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|真空崩壊《オメガ》の前奏 Op.3 ツイの一匹狼  作者: 八環
一章 『廻らぬ自然』
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一章X 『然るべくして自ずと為すもの』

「ほんと、他の人が見たら笑っちゃうほど惨めだよ。【水地・間欠泉】」

 地面から勢いよく水が吹き出し、それに押しのけられ、圧倒される。


 僕は吹き飛ばされた先で、そのまま俯せに倒れ込んだ。

 無意味だった間欠泉に対する力みが、最後の踏ん張りだった。

 体にはもう露ほども力は入らず、息をするだけでも一苦労だ。

 意識だけはまだ残っている。

 視覚や聴覚もまだ顕在のようだ。話は聞けるが、対話はもう面倒くさい。


「人間にしては頑張った方なんじゃない?」

(はあ……だめか。力じゃあ勝てない)

 通っていた刃は結局、幻に過ぎなかった。

 汚れ一つ塗ることもできず、誰もが予想できたような構図になってしまった。

 神の言葉に対し、なんの感情も湧かない。


「私の庭を堂々と潰した。その時点で死んだも同然だよ、愚かなひと」

 涙を出す体力もなし、怒れる気力もなし。


 全てはあの洞窟からの失敗から始まっていた。


 追われていなければこんなことにはなっていなかった。


 怒らせなければちゃんと話を聞いてくれるような性格をしているし、地雷を踏んでしまったのが運の尽きだ。


 そもそも雨さえ降っていなければ、これ程までに慌ただしい事態にはなっていなかったのだ。


 どこまでもツイていなかった。


 後悔の言葉は脳内で永遠と流れ続ける。


(時間稼ぎとかも無駄かな……。結局は殺される)

 何もかも吹っ切れて冷静になってしまう。

 一縷の希望もなければ、感情がなくなるのも当然であろう。


 あの時のような走馬灯ももう流れては来ない。

 一発逆転という見込みもないそうだ。


「血が飛び散らないようにして殺さないとね。水責めかな。絞殺?あとはなんだろう、毒殺とかかな?」

(整った顔して、えげつないこと言い放つね……毒は、苦しいからやめてくれ)

 些かの恐怖だけは感じられた。

 苦しんで死ぬことは確定したようだ。


(いつまでこんな体勢させるんだ……。草が刺さってチクチクする……)

 既に死ぬことに対しての恐怖は二の次になっていた。

 このような状況でなければ、流石に怖気付いてはいただろうが、ここまで死ぬことが明瞭だと、こちらも潔くなる。

 寧ろ、死ぬことを望み始めてしまっていた。


「よし、水にしよっと」

(来たか……)

 死は、一歩前まで近づいてきた。


 もう少し早ければ結構嬉しいことだった。


(殺すんなら、ね……)


 その時――、神は跪いた。


「あれ……?」


 二分ほど経っただろうか、ようやく回り切ったらしい。

「なんで……技の毒は全部回復したはず……」


 人生で初めて《死》の演技をした。

 何も楽しくはなかったが。

(……まあ、半分本気だけどね)


 さて、答え合わせの時間だ。


「【アンチバイオ】、だよ」

「あれ……?起きてる……?」

 意識は完全に残っていた為、快癒のツインナイフによる自動回復が、徐々に進行していた。


「いやはや、説明書ってのはちゃんと読んでおくものだね」

「何言ってんの……?」

「毒属性って、暗殺とかステルスアタックにすっごい向いてるらしいね。だから、相手に気づかれないように毒を仕込むのは容易いってわけだ」

 朧が放った【アンチバイオ】は、魔力が切れたと思われたあの場面だ。

「つまり、何を……?」

「アンチバイオを限界まで凝縮して、地面に仕込ませる。そうすると足つぼみたいになって、相手の足裏にぷすって刺さるんだよ」

 要は魔法の応用だ。


「そしたらあの魔法の全ての毒が君に送られて体内でワイワイやるってわけだ」

「魔力がなかったはずじゃ……?」

 その事について、朧には引っかかるところがあった。

「僕が知るこの世界には、《魔力》なんて概念はそもそもないよ。その証拠に、君は無尽蔵に魔法を放っている」

 魔法で消費するのは、魔力ではなく体力。主に、脳への負担が大きい。

 想像力と智恵によって、魔力及び魔法が喚起され、手や武器、書物などを媒介物(メディア)として経由し、具現化する。

 この世界における《武器》の第二の役割でもある。

「そん、な……」

「神なのに、そんなことも知らなかったの?」

 軽蔑ではなく、驚愕だった。


「ふっ……ふふ……馬鹿だね……。こんなことされても、回復なんていくらでもできる」

「そんなこと知ってるさ。だから、次の一撃で決める」

「へ、へえ……?」


 案外、簡単に策に嵌ってくれたことには驚きだが、勝てることには少しばかり確信を得ていた。

 この毒はそのための下拵えであり、生命線でもある。

 賭けに出ていたのだ。

 朧はその賭けに勝利し、最後のひと押しにまで辿り着いた。


(これは練習してないけど……大丈夫だろ)

