第三十一話 「空白の一位」
「三位だってさ」
「……落ちたな」
「悔しいか?」
「そりゃな」
三週連続一位。
その響きは甘い。
だが一度でも落ちれば、現実は牙を剥く。
「上位なんだから十分だろ」
「十分で満足してたら、終わる」
守るか。
攻めるか。
その答えが分かれたから、俺たちは解散した。
それでも――
「やっぱり見るんだな、お前」
「当たり前だろ」
互いの原稿。
互いの順位。
気にしないふりをしても、目は逸らせない。
高校三年生。
夢と現実の狭間。
一位の空白は、まだ埋まっていない。
週刊『夢乃奏多』。
四週目のアンケート結果が出た。
篤は一人、編集部に呼ばれていた。
黒瀬が資料を机に置く。
「……三位だ」
静かな声。
一位でも二位でもない。
三位。
篤は表情を変えない。
「落ちたな」
黒瀬は目を細める。
「三週連続一位のあとだ」
「落差は大きく見える」
篤は鼻で笑う。
「別に」
「まだ上位だろ」
だが、内側はざわついていた。
あのネーム。
雄大がいない状態で描いた回。
勢いを優先した。
理屈を削った。
“面白い”と思って出した。
だが――
読者は、微妙に違う反応をした。
一方。
学校。
雄大はスマホで速報を見ていた。
三位。
無意識に息を吐く。
「……落ちたか」
安堵か。
悔しさか。
分からない感情。
放課後。
廊下でばったり会う。
沈黙。
先に口を開いたのは雄大だった。
「三位だな」
篤は肩をすくめる。
「見たか」
「見た」
少しの間。
雄大が言う。
「今週、感情は強かった」
篤の目がわずかに動く。
「でも」
「構成、少し荒れてた」
静寂。
以前なら、ここで火がついた。
だが今日は違う。
篤が小さく息を吐く。
「……分かってる」
雄大の胸が揺れる。
「でもさ」
篤が続ける。
「お前のネームも見た」
「……は?」
「月刊用のやつ」
雄大が固まる。
「勝手に見るなよ」
「机の上に出しっぱなしだった」
篤は淡々と言う。
「整ってる」
「でも」
「熱が足りない」
今度は雄大が黙る。
「守りに入ってる」
胸に刺さる。
「順位意識しすぎだ」
言い返せない。
長い沈黙。
廊下に夕日が差し込む。
篤がぽつりと言う。
「なあ」
「俺らさ」
「一人じゃ、どっか足りねぇんじゃねぇか」
雄大の心臓が跳ねる。
だがすぐに首を振る。
「……もう解消しただろ」
「そうだな」
あっさり。
だが声は、どこか寂しげだった。
「次、どうするんだ」
雄大が聞く。
「一位取り返す」
即答。
「お前は」
「月刊で一位取る」
視線がぶつかる。
挑戦状のような会話。
だがそこには、敵意ではなく――
理解があった。
コンビは解消した。
だが互いが互いの欠けた部分を知っている。
三位。
それは敗北ではない。
だが――
「一位じゃない」
篤が呟く。
空白ができた。
頂点の場所に。
その空白を埋めるのは――
一人か。
それとも。
夕日が沈む。
高校三年生の春は、まだ終わらない。
「なあ」
「なんだよ」
「一人でやれると思ったか?」
「……思ってた」
でも実際は――
どこかが足りない。
感情はある。
理屈もある。
けれど両方は、なかなか揃わない。
「お前の荒さ、必要だった」
「お前のうるせぇ理屈もな」
言葉にすれば簡単だ。
だが戻るには、まだプライドが邪魔をする。
三位。
それは失敗じゃない。
だが“空白”だ。
頂点にあった場所の空白。
それを埋めるのは、どちらか一人か。
それとも――
春はまだ続く。
決着は、まだ先だ。




