第17回「我田引水」
※本作は「小説家になろう」と「カクヨム」に重複投稿しています。
稲荷荘、前庭――。
畦が完成した。
美穂は田んぼを眺めながら、満足そうに頷く。
「よし!」
次はいよいよ、水を入れる。
美穂は川から水を引くための簡単な水路を作っていた。
「ここから水を入れて……」
水の流れを確認する。
川の水が、水路を通って田んぼへ向かっていく。
やがて――。
田んぼの中へ、水が流れ込んだ。
「おおー!」
美穂は嬉しそうに眺める。
「ちゃんと入ってる!」
水が少しずつ広がっていく。
しかし――。
「……」
しばらくすると、美穂は首を傾げた。
「……あれ?」
水が増えない。
むしろ――。
「減ってない?」
美穂は田んぼの中を見渡す。
入ってきた水が、どんどん土へ吸い込まれている。
「……」
さらにしばらく待つ。
すると、水はほとんど残っていなかった。
「……水はけ良すぎない?」
美穂はしゃがみ込み、土を手に取る。
ぎゅっと握る。
「うーん……」
土はさらさらと崩れていく。
「これじゃ、水田にならないなぁ」
美穂は腕を組む。
畦はできた。
水路もできた。
でも――。
水がたまらない。
「土作りって、思ったより難しいなぁ……」
美穂は空を見上げた。
『どうしました?』
イナリの声が聞こえる。
「イナリさまー」
『はい?』
「問題発生です」
『何でしょう?』
「水が……逃げます!」
『ふふっ』
「笑い事じゃないんです!」
美穂は再び田んぼを見る。
「……土を何とかしないとなぁ」
米作りは、まだまだ始まったばかりだ。
◇
水を入れても、すぐに土へ吸い込まれてしまう。
美穂は、田んぼの土を眺めていた。
「うーん……」
しばらく考える。
「イナリさまー」
『はい?』
美穂は少し困ったように声をかける。
「やっぱり、水がたまらないよ」
『そうですね』
「どうしたらいいかな?」
美穂が田んぼを見つめていると、少し間があった。
『粘土を混ぜた方がいいですね』
「粘土?」
美穂は聞き返す。
『はい。粘土を混ぜれば、水が抜けにくくなります』
「へぇ……」
美穂は田んぼの土を手に取ってみる。
指の間から、さらさらと土が落ちていった。
美穂は田んぼを見渡す。
「でも、粘土なんてどこにあるの?」
『探せば見つかると思いますよ』
「この辺に?」
『近くの森の中、ありそうですよ』
美穂は腕を組んで考える。
「じゃあ、探しに行くしかないか」
美穂は荷物をまとめ始めた。
「粘土探しに行ってきます!」
『お気をつけて』
「うん!」
◇
近くの森に向かって歩いていく。
振り返ると、稲荷荘が小さく見えた。
「……」
美穂は少しだけ立ち止まる。
「ここから先は、イナリさまの声……聞こえるのかな?」
もう少し歩く。
「イナリさま?」
返事がない。
「……」
さらに歩く。
「イナリさまー?」
やっぱり返事がない。
美穂は苦笑した。
「そっか。やっぱり、この辺が限界なんだ」
稲荷荘から離れれば、イナリとの会話もできなくなる。
美穂は前を向く。
「じゃあ、また1人でいくかぁ!」
こうして美穂は――。
近くの森へ、粘土探しに向かった。
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