 今の今まで、姿の片鱗も現さなかった技がまだ、ある。

 快癒のツインナイフにおける最終奥義に値する技。

 存在自体、渡された時から知ってはいたが、使うほどでもなく、恐らく体力の消費が激しい為に使っていなかったのだ。

 神の御前にしてここで使わない訳にはいかない。


(宣(・)言(・)しよう。ここで総て上手くいく――)


 ''噴き上がりし溶岩は、何人(なんびと)も寄せ付けず、反逆の狼煙を靡かせる。渦巻く水流はやがて万物を呑み込み、無という秩序を奏でる。茂る大樹は命を抱き、大地を激励する。無数の轟く雷鳴は、瞬き、裁き、天地を脅かす。澄む青空を翔ける疾風は世を渡り、真実へと姿を変える。情熱を秘めた氷塊は、寒風に安らぎを与える語り手となる。連なる大地は、理の礎となり得る力が、生命への裏切りを果たす。纏う毒素は原子までも食らい尽くし、滅べとの命令を放つ。花は全てを意味し、破綻させる。大いなる奇跡が星に閃き、我らが故郷を築く。''


――今此処に、創星の宣言を――


「【創星のデクラレーション】」


 《生命の星》を彩った数々の自然が結託を成し、神に襲いかかる。


 恐ろしさを秘める優しさ。

 抱擁の中に隠れた凶刃。

 宣言を強制させる様な強烈な技だ。


「災害……?!うっ、回復しかできない……!」

「回復の隙も消すッ!」

 数々の天災レベルの自然が、絶え間なく順々に発生する。

 炎を水でかき消そうが、雷が反撃を見据えて襲いかかってくる。氷を岩石で破壊しようとも、樹木が蔦り、包み込んでいく。


 確実に神を圧倒している。

「ニュアンスとしては五行と同じさ!君の元素を僕の元素で破壊するッ!」

 炎は水に消され、木は冷気により枯れ、水は雷によって痺れる。常識だ。

「既に知っていることをペラペラと……!」

 この時、朧は珍しくも調子に乗っていた。


(だめ……!回復が間に合っていない!定期的にくる毒と花でどんどん消耗していってるだけ!)

「限界が近いんじゃないかい?!僕はまだまだ進撃するよッ!」

「うるさい……!【水雷・超旋雲(スーパーセル)】!!」

 雨風、雷を含んだ気流に乗った雲が襲いかかる。


 隆起する大地や羅列する樹木によって、雨風や雷を凌ぎ、朧本体がダメージを受けることはまずないが、距離を取る為ならば十分な技だ。

「ほんと、急にいい気になるんだね。こっちにも、そういうのぐらいあるって!」

「へえ、そうか!やってみればいいよ!創造の爆発力を上回るような技を!」


''寂寞を纏い廻転する運命の共同体。それはまだ見ぬ色を飾り、奇跡を具象化する。時との歩みが動き(アニマ)を産んだ。熱は冷め、涙が額を溺れさせた時、流した涙こそが、孤独による悲しみを打ち消す。元素、溶岩、大気、海洋、植生、雷鳴、氷河、山岳。もう、悲しみはない。命(いのち)は、命(いのち)に恋をする。輝け、生じ、隆起せよ――。''


――かつてより願おう、二度目の奇跡を――


「――【調星・隆起する生命《カンブリア・エクスプロージョン》】」


 幻影か、それとも記憶か。

 古生代から現代まで、かつて地球に存在した生物達が一点に集約し、光となって小さな星を形作る。


「私が秘めたのは、自然の抱(・)擁(・)」

「僕からの怒りを全て包み込もうって魂胆だね?」


 『秩序を築き、恵みを与え、星を包み込む自然』と『星の感情から破滅と混沌を招き、齎す自然』の戦い。

 矛盾が衝突する。


「ほら、来なよ」

「うん、行こう」


 小さな星が爆ぜる。

 眩い光が辺りを照射し、ありとあらゆる生物、魔法が隙間なく放たれる。

 生まれた命(いのち)が進軍してくる。


 それに対し、怒りは勢いを増し、災害となり、生命を潰そうと激昂する。

 災害が生の優しさにより鎮静させられるか、歴史と歩んだ生命が突如の災いに押し潰されるか。


(三葉虫、アノマロカリス……あっちにはディメトロドン、サーベルタイガー。生ける博物館か、ここは)

