第二十五話 「週刊『夢乃奏多』という怪物」
おー
同じ打ち合わせスペース。
だが空気はまるで違う。
「……で」
雄大が疲れた声で言う。
「次は週刊ですよね……」
黒瀬真一は満面の笑み。
嫌な確信しかない。
「そう」
一切の躊躇なし。
「夢乃奏多」
ドリーム館の看板週刊誌。
生き残りの難易度、異常。
「先に言っておく」
黒瀬のトーンが変わる。
月刊よりもさらに冷たい。
「月刊より遥かに厳しい」
篤が笑う。
「望むところだ」
「まだ何も聞いてないぞ君」
即座に刺す黒瀬。
机の上に週刊の資料が置かれる。
分厚い。
嫌な予感しかしない。
「週刊連載の絶対原則」
黒瀬が淡々と語り始める。
「第一原則」
指を一本立てる。
「スピード」
「質より速さ?」
雄大の問い。
「違う」
即答。
「速さも質も両方だ」
理不尽な正論。
「週刊は締切が神だ」
「神は絶対だ」
誰も反論できない空気。
「ネーム遅れ=即死亡」
さらりと恐怖