第10回「薬草採取」
※本作は「小説家になろう」と「カクヨム」に重複投稿しています。
カスミタウン郊外――。
街を出て、しばらく歩いたところ。
美穂は草原に来ていた。
手には、冒険者ガイド。
何度もページを開いては、周囲の草を見比べている。
「えーっと……薬草は……」
しゃがみ込む。
目の前に生えている草を見る。
「これ……?」
冒険者ガイドを開く。
絵を見る。
もう一度、草を見る。
「違うか」
別の草を探す。
「あ、これかな?」
また冒険者ガイドを見る。
「葉っぱの形が違う……」
美穂は立ち上がる。
少し歩く。
「これは?」
ガイドを見る。
「違う」
また歩く。
「これは……」
ガイドを見る。
「違う!」
美穂は頭を抱えた。
「難しい!」
農家の娘だった美穂。
植物には慣れている。
しかし、異世界の薬草は見たことがない。
「名前も知らないし……」
美穂はもう一度、冒険者ガイドを開く。
薬草のページをじっくり眺める。
「葉っぱは三枚……茎は細くて……先端に小さい花……」
周囲を見渡す。
少し離れた場所。
ガイドに描かれているものと、そっくりな草が生えていた。
「これだ!」
しゃがみ込んで確認する。
葉の形
茎
花
全部一致している。
「よし!」
美穂は慎重に根元から抜いた。
「採れた!」
冒険者ガイドを見る。
間違いない。
薬草――。
「初収穫!」
美穂は嬉しそうに薬草を掲げた。
農家の娘にとって、植物を収穫することはやっぱり嬉しい。
「……薬草だけど」
それでも収穫は収穫だ。
美穂は次の薬草を探し始める。
今度は少し慣れてきた。
「あ、あった」
「こっちにも」
「これは……違う」
「こっちは薬草!」
少しずつ採取する速度が上がっていく。
やがて、袋の中には薬草が何本も入っていた。
「結構採れた!」
美穂は満足そうに袋を見る。
「これで、いくらになるかな?」
冒険者ガイドには買い取り価格も書いてある。
「……大銅貨、数枚くらい?」
今日の食事代くらいにはなる。
美穂は立ち上がった。
「よし! まだまだ採るよー!」
袋を肩に掛ける。
そしてまた、薬草を探し出す。
◇
薬草採取を続けていた美穂は、ふと顔を上げた。
少し離れたところに、小さな影がある。
白っぽい毛
小さな身体
頭には一本の角
「……魔物?」
美穂は立ち上がった。
異世界に来てから、初めて見る魔物。
美穂は急いで冒険者ガイドを取り出す。
「えーっと……」
薬草のページをめくる。
さらにめくる。
「あった!」
魔物の紹介ページ。
そこに描かれていたのは――。
角ウサギ
小型の魔物
草食性
普段は大人しいが、危険を感じると角を使って突進してくる
「これかぁ……」
美穂は角ウサギを見る。
角ウサギも、美穂を見る。
しばらく見つめ合う。
そして――。
角ウサギは、美穂が採取した薬草へ近づいていった。
「あっ!」
角ウサギが薬草を食べ始める。
「ちょっと!」
美穂が慌てて近づく。
「それ、あたしの薬草!」
角ウサギは気にせず、むしゃむしゃと食べている。
「せっかく採ったのに!」
美穂が手を伸ばす。
その瞬間。
角ウサギの耳がピンと立った。
「え?」
角ウサギが地面を蹴った。
「うわっ!」
ドンッ!
ものすごい勢いで突進してくる。
美穂は慌てて横へ飛び退いた。
「危なっ!」
角ウサギはそのまま通り過ぎる。
「……」
美穂は固まった。
今の突進。
当たっていたら、かなり痛かっただろう。
「これが……魔物」
美穂は少しだけ緊張した。
角ウサギが振り返る。
そして再び、こちらへ向かってくる。
「また!?」
角ウサギが突進する。
美穂は身構えた。
そして――。
「……!」
反射的に手を伸ばす。
ガシッ!
「……」
角を掴んだ。
「……あれ?」
角ウサギは必死に身体を動かしている。
しかし、美穂の手から抜け出せない。
「よいしょ……」
美穂はそのまま角ウサギを持ち上げる。
足が宙に浮く。
「……」
角ウサギがジタバタする。
「……」
美穂は角ウサギを見る。
「意外と……弱い?」
農家の仕事で鍬を振り、米袋を運び、重い農具を扱ってきた美穂。
本人は気づいていなかったが、身体はしっかり鍛えられていた。
角ウサギはしばらく暴れていたが、やがて大人しくなった。
「もう薬草食べないでよ?」
美穂は角を離す。
角ウサギは地面に着地すると、少し離れた場所まで走っていった。
そして振り返る。
「……」
「……」
また目が合う。
「じゃあね」
美穂が手を振る。
角ウサギは、ぴょんと跳ねて草むらの中へ消えていった。
「初めての魔物だったな……」
美穂は冒険者ガイドを閉じる。
そして、食べられてしまった薬草を見る。
「……これは残念」
美穂は小さくため息をついた。
それでも、薬草はまだ十分に残っている。
「よし。採取の続きをしよう」
美穂は再び草原へ向き直った。
異世界で初めて出会った魔物。
その相手は――。
思っていたよりも、ずっと可愛かった。
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