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|真空崩壊《オメガ》の前奏 Op.3 ツイの一匹狼  作者: 八環
一章 『廻らぬ自然』
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一生IX 『VS自然』

「【カジセイユ】」

「お、おい、まさか……っ!」

 足元から突如、巨大で鋭い木の根が生えてきた。

(なんだ……!?木属性魔法か?!)

 確実に殺そうと決意して放った鋭さ、大きさだ。

 多分、めちゃくちゃキレている。


 一体全体何で堪忍袋の緒を切ってしまったのだろうか。

 考えられるのは花を潰したことだろうか。または人間を心底嫌悪しているとか?

 いずれにせよまずい、話し合うという計画は総崩れだ。

 初っ端から戦闘を強いられ、そこから、先程挙げた二つのミッションを遂行しなければならない。


 まだ一言も話したことはないが、あの手の性格は怒ったら収集がつかなくなるタイプだ。戦闘をメインに会話に臨んでみるしかない。

「も、申し訳ない!突然追われていたもので、焦っていたらこうなってしまった!」


 魔法は絶え間なく放たれ、こちらから攻撃をする暇がまるでない。

 時には炎、時には水。柔軟に手を替え品を替え技を繰り出してくる。


 また、肝心の会話はと言うと……。

「……」


 無視だ。

 無視というよりか、怒りで周りが見えていないようだ。

 ただ一点、朧をこの手で葬るという目的のために体を動かしている。

 まさか、未だ仮定の段階ではあるが、動植物を痛めつけるという行為が禁忌だとは……いや、少し考えてみれば当然のことではあるが、これ程までに話が通じなくなるとは、驚きだ。


「違うんだ!決して態とじゃない!神の前で故意的にこんなことしてられないよ!」

「うるさいからさ、燥がないでくれる?」

「くっ……!頼むよ、一度止めにして話をしてくれないか!」

 攻撃の勢いは一向に変わらない。


「【スルト】」

 業火が地面から吹き出す。とても広範囲で、射程も長い。

「はっ――!?魔法にも進化系があるのか……!」

 先程の【カジセイユ】も、木属性魔法の上級魔法のようだ。


 このままでは、今までの所業が全て水の泡だ。

 何か、鎮めるきっかけでもあれば良いが、そんなものはどこにも見当たらない。

 こうなれば、付け焼き刃の話題だ。

「今こんな事をしてる場合じゃないんだ!ルクス!知っているよね!そいつに関係した話なんだ!」

 試しに神のリーダー様を盾にしてみる。


「ルクスちゃん――?嘘だよね。というか、ただの人間が言うルクスちゃんのことなんて、信じられるはずないでしょ」

(一般人はルクスについて知らないのか――?!おとぎの国の登場人物とでも思われてるのか、あいつは――!)

 失敗だ。


「【アンチバイオ】」

 【べノ】とは異なり、巨大で俊敏な毒の針が真っ直ぐ飛んでくる。当たれば、毒以前に貫かれてお陀仏だ。

 話も信じてもらえるはずがなく、そもそも、聞く耳を持つ気がないらしい。


(これじゃ消化試合だ……。こっちも反撃に出るしかなさそうだね)

 反撃してどうなるかなんてことはハッキリと分かっている。

 ただ、今は生きるため抵抗する他ない。

「タイミング……ここだ――【業火の反駁】ッ!」

 相手は神、通用するかはわからない。

 だが、あれだけ木を張り巡らせているのだから、炎ならばどうにかなってくれるだろう。


「【ネプチューン】」

 大量の水が渦巻き、中心に集う。直後、爆発を起こし、周囲に大量の飛沫を飛散させる。

 反駁には動じなかった。


「【トールハンマー】」

 次は雷だ。

 体の濡れた朧をピンポイントで狙い、特大の雷が落ちてくる。

 大魔法のコンボをいとも容易く直撃してしまう。

「ゥガ――ッ!」

 筋肉が強ばり、神経が怯え、身体全体が動かなくなる。

 雪原エリアで戦った鯱なんかよりも、遥かに痛かった。

(ありえない……!どんな威力をしているんだ……!)

