第15回「苗床してる間に」
※本作は「小説家になろう」と「カクヨム」に重複投稿しています。
稲荷荘――。
発芽した種籾を前に、美穂は準備を進めていた。
「種籾が発芽したら、苗床に蒔く」
美穂は、長方形の箱を用意する。
中には、苗を育てるための土が入っている。
イナリも興味深そうに眺めていた。
『この長方形の箱ですね』
「そう!」
美穂は発芽した種籾を、苗床に丁寧に蒔いていく。
「ここで苗を育てるの」
『なるほど』
「そして、三週間くらい待つと……」
美穂は苗床を眺める。
「田植え用の苗ができますね」
『美穂の世界の稲作は見事ですね』
「……!」
美穂の顔がぱっと明るくなる。
「褒められた!」
嬉しそうに笑う。
「やったー!」
『ふふっ』
美穂は苗床を大切そうに眺める。
「三週間かぁ……」
美穂は楽しそうに笑った。
「待ってる間に、田んぼ作らないとな!」
田植えの日に向けて――。
美穂の米作りは、少しずつ進んでいた。
◇
稲荷荘の前庭――。
美穂は、稲荷荘の前庭の田んぼ予定地を見る。
「育苗してる間に、田んぼを作るよっ!」
『ふふっ。張り切ってますね』
美穂は鍬を手に取る。
そして、ふと思いついたようにイナリへ尋ねた。
「イナリさま」
『はい?』
「簡単に畦作ったり、代かきしたりってできないかな?」
『できますよ』
「え?」
美穂が振り返る。
『私なら、魔法で田んぼを作ったりできますが』
「え? できるならやって欲しい!」
『今は無理ですね』
「なんで!?」
美穂は思わず声を上げた。
『口出しだけで精一杯ですから』
「……」
美穂はイナリの言葉を聞いて、しばらく黙る。
『今の私には、それくらいしかできません』
「そっか……」
『ですが』
イナリの声が少しだけ優しくなる。
『信仰が増えれば、また変わってきますけどね?』
「……!」
美穂は思い出した。
「あっ、そうだった!」
イナリの力の源、それは信仰。
美穂が育てた米が実り、それを食べた人たちがイナリを信じる。
その信仰が増えれば――。
「イナリさまもパワーアップするんだ!」
『そういうことです』
「じゃあ、頑張って米を作らないと!」
美穂は鍬を握り直した。
イナリのためにも。
そして、自分のためにも。
「よーし!」
美穂は田んぼ予定地へ向かった。
まずは自分の手で、畦を作る。
魔法で一瞬にして田んぼを作ることはできない。
でも――。
「農家の娘をなめないでよね!」
美穂は鍬を振り下ろした。
ザクッ!
田んぼ作りが、本格的に始まった。
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