと相見える事を願う。
真上を見ると、エアが言っていた通り、時間が見える。現在は十四時と、丁度お昼ご飯の時間だ。そういえばお腹が空いている気もする。
それと、以前と同じように睡眠の取れる場所を探さなければならない。
「ん?なんだあれ」
プロペラ機の着いたアタッシュケースのような物が飛来してきた。
それが僕の目の前で着陸し、如何にも『開けてくれ』と頼むように横たわる。
「なんだ?開けていいのか?」
幾許か不安になり、開けてみる。
(あっ、武器か……?)
完全に忘れていたが、全ての国で武器を渡すと、あの女神が言っていた。
推測通り、開けて姿を現したのは二つの……言葉では上手く言い表せない機械でできた何かだった。
「武器、だよな……。どうやって使うんだ?」
持ち方も分からず、箱ごと持ち上げて、傾けたり振るったりして様子を見ていた。
〔内側にある穴に腕を通し、五つある指輪に対応する指を通してください〕
顔を間近まで移動させたその時、自分にとって、何か突っかかる声で指示を受けた。
「しゃ、喋った!?」
どうやら人工知能が搭載されているようだ。
驚きで一瞬、ケースを持っていた手の力が緩んだ。
「こ、こうか?」
三つほど連結する腕輪に手を通し、その内側にある指輪に指を通す。すると、装甲付きの指ぬき手袋のような見た目になった。
どうやら正解のようだ。
頭に次々と説明書が書き込まれていく。以前までに手に入れた武器と同じ感覚だ。
この武器の名は、【復旧のダブルガジェット】。
自由に機能を変更でき、状況に応じて戦い方を柔軟に変えられる武器のようだ。
ビームサーベル、バズーカ、レーザービーム、ボム、ジェット噴射に切り替えることができる。
片手ずつ別々で変えることもでき、ジェット噴射で飛行しながら爆弾を落とし続けるという悪逆非道なこともできる。
便利さは【快癒のツインナイフ】に劣るようにも感じるが、破壊力、対応力はかなり秀でているように見える。スピードも、ジェット噴射を使えば足りないということは無い。
〔装着確認。生体解析中――【朧命】、合致率百パーセント。ナビゲーションを開始します〕
「あ、ああ……」
何やらごちゃごちゃ言っている。よく分からなくなっていたので、その場に仁王立ちした。
〔復旧のダブルガジェットのナビゲーションAIです。聴覚センサーにより、貴方様のご要望や指示に沿った応答が可能です〕
「そ、そうか。じゃあ……まずは何処に行けばいい?」
とりあえず聞きたいことを聞いてみる。
〔かしこまりました。こちらがこの世界の全体地図になります。貴方様の視点から説明すると、向かって正面がリニアモーターカー乗り場【中央スクランブル駅】になります。こちらからポイントを払って改札を通り、リニアモーターカーに乗ることができます〕
(リニアモーターカー……確か新幹線よりも速いやつだよな)
「ポイントって言うのは?」
〔はい、ポイントとは、正式には【電子式契約通貨】といい、この国で通貨の役割を果たします。現在、貴方様の所持ポイントはゼロです。こちらは依頼の達成、暴走機械の停止、臨床実験への協力などで入手が可能です。尚、職に就いて労働することでも入手可能ですが、貴方様にそのような時間はありません〕
「へえ……。他の場所は?」
〔向かって右側に見えるのが【F.A.F.システム】です。専用の機体に身体、神経を接続し、自分が現在想像している世界を仮想現実へと投影し、実際にその世界を体験できるという、この国では最もポピュラーな娯楽施設となっております〕
「なにそれすごいね」
技術力の高いことをしていることは明瞭だったので、『すごい』という言葉で流した。
〔一度の接続には約二千ポイントが必要です〕
高いか安いかはわからない。
「左にあるのは?」
〔はい。あちらは【技術開発局】本部になります。研究、実験、改善、開発等々、この国の技術に関する全てをあそこで担っている為、大構造となっております〕
「君を開発したのもあそこってことかい?」
〔はい。本部で製造されたことに間違いはありません〕
何か含みのある言い方だ。
「ふぅん……。他に面白そうな場所はあるかい?」
〔北西の方角には居住区が存在し、こちらのリニアモーターカーに乗ることで、【居住区駅】に行くことが可能です。居住区には商店街が構えられており、食事や衣類、雑貨などを揃えることが出来ます。また、リニアモーターカーで、反対方向へ向かうと【自由区駅】へ到着致します。自由区は、名の通り、広大なフリースペースが存在しています。貸し切ることも可能で、機械の試運転や、武器の調整など、幅広いことが可能です。また自由区郊外に出るとこの国最大の百貨店があり、諸々と揃えることが可能です〕
「この国のショッピングモール……。どんな規模してんだろう……」
〔他に聞きたいことはありますか?〕
「いや、特にない。感謝するよ」
実を言うと、これは嘘だ。
聞いていいかどうか不明だった為、迷っていた。
〔かしこまりました〕
……いや、聞こう。
「あー、ごめん、最後にもう一つだけ」
〔なんでもお聞きください〕
「なんでルクスの声なんだ……?」
〔こ、これは、この装置を製造されたのが【ルクス・オゾン】であり、ボイスナビゲートの声をこれにするしかなかったのです〕
心做しか少し早口になったような気がした。
「自分で一音ずつ録音したってことかな……」
〔お静かに〕
「あっ、はい」
と、ふざけた会話をしていたところ、少しハスキーで、気怠げな女声に話しかけられた。
「おーい。君、ちょっといいかな?」