「情けない声。そろそろ死んでくれない?」


 だめだ。反撃は意味を成さない。

 突撃したところで制裁を与えられるだけだ。

 だが、もう戦う他に術はない。


「断る……って言ったら?」

「拒否権があると思ってるんだ?」

「思わないことには始まらないからね。首ぐらい振るさ……!」


 刀身の炎はまだ燃えている。

 真っ直ぐ突撃し、切りかかろうとする。

 勿論、相手はこれを防ぐだろう。


「はあ……」

 魔法の予備動作、恐らく地属性だ。

 予想的中。

 水か地で防ぐことは想定していた。


 これもまた予想は当たり、地属性だ。大きな岩が眼前に聳え立った。

 ならばそれよりも高く、木属性の使用で枝を生やし、跳躍する。


「あっ、跳んだ――【トールハンマー】」

(それも読んでいたよ!)

 呪文を唱えた。髪が静電気で逆立っている。

 このタイミングだ。


「【花束の遺言】!」

 寸前で落雷を避け、一閃を繰り出す。

「……!」


(くっ……。少しズレたか)

 神の右肩を掠め、そこから花が咲く。

 このまま行けば養分を吸い取ってくれるはずだ。

 そして、背後に回り込むことにも成功した。


「面倒だなぁ……」

 ゆっくりと振り返ってくる、そのタイミングだ。


「呑気だね!【天穹の真実】!」


「っ――!」

 読み合いに勝利した。

 かなりダメージを与えられたはずだ。


「話を聞く気は出たかい?」

「……調子乗らないでよ、効かないよ、そんなの」

「なっ……!?」


 与えた傷が消えている。この一瞬で回復魔法を使用し、完治したらしい。

 生えていた花もいつの間にか無くなっていた。

「さて、死ぬ気にはなった?」


(これは心が折れる。ここからどうしろと……)


「いいや、残念ながら」

 虚勢だ。

 巻き返せる見込みは露ほどもない。


「見て学んだよ。その大魔法、僕も使える。」


「――【ガイア】!」


 その虚勢に身を任せ、更なる反撃に出た。

 神の真下から特大の岩石が突き出し、装飾を諸々破壊する。

流石に、あの玉座まで直すのは時間的に厳しいはずだ。


「おぉ――。ふーん、やるじゃん」

(ら、ラッキーだ。油断していたらしい)

 神は生身となり、目線が同じ高さになった。

 これなら攻撃はしやすい。が、それと同時に機動力を上昇させてしまった。

「まだ駄目なのかい?もうそろそろ疲れたんだ。誠心誠意、謝罪ぐらいさせてくれ」

「償いたいならその身を枯らせっての」

(くそっ。話にならない)


「てか、私無傷だし。物壊したぐらいで、気が早すぎでしょ」

 返す言葉もでない。

 攻撃をひたすら与えたところで、即座に回復されるのはこの目で見た。

 能力の格差も一目瞭然だ。

 形勢は未だ不動。

(天地でもひっくり返せなきゃ、無理だな)


「じゃ、そろそろ本当に殺るね」

 と、何かを取り出す動作をした。

(杖……?)

 地面から杖を召喚し、構え始めた。

 単純に考えれば、魔法を強化してくるだろう。

 強化ではなく、変化とも考えられる。階級の枠から外れた、新たなる境地の魔法だ。


「【風地・竜巻(トルネード)】」


 嫌な予感だ。

 足元から原理不明の風が吹きでている。


「――そういうことか!【渦流の熱唱(カルメン)】!」


 渦潮を発生させ、その勢いによって風の影響を抑えようと試みる。

 だが、気休めだ。


「っ――!ダメか……!」

 発生した竜巻の勢いの方が圧倒的に強く、渦潮は霧散し、辺りの花は花弁を散らせた。


「ごめんね、後で治すから」


 ダメージ自体は軽減できているが、それでもかなりの痛手だ。

 このような魔法が息を吐くように放たれるとなると、到底自然回復で間に合うものでは無い。

(先手を打たないと……)

 とにかく攻撃する隙を与えず、一方的な勝負を仕掛ける。

「【スルト】!【百雷の脅迫(ミナーティオ)】ッ!」

 大技の連発。手数で攻めるやり方を選ぶ。

 業火が広がり、刀を振り下ろすと共に雷が広範囲に落ちる。


「【水氷・氷紋】」


 唱えた通り.神の目の前に氷紋が広がり、業火を防ぎ切る。


「【雷風・回転円筒雲(モーニンググローリー)】」


 ロール雲が畝りながら飛来し、落ちる雷を巻き込み、そして自身も雷を纏いながら、朧をその中に閉じ込めた。

 視界は淀んだ灰色に包まれ、三百六十度全てから襲いかかる雷で身動きが取れない。


「くそっ、どうしよう……」

 どう切り抜けるかと、急ピッチで策を模索していた時、やがて灰は心地の良い青へと変化した。

(雲が晴れた……?!)


