第30回「バッタの魔物」
※本作は「小説家になろう」と「カクヨム」に重複投稿しています。
出穂から、しばらく経った――。
田んぼの稲は順調に育っている。
「今日も元気そうだねー」
稲穂を眺めながら、畦道を歩く。
すると――。
ピョン。
「ん?」
小さなバッタが、田んぼの中を跳ねた。
「バッタか」
美穂は少し眺める。
「まぁ、小さなバッタぐらいなら?」
ピョン。
もう一匹。
「……あれ?」
ピョン。
さらに一匹。
「……増えてない?」
美穂が田んぼを見渡す。
小さなバッタが、あちこちで跳ねている。
「まぁ……これくらいなら」
美穂は少し不安になりながらも、田んぼを見続ける。
その時――。
影が落ちた。
「……ん?」
美穂が空を見上げる。
何かが飛んでくる。
大きい――。
どんどん大きくなる。
「……え?」
バサバサッ!
巨大なバッタが、田んぼへ降り立った。
その体長――およそ1メートル。
「…………」
美穂は固まった。
「デカっ!」
巨大バッタが、長い脚を動かす。
そして、稲へ向かって跳びかかる。
「ちょっと待って!」
美穂の顔から笑顔が消える。
「それ、あたしのお米ー!」
大切に育ててきた稲。
田植えから始めて、毎日見守ってきた。
出穂して。
小さな花まで咲いて。
もうすぐ実りを迎える。
それを――。
「食べられてたまるかー!」
美穂は巨大バッタを睨みつけた。
初めてだった。
自分が育てたものを、失うかもしれない危機が訪れたのは――。
◇
ムシャッ!
美穂の目の前で、バッタの魔物が稲を一株食べた。
「……え?」
一度、口を動かしただけ。
それだけで、稲が一株、丸ごとなくなっている。
「ひぃー!」
美穂が悲鳴を上げる。
その時――。
『なるほど、バッタですか!』
イナリの声が聞こえた。
「イナリさまぁ! どうしよう!」
『駆除一択です! でないと全滅ですよっ!』
「全滅は困るっ!」
美穂は慌てて草刈りガマを構える。
しかし、その間にも――。
ムシャッ!
「ひぃー!」
二株目が食べられた。
「これ以上はダメだぁー!」
美穂は田んぼの中を走る。
田んぼの加護を受けた身体が、力強く地面を蹴る。
バッタの魔物が跳び上がる。
美穂は、その動きを見ながら――。
「そこだぁー!」
草刈りガマを大きく振り上げる。
「草刈りガマスラーッシュ!」
ズババーッ!
草刈りガマが、バッタの魔物を捉えた。
巨大な身体が地面に落ちる。
「……倒した?」
美穂は恐る恐る近づく。
バッタの魔物は動かない。
「や、やった……」
しかし――。
美穂は周囲の稲を見る。
戦いの勢いで、何本かの稲が折れてしまっていた。
「……あ」
美穂の顔が曇る。
「あぁ……稲が折れたぁー……」
目に涙を浮かべながら、折れた稲をそっと起こす。
「ごめんね……」
そして、美穂はバッタの魔物の死骸を田んぼの外へ運び出す。
「また来たら困る……」
美穂は田んぼを見渡す。
まだ小さな被害で済んだ。
けれど、もし気づくのが遅れていたら――。
「……あたしが見てるからねっ!」
美穂は草刈りガマを手にしたまま、田んぼのそばに座り込む。
その日からの昼の時間。
巨大バッタの監視作業も追加された――。
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