第25回「田植え」
※本作は「小説家になろう」と「カクヨム」に重複投稿しています。
稲荷荘、前庭――。
美穂は苗床を覗き込んでいた。
小さな苗が、青々と育っている。
美穂は、その中から一本をそっと手に取った。
「ついに……田植えができる!」
今日は、フロリィも手伝いに来ている。
「この苗を田んぼに植えるんですね?」
美穂は嬉しそうに頷いた。
「そう! 今日から、この苗たちが田んぼで育っていくんだよ」
「なんだか、楽しみですね」
フロリィは苗床を興味深そうに見つめていた。
美穂も苗を眺めていたが、ふと何かを思い出す。
「あっ、忘れてた! 田植え用の装備があるんだった……」
「田植え用の装備ですか?」
「うん。泥の中に入るからね」
美穂とフロリィは、稲荷荘の納戸へ向かった。
納戸の中には、農作業に使う道具がいくつも並んでいる。
その中から、美穂が取り出したのは――。
水の中でも使える、胸元まで覆う服だった。
美穂は、それを広げてみる。
「ウェーダーと言ってね……これを着て田んぼに入るの。胸元まである雨具みたいなもんだね」
美穂はウェーダーをフロリィに渡した。
「はい、これがフロリィちゃんのね」
「ありがとうございます!」
フロリィは嬉しそうに受け取った。
二人はウェーダーを手に、田んぼへ向かう準備を始めた。
◇
田んぼには、水が張られている。
水面は穏やかで、青空を映していた。
美穂は田んぼの縁に立つ。
そっと片足を入れる。
ズブッ――。
「うわぁ……!」
足が泥の中へ沈んだ。
美穂は、もう片方の足も入れる。
ズブッ――。
「うわぁ……!」
泥が足元を包み込む。
続いて、フロリィも恐る恐る田んぼへ入った。
一歩。
ズブッ――。
「わっ!」
もう一歩。
ズブッ――。
「足が沈みます!」
「そうそう!」
美穂は嬉しそうに笑う。
「田んぼって、こういう感じなんだよ!」
「歩きにくいです……」
フロリィは慎重に足を動かす。
けれど、少し進むだけで泥が跳ねた。
「きゃっ!」
「大丈夫?」
「はい……」
――泥が跳ね、二人の足元はすっかり泥だらけになっている。
「ふふっ、これこれ!」
美穂は嬉しそうに笑った。
「田植えって感じ!」
「美穂さん、楽しそうですね」
美穂は泥の中で、もう一歩踏み出した。
「楽しいよ! やっと田植えだからね」
二人は並んで、田んぼの中へ進んでいった。
◇
田んぼの中――。
美穂とフロリィは、苗を手にしていた。
「じゃあ、植えてみよう!」
「はい!」
二人は並んで、田んぼに苗を植えていく。
美穂は慣れた手つきで、苗を一本ずつ植えていく。
フロリィも、美穂の手元を見ながら、同じように苗を植えていった。
プスッ、プスッ、プスッ。
「……」
美穂は、自分が植えた苗をじっと見る。
「……曲がってる」
苗の列は、微妙に左右へずれていた。
「まあ、最初だしね」
美穂は苦笑しながら言う。
フロリィの列も――。
やっぱり曲がっている。
「私もです」
「ふふっ」
二人は顔を見合わせて、笑った。
それから、二人は黙々と田植えを続けていく。
最初は曲がっていた苗の列も、少しずつ整っていった。
植える間隔も分かってきて、手つきも自然になっていく。
しばらくすると、さっきよりもずっときれいに苗が並ぶようになった。
「おお……!」
「綺麗になってきました!」
「そうそう。その調子!」
美穂も嬉しそうに笑う。
田んぼに並んでいく、小さな苗。
その光景を眺めながら、美穂はふと思った。
――久しぶりに手植えしたなぁ。
美穂は、苗を植えながら思った。
日本にいた頃は、田植え機を使うことが多かった。
こうして自分の手で苗を一本ずつ植えるのは、久しぶりだった。
泥の感触。
水の冷たさ。
苗を手に取る感覚。
「……なんか、懐かしいなぁ」
「どうしました?」
「ううん。なんでもない」
美穂は笑って、また苗を手に取る。
「じゃあ、どんどん植えよう!」
「はい!」
二人の田植えは、少しずつ進んでいった。
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