「【炎風・暁夕の瞬光柱(サンピラー)】」


 天空からから突然、光の柱が降り立ち、貫かれる。

「う゛……ッ!」

 穴が空くわけではないが、背から腹に突き抜ける光柱は、体内を掻き混ぜ、焦がすような痛みを伴っていた。

 叫ぶ余裕もなく、必死に耐える為、歯を食いしばるしか出来なかった。

 ここで怯んだ時に待っている未来は、絶え間ない自然の怒号に淘汰される僕だ。


 そうはさせまい。

「……【ネプチューン】ッ……!」

 攻撃される前に、規模の大きい水魔法で、自身の正面を防御する。


「ふう……はあ……【業火の反駁】……!」

 渦で身の隠れている間に移動し、別方向から業火を放つ。その際にできる炎の壁で安全に移動し、後ろに回り込む。


「惨めだね」

「ははっ……なんとでも言いなよ。【腐蝕の命令】」

 毒さえ入れば少しは形勢を整えられるはずだ。

 そう思い、一閃を気合いによって連続で繰り出す。


「あのさ、分かってるとは思うけど、毒も自分で治せるから」

「まあ、だろうね……」


「でも、諦めはしないよ――【アンチバイオ】」

 剣先から一瞬、禍々しい色をした何かが垂れた。


「ん?」

「え――?」

 これは……不発だ。


「あーあ、魔力切れってやつ?なったことないから、わかんないけど」

「その、ようだね……」

 毒という、最後の望みは叶わず、何も出来ずに死ぬという結末だけが残った。


 もう、これ以上、残された手はない。

○技の解説

【スルト】:炎の上級魔法。狙った敵の足元から、豪炎を燃え立たせる魔法。威力が凄まじいが、避けやすいという欠点もある。

【ネプチューン】:水の上級魔法。正面に巨大な渦潮を発生させ、しばらくした後収縮し、爆発する。たかが水で攻撃になるの?とはなると思うが、魔力(異物)を含んだ水は、人にとって害をなす。

【カジセイユ】:木の上級魔法。任意の方向に巨大な木の根を突き出す。トラックがぶつかってくるぐらいの威力はある為、当たると普通に致命傷。名前の由来は、《せかいじゅ》を並び替えたもの。

【トールハンマー】:雷の上級魔法。狙った敵に特大の落雷を及ぼす魔法。スルトと同じく避けやすい。だが、地面にしばらくの間電流が走る。絶縁体だとそんなことは無い。

【ガイア】:地の上級魔法。地から垂直に、巨大な岩石を突き出す魔法。木よりも威力は高いが、範囲が広すぎて危険だし、発生も遅い。

【アンチバイオ】:毒の上級魔法。人の身長程ある毒針が走る猫ぐらいのスピードで直進してくる魔法。筋肉も神経も全てが麻痺し、動けなくなる。解除できないと3-5分以内には死ぬ。


【渦流の激唱】:『かりゅうのカルメン』と読む。一回転し、渦潮を発生させる。遠距離攻撃を弾いたり、攻撃の勢いを殺したりできる。内から外へと渦巻くので、吹き飛ばし効果を持つ。

【百雷の脅迫】:『ひゃくらいのミナーティオ』と読む。ツインナイフを振り下ろすと、しばらくの間、半径1.5m位に雷が落ち続ける。朧のことは避けてくれる。


【炎風・暁夕の瞬光柱】:『えんふう・サンピラー』と読む。自然の国の神の、杖による魔法は、属性と属性を合わせることで、自然現象を模倣した魔法攻撃を放つことができる。

 敵の上からサンピラーを発生させ、持続的にダメージを与える。朧が耐えられたのは奇跡。

【水氷・氷紋】:『すいひょう・ひょうもん』と読む。任意の方向に氷紋を発生させ、一度だけどんな魔法も防ぐことができる魔法。一方向しか守れない。

【風雷・回転円筒雲】:『ふうらい・モーニンググローリー』と読む。ロール雲という、回転しながら移動する雲を発生させ、蛇のように操作する魔法。雷を纏っており、周囲の魔法を巻き込むことができる。人1人くらいなら閉じ込められる。

【風地・竜巻】:『ふうち・トルネード』と読む。狙った敵の足元から竜巻を発生させる。発生直前まで追ってくる為、避けるのは少し難しい。

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