第26回「泥だらけな競争」
※本作は「小説家になろう」と「カクヨム」に重複投稿しています。
田んぼの中――。
美穂とフロリィは、黙々と苗を植えていた。
一本。
また一本。
少しずつ、田んぼに苗が並んでいく。
しばらく田植えを続け――。
やがて昼になった。
「ふぅー……」
二人は田んぼのそばに腰を下ろす。
用意していた昼食を広げる。パンや簡単なおかず。美穂はパンを一口食べる。
そして、目の前の田んぼを見る。まだ小さな苗が、田んぼの中に並んでいる。
「ねえ、フロリィちゃん」
「はい?」
「いつか、ここで作ったお米を食べようね」
フロリィは田んぼを見る。
「お米って、どんな味がするんですか?」
「うーん……」
美穂は少し考える。
「甘い味かなぁー」
「甘いんですか?」
「うん。お米ってほんのり甘いんだよ」
「楽しみです」
二人の目の前には、いつか食べるはずの白いご飯が、もう見えているようだった。
◇
午後――。
田植えは順調に進んでいた。
美穂とフロリィは、並んで苗を植えている。
しばらく黙々と作業していた美穂が、ふとフロリィを見る。
「ねえ、フロリィちゃん」
「はい?」
「どっちが早く植えられるか、勝負しよう!」
「えっ? 勝負ですか?」
フロリィが驚く。
そして――。
「冒険者として負けません!」
「望むところ!」
二人は横一列に並ぶ。
「よーい……」
「……」
「スタート!」
二人が一斉に苗を植え始める。
フロリィもかなり速い。
「これなら――!」
しかし――。
「……」
美穂は、それ以上の速さで苗を植えていく。
一本、また一本と、迷いがない。
手が止まらない。
「えっ……」
フロリィが横を見る。
「……」
美穂は黙々と植えている。
「美穂さん!?」
「なにー?」
「速すぎません!?」
「そう?」
美穂は笑いながら、また苗を植える。
「これでもプロのノーカーですから!」
「ノーカー、強い……!」
フロリィは必死についていく。
しかし――。
差はどんどん広がっていった。
「はぁ……はぁ……」
「もうちょっとだよ!」
「その『もうちょっと』が遠いです!」
田んぼの中で、二人の笑い声が響いていた。
◇
夕方――。
最後の苗を植え終えた。
美穂は、ゆっくりと立ち上がる。
「……終わったぁ」
フロリィも田んぼから出る。
「お疲れさまでした」
――二人は田んぼを振り返った。
一面に広がる緑。朝は、水と泥だけだった田んぼ。それが今では、ちいさな苗が規則正しく並んでいる。
風が吹く。
――サァ……。
小さな苗が、一斉に揺れた。
「田植え終わった……」
美穂が呟く。
――ここまで来るのに、いろいろあった。
草や石を取り除いて、畦を作って、水が溜まらなくて、粘土を探して、ゴーレムまで田んぼに連れてきた。
そして今日、ようやく田植えが終わったのだ。
二人は田んぼを眺める――。
「……これが、全部お米になるんだよ」
「とても楽しみです」
夕暮れの空の下。
小さな苗たちが、静かにゆれていた。
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