第41回「稲荷庵」
※本作は「小説家になろう」と「カクヨム」に重複投稿しています。
お米を食べ終えた人たちの間には、まだ笑顔が残っていた。
「美味しかった……」
「こんな食べ物、初めて食べました」
「お米っていうんだよね?」
美穂は、みんなの顔を見渡す。
そして、少しだけ姿勢を正した。
「皆さんに、ひとつ伝えたいことがあります」
「?」
街の人たちが、美穂を見る。
「このお米はね」
美穂は、稲荷荘の前に広がる田んぼを見る。
「田んぼの女神、イナリミノルさまからいただいた種から作りました」
ざわっ――。
街の人たちが顔を見合わせる。
「女神さま……?」
「この田んぼを見守ってくださったのも、イナリミノルさまです」
美穂は微笑む。
「だから――」
美穂は静かに頭を下げる。
「よかったら、女神イナリさまに感謝のお祈りをしてもらえると嬉しいです」
街の人たちは、少し戸惑いながらも、美穂にならって頭を下げる。
「美味しいお米を、ありがとうございました」
「ありがとうございます」
「ごちそうさまでした」
その言葉が、少しずつ重なっていく。
その時――。
稲荷荘が、淡い光に包まれた。
「……え?」
美穂が顔を上げる。
建物が、静かに輝いている。
そして――。
キィィン……。
光が収まった。
「……」
美穂は、目の前の建物を見る。
「……変わった?」
稲荷荘の外観が、少しだけ変化していた。
以前よりも落ち着いた雰囲気になり、入口には小さな屋根がついている。
そして、建物の名前を示すものが――。
『稲荷庵』
「……稲荷庵?」
美穂が呟く。
街の人たちも驚いている。
「建物が……」
「名前まで変わった?」
「いったい何が……?」
美穂は、建物を見上げる。
「この家は、女神さまからもらったものなんです」
そして、少し嬉しそうに笑った。
「女神さまも、お喜びみたいですね」
イナリの声が、美穂にだけ聞こえる。
『ええ、とても嬉しいですよ』
美穂は笑顔になる。
「よかったね、イナリさま」
『はい』
こうして――。
美穂の暮らす場所は、
稲荷荘から、稲荷庵へ。
新しい物語の舞台が、静かに始まった。
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