第14回「催芽」
※本作は「小説家になろう」と「カクヨム」に重複投稿しています。
第14話「催芽」
稲荷荘――。
美穂は、麻袋に種籾を入れていた。
「よし、これでいいかな」
種籾を入れた麻袋を、水の中へ入れる。
「まずは一週間、水にぶち込んで……」
種籾に十分な水を吸わせる。
一週間後――。
今度は、種籾をぬるま湯につける。
「丸一日っと」
水から、ぬるま湯にする事で芽がでてくる。
美穂は種籾の様子を確認する。
「これで種籾が発芽する」
『詳しいですね?』
「催芽って言う作業だね」
『さいが!芽を出す作業……』
イナリは感心しながら言う。
『美穂の世界の米作りは丁寧ですね』
「そう? もっと褒めて!」
『ええ、凄いです』
美穂は気分が良くなった。
「これでもプロのノーカーですから」
『ノーカー!』
『農家ではなく、ノーカーですか?』
「いや、ちょっとカッコよく言っただけだよ」
美穂は笑いながら、種籾を見る。
まだ芽は出ていない。
けれど、もうすぐ――。
「頑張って芽を出してね」
美穂は種籾に優しく声をかけた。
異世界での米作り。
その最初の芽が、もうすぐ顔を出そうとしていた。
◇
ぬるま湯につけていた種籾を眺めながら、美穂は腕を組んでいた。
「ぬるま湯は時間が経つと冷める……」
しばらく考える。
「そういえば、あたしの家ではお風呂でやってたね」
『そうなんですね』
「うん。お風呂なら、ちょうどいい温度を保ちやすいからね」
美穂は、ふと思った。
「この世界だと……火魔法で温めてるとか?」
『どうでしょう』
イナリの声が返ってくる。
『そもそも、この世界に稲作はほぼありません』
「あ!そうだった……」
『ですから、こんな知識を持っている人は、ほとんどいないでしょうね』
「そっか……」
美穂は種籾を見る。
日本では当たり前だった米作り。
でも、この世界では当たり前ではない。
「将来的には、技術も広めたいよね」
『技術を?』
「うん。米が広まれば、作る人も増えるでしょ?」
美穂は笑った。
「せっかく異世界に来たんだし、あたしが知ってることは役立てたいな」
そして、美穂はぬるま湯から種籾を取り出す。
「さて……」
種籾を手に取り、一粒ずつ確認していく。
「……」
そして――。
「あっ!」
美穂の目が輝いた。
「芽が出てる!」
種籾の先から、小さな芽が顔を出している。
ほんのわずかな変化。
けれど、美穂にとっては大きな一歩だった。
『さすがノーカーですね!』
「ノーカー!」
美穂は嬉しそうに笑う。
異世界で初めて育てる稲。
その最初の芽が、確かに顔を出していた。
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