 天災を司りながら、辺りを空を仰ぐ。

「――!トリケラトプスか……!」

 頭部に角、盾を構えた太古の巨大生物が正面から突進してくる。

 間一髪で避けることは出来たが、他にも絶え間なく襲来する。


(優勢に見える……。でも、段々と勢いを増してる。波にも、炎にも、私の生物たちは飲み込まれてる)

 全体としては混沌そのものだ。

 一方では海洋生物が燃え盛る火炎に焼かれ、一方では恐竜が、隆起、沈降を繰り返す大地に吹き飛ばされる。

 至るところで世紀末の舞踏会のような、滅茶苦茶な光景が見られる。


(捌ける。余裕で捌けるけど、一瞬の油断で押し返される……)


(二時の方向上【ネプチューン】……十一時の方向正面【スルト】……。隙を作っちゃダメ、弾幕で制圧する……)


(爆発、全然収まらないね。あれを抑えられれば勝利は確定するんだけど……)


 衝突は現在停滞中。

 どちらの勢いも同程度に達し、拮抗した押し合いになっている。

 だが、この滞りは不安定で、どちらかが細胞レベルの小ささでも隙を作ったならば、この互角に優劣の印が押される。


(ただ切り抜けるだけじゃ厳しいね。少し工夫するなら……何か利用できないかな)


(あの災害、どう鎮めれば……。為す術が見つからないなあ……)


(使うなら動物か。こいつら、実態は無さそうなのに触れるし、何も出来ないことはないはず)


(態と隙を作って突っ込んできたところを……ってので通じるかな)


 どちらも思考と戦闘の両立で、とても集中できる環境ではなかった。

 先に確実な一手を打てた方の勝利になる。


(イルカ、スピノサウルス、スズメバチ……探せ、勝利の女神を探すんだ)


(重要なのはタイミング……。いつ、どこに仕向ける……?)


 思考は進む。

 結論への競走を無意識に行っている。

 先にゴールへ向かうのはどちらか。


(ダンクルオステウス、秋茜……。――あれだ!エイ、そしてその上のプテラノドン!上がれ、そしてあの光の塊をあいつごと……!)

(真正面に今ッ!一瞬緩んだ!ここで確実に……!)


 同時だ。


(ッ!居ない!?)


 否、数歩違う。


「もらったッ!!」

 災害は集約する。

「ッ……!」


 光が打ち砕かれ、神の姿が顕になる。


 光は辺りに散らばり、災害は全て巻き込むために畝り、拡大し、それぞれが龍のような挙動をする。


 歪曲する災害は、脈のようになり、崩壊に対する恐怖と自然という神秘の美しさを同時に描いていた。


 これが、これこそが――


――星を賭けた、一つのアート――

○技解説

【水雷・超旋雲】:『すいらい・スーパーセル』と読む。空に巨大な雲を発生させ、旋回させる。暴風を巻き起こし、雷を落とす。超広範囲技で、扱いには注意が必要。

【水地・間欠泉】:『すいち・カンケツセン』と読む。狙った場所に間欠泉を発生させ、敵を天空に吹き飛ばす魔法。高温なので火傷する。


【創星のデクラレーション】:漢字部分は『そうせい』と読む。快癒のツインナイフにおける最終奥義であり、火、水、木、雷、風、氷、地、毒、霧、花の順番で災害級の魔法を放つ。その魔法は蛇のように自在に動き、軸周辺にまで影響が及ぶ。火を初めとし、約5秒後には次の魔法が放たれ、それが長時間続くので、長引けば長引くほど被害は甚大である。デクラレーションとは《宣言》


【調星・隆起する生命】:『ちょうせい・カンブリアエクスプロージョン』と読む。限りなく液体に近い光が、どこからともなく収縮し、爆発をする。その際、古生代~現代までの、ありとあらゆる動物が放たれ、全方位に突進する。おそらく、その動物には微かだが意思がある。

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