第16回「田んぼの加護」
※本作は「小説家になろう」と「カクヨム」に重複投稿しています。
稲荷荘、前庭――。
朝から、美穂は田んぼ予定地の草や石を取り除いていた。
「よいしょ!」
草を抜く。
「こっちも!」
石を拾う。
「よいしょー!」
また草を抜く。
ひたすら繰り返す。
普通なら、これだけの作業を続ければ腰も痛くなってくる。
ところが――。
「……あれ?」
美穂は腰を伸ばした。
「全然痛くない」
もう一度、腰を曲げる。
「……平気だ」
朝からかなりガッツリ働いている。
それなのに、疲労感がほとんどない。
「なんでだろ?」
『田んぼの加護です』
「田んぼの加護?」
『はい』
イナリの声が聞こえる。
『稲を育てる場所ですからね』
「へぇ……」
美穂は自分の腕を見る。
いつもより力が出ているような気もする。
「じゃあ、ここにいる間は?」
『美穂は最強ですよ』
「最強!?」
『田んぼの中では、ですが』
「限定的すぎる!」
美穂は笑う。
けれど、もう一度鍬を握る。
「でも、それなら――」
美穂は勢いよく振り下ろした。
ザクッ!
「どんどんやっちゃおう!」
草を抜く。
石を拾う。
土をならす。
美穂は黙々と作業を続けた。
田んぼの中では、疲れない。
力も出る。
まさに――。
田んぼの中だけ最強。
「……なんか、農家としてはすごく嬉しい能力だなぁ」
『そうでしょう?』
イナリの声に、美穂は笑った。
「よーし! 今日中に、もっと綺麗にするぞー!」
稲荷荘の前庭。
そこに、少しずつ田んぼの姿が現れ始めていた。
◇
草や石を取り除いた土地を、美穂はぐるりと見渡した。
「次は……畦だな」
一反分の田んぼ。
美穂は、その周囲に土を盛り始めた。
鍬で土を削り、運び、積み上げる。
少しずつ。
少しずつ。
田んぼを囲むように、土の壁ができていく。
「これで水を貯められるようになる」
美穂は畦を確認する。
この世界では、畑に作物を植えるのが一般的。
けれど、水を張った土地で稲を育てるという方法は、ほとんど知られていない。
「水田って、この世界じゃ馴染みがないんだよね」
『そうですね』
イナリが答える。
『稲作そのものが、ほとんどありませんから』
「そっか」
美穂は畦を眺める。
「畦はしっかり作らないと」
川から水を引くことも考えている。
けれど、川の水が増えたときに、そのまま田んぼへ流れ込んでしまっては困る。
「外から水が入ってこないように……」
美穂は畦を軽く叩く。
「中からも水が出ないように……」
もう一度、畦を確認する。
「これが畦の役割」
『なるほど』
美穂は畦を歩きながら、低い場所がないか確認していく。
「ここ、ちょっと低いな」
土を足す。
「こっちも」
さらに土を盛る。
水が入る。
水が抜ける。
そのどちらも防ぐ。
田んぼの周囲を囲む、土の壁。
「よし」
美穂は腰に手を当てる。
「だいぶ田んぼっぽくなってきた!」
まだ水は張っていない。
まだ稲も植えていない。
それでも――。
稲荷荘の前庭には、少しずつ水田の形が出来上がっていた。
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