第4回「異世界転生」
※本作は「小説家になろう」と「カクヨム」に重複投稿しています。
目の前が、真っ白になる――。
さっきまでいた転生の間が、ゆっくりと遠ざかっていく。
イナリの声が聞こえた。
「美穂……これから、あなたが暮らす世界へ送りますね」
美穂は少しだけ緊張する。
剣と魔法の世界 アトラテス――。
どんな場所なんだろう――。
人はいるのかな。
ちゃんと農業はできるかな。
お米は売れるかな。
そんなことを考えていると、身体がふわりと浮いた。
「わっ」
足元から光が広がる。
「それでは、行ってらっしゃい」
「イナリ様! いろいろありがとう!」
イナリが微笑む。
「豊かな実りを期待しています」
「任せて!」
光が強くなる。
「それと、無茶はしないように!」
「分かってるよー!」
次の瞬間――。
視界が真っ白になった。
◇
「……ん?」
目を開ける。
風が吹いていた。
さっきまでいた真っ白な空間とは違う。
草の匂い。
土の匂い。
そして、水の匂い。
「ここが……異世界……」
美穂は立ち上がった。
目の前には、大きな湖が広がっていた。
水面が風に揺れている。
遠くには山々。
周囲には草原と森。
そして――。
「あっ!」
湖の向こう側を見る。
対岸に、大きな街が見えた。
建物が並んでいる。
街道らしき道も見える。
人の姿も、小さく見える。
「良かった! 街がある!」
お金はない。
食べ物もない。
寝る場所もない。
でも、人がいるなら何とかなる。
「あれ?」
そのとき、頭の中にイナリ様の声が響いた。
『美穂、聞こえますか?』
「聞こえるよ」
『よかったです』
「ここ、どこ?」
『カスミ湖です』
「カスミ湖?」
『アトラテスで有名な湖ですよ』
美穂は湖を見渡す。
「へぇー」
『そして、あなたが今いる場所は、その湖のほとりです』
「うん」
『対岸には街があります』
「うん」
『ここから農業を始めると良いでしょう』
「……」
美穂は、もう一度湖を見る。
そして、対岸の街を見る。
「イナリさま?」
『はい?』
「街に降ろしてよ……」
『え?』
「なんで湖のほとりなの?」
『水があります』
「いや、水はあるけど!」
『土もあります』
「それも分かるけど!」
『湖の水を利用すれば、農業にも適しています』
「農業の前に!」
美穂は対岸を指差す。
「人!」
『人?』
「街があるじゃん!」
『ありますね』
「だったら最初は街でしょう!」
『……』
「お金もないし、食べ物もないし、寝るところもないんだよ?」
『なるほど』
「なるほどじゃないよ!」
イナリ様が少し黙る。
『……美穂』
「なに?」
『農家ですよね?』
「まぁ農家ですけどっ!」
『なら、土地がある方がいいでしょう?』
「いやいやいや!」
美穂は頭を抱えた。
「異世界に転生して、いきなり湖のほとりに一人って、ハードル高すぎるよ!」
『でも、街は対岸にありますよ?』
「遠いよ!」
『泳げば――』
「泳がない!」
『ですよね』
イナリが小さく笑った。
「……」
美穂は街を見る。
湖は大きい。
対岸まで、かなり距離がある。
「歩くしかないかぁ……」
『はい!頑張って下さい!』
でも――。
湖は綺麗だった。
水は澄んでいる。
周囲の土地も、よく見ると草がしっかり生えている。
農業をするなら、悪くない場所なのかもしれない。
「……まあ、良い土地ではある」
『そうでしょう?』
「うん」
美穂は湖を眺める。
「まずは街に行ってみるね」
『はい』
「そこで仕事を探して、お金を稼いで……」
そして――。
「あたしの田んぼを作る!」
『その意気です』
「でも、その前に」
美穂は湖の対岸を見る。
「ご飯食べたい」
『……それも大切ですね』
「でしょ?」
異世界生活の最初の目標は決まった。
まずは街へ行く。
そして――。
田んぼを作る。
美穂の新しい異世界生活が、ここから始まる。




