第20回「田んぼへ誘い込め!」
※本作は「小説家になろう」と「カクヨム」に重複投稿しています。
森の中――。
美穂は必死に走っていた。
「ひぃー!」
後ろから、重たい足音が迫ってくる。
ズシン! ズシン!
「なんで追いかけてくるのー!」
振り返る。
ゴーレムは、ゆっくりと歩いている。
なのに――。
「速いよー!」
美穂はさらに走る。
「こっちは粘土を探しに来ただけなのに!」
木々の間を抜ける。
枝を避ける。
足元の石を飛び越える。
「もう、こんなところ来なきゃよかったー!」
そのとき。
美穂の頭に、ふと浮かぶ。
「……あ」
稲荷荘。
そして、その前に作っている田んぼ。
「田んぼ……」
美穂は走りながら考える。
「そうだ!」
田んぼの中なら、田んぼの加護がある。
ゴーレムから逃げるだけなら、田んぼまで戻ればいい。
「とにかく、稲荷荘まで戻ろう!」
美穂は方向を変える。
来た道を戻っていく。
しかし――。
ズシン!
「うわっ!」
後ろからゴーレムが迫る。
「近い近い!」
美穂は必死に走る。
腰が痛い。
足も重い。
田んぼの外では、普通の美穂だ。
「田んぼまで……!」
木々の向こう。
少し開けた場所が見えた。
「あっ!」
見覚えのある景色。
「もうすぐ!」
美穂は、ゴーレムから必死に逃げている。
「ひぃー!」
背後から、重たい足音が迫ってくる。
ズシン! ズシン!
「もうちょっと……!」
そして――。
美穂の目の前に、自分が作っている田んぼが見えた。
「あっ!」
美穂の顔が明るくなる。
「ここなら……!」
美穂は田んぼの中へ飛び込んだ。
そして振り返る。
「来い!」
ゴーレムも、そのまま田んぼへ入ってくる。
ズシン!
その瞬間――。
美穂の身体に、力がみなぎった。
「……よし」
足元を踏みしめる。
身体が軽い。
力が湧いてくる。
田んぼの加護。
ここは、美穂のホームグラウンドだ。
美穂は、近くに置いてあった草刈りガマを手に取った。
そのとき――。
『美穂?』
聞き慣れた声が頭の中に響いた。
「イナリさま!」
美穂はゴーレムから目を離さないまま、思わず声を上げる。
『美穂は粘土を取りにいったのですよね?』
「そうです!」
『……なぜゴーレムと戦っているのでしょう?』
美穂は草刈りガマを構えたまま答える。
「それはこっちが聞きたいです!」
ゴーレムが、ズシンと一歩踏み出した。
その巨体に地面が揺れる。
『ふふっ』
「笑ってる場合じゃないですよ!」
美穂はゴーレムから距離を取りながら叫ぶ。
「イナリさま! たすけて!」
『無理ですねぇ』
「ぐぬぬー!」
美穂は悔しそうに歯を食いしばる。
『私は口しか出せませんからね』
「あっ、そうだったー!」
美穂は気を取り直して、草刈りガマを握り直す。
ゴーレムが、また一歩近づいてくる。
「……来るなぁ」
『まあ、美穂なら倒せますよ』
「本当ですかぁー!?」
思わず声が裏返る。
「信じて良いんですね!」
『もちろんです』
美穂はゴーレムを見据える。
相手は自分より何倍も大きい。
ゴーレムが、ゆっくりと近づいてくる。
「……来た」
次の瞬間――。
ズシン!
ゴーレムが突進してきた。
「わー!」
美穂は横へ飛び退く。
そして、チャンスを伺う。
「今だ!」
美穂はゴーレムの懐へ飛び込む。
草刈りガマを大きく振り上げる。
「これでもくらえ!」
そして――。
「草刈りガマスラッシュ!」
ズバッ!
ガマの刃が、ゴーレムを切り裂いた。
土の身体が、大きく崩れる。
ザザザッ……。
ゴーレムは、その場に土の塊となって崩れ落ちた。
「……」
美穂は草刈りガマを握ったまま、固まっている。
「……倒した?」
『倒しましたね』
「……」
美穂はゴーレムだった土の山を見る。
「……草刈りガマ、強っ!」
『ふふっ』
田んぼの中。
美穂は初めて、異世界の魔物を倒した。
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