第21回「追いかけてきた少女」
※本作は「小説家になろう」と「カクヨム」に重複投稿しています。
第21回「追いかけてきた少女」
稲荷荘、前庭――。
美穂の前には、ゴーレムだった土の山――。
「……倒したけど、これどうしよう?」
困っている美穂に、イナリが話しかける。
『美穂……そのゴーレムに触ってください』
「ゴーレムに?」
『はい。そして、土壌改良のイメージをしながら、魔力を流してみてください』
「……魔力?」
美穂は首を傾げた。
「魔力ってなんですか?」
『あれ? 言ってませんでしたか?』
「初めて聞く言葉ですね……」
『そうでしたか』
イナリは少し考える。
『まあ、やってみれば分かりますよ』
「そんな適当な……」
美穂は半信半疑のまま、ゴーレムだった土に触れる。
「土壌改良……」
田んぼを思い浮かべる。
水が抜けてしまう土。
そこに粘土を混ぜて、水を保てるようにする。
「こう……かな?」
美穂は、なんとなく力を込めた。
すると――。
ポウッ……。
土の山が、一瞬だけ光った。
「わっ!」
光が田んぼへ流れ込んでいく。
土の山は、まるで吸い込まれるように消えていった。
美穂は田んぼを見る。
さっきまでと、少し土の感じが違うようだ……。
「……あれ? なんか変わった?」
『少し土壌改良されましたね』
「少し?」
『あと三匹くらい連れてきてください』
「えぇー!」
美穂の声が、稲荷荘の前庭に響き渡った。
『ふふっ』
「いやいやいや!」
美穂は慌てて両手を振る。
「ゴーレムって、そんなに簡単に見つかるものなの!?」
『さあ?』
「さあって!」
イナリの適当な提案に、頭を抱える美穂だった。
◇
美穂は土壌改良された田んぼを眺めていた。
「……なんか、すごい一日だったなぁ」
粘土を探しに行っただけだった。
それが、ゴーレムに追いかけられ。
田んぼで戦って……。
気がつけば、土壌改良までしている。
「粘土、まだ全然足りないけど……」
そのとき――。
「……あの!」
後ろから声がした。
美穂が振り返る。
「あれ? あなたは……」
そこに立っていたのは、先ほどゴーレムに襲われていた女の子だった。
「さっきの!」
「はい」
女の子は少し息を切らしている。
美穂は女の子を見ながら言う。
「大丈夫だった?」
「私は大丈夫です」
女の子もまた、美穂を見る。
「でも……あなたが心配で」
「え?」
「ゴーレムに追いかけられていましたから」
美穂は少し驚いた。
「わざわざ追いかけてきたの?」
「はい」
女の子は頷く。
「ちゃんと逃げ切れたのか、気になって……」
「そっか、ありがとう」
美穂は笑う。
女の子も、ほっとしたように笑った――。
「ここが、お家なんですか?」
「うん。稲荷荘っていうの」
女の子は建物を見上げる。
「稲荷荘……」
そのとき、イナリの声が聞こえた。
『美穂……お帰りなさい。その方は?』
美穂は女の子を見る。
「えっと、まだ名前聞いてなかった」
女の子は少し笑って、一歩前へ出る。
「私はフロリィです」
「フロリィちゃん?」
フロリィは、尖った耳をピクピクさせながら言う。
「エルフです」
「エルフ!?」
美穂の目が輝く。
「本物!?」
フロリィは少し困ったように笑った。
「……本物です」
美穂はニコニコと笑いながら。
「あたしは美穂! よろしくね」
フロリィは頭をさげる。
「こちらこそ、よろしくです」
こうして――。
美穂とフロリィは、稲荷荘で再び出会った。
◇
美穂とフロリィは、敷地のそばの田んぼ予定地を眺めながら並んで座っていた。
先ほどから、フロリィは不思議そうに美穂を見ている。
「美穂さん、さっきから誰かと話してますよね?」
「うん。イナリさまと」
「イナリ……さま?」
美穂は目の前の水田に視線を向けた。
「そう。田んぼの女神さま」
「田んぼの女神……ですか?」
「うん。稲やお米を司る女神さまなの」
美穂は稲荷荘へ目を向ける――。
「この稲荷荘も、イナリさまが出してくれたんだよ」
フロリィは驚いたように、建物を見上げた。
「このお家を……女神さまが?」
「そう!」
美穂は笑いながら頷いた。
「イナリさまは今もここにいるよ」
「えっ?」
フロリィは、慌てて周囲を見回した。
「今も、この近くに? ……どこに?」
美穂は少し困ったように笑う。
「それがね。あたしにも姿は見えないの。声だけ聞こえるんだ」
フロリィは、静かに目を閉じて耳を澄ます……。
「……私には、何も聞こえませんね」
「そっか」
フロリィは少し残念そうに笑った。
「一度、お話ししてみたいです」
「そのうち、できるようになるかもよ?」
「本当ですか?」
美穂は、以前イナリから聞いた話を思い出す。
「うん。イナリさまが言ってたの。信仰が増えると、できることも増えるんだって」
「そうなんですね……」
フロリィは、改めて目の前の田んぼ予定地に視線を向けた――。
「ところで……ここでは、何をしてるんですか?」
「田んぼでお米を作る準備かな?」
「田んぼ……? お米……?」
フロリィが首を傾げる。
「うん。稲っていう植物を育てて、その実からお米を作るの」
「ふーん……」
フロリィは、あまりよく分かっていない様子で頷いた。
目の前の田んぼ予定地――。
まだ何もない土地を、二人は静かに眺めていた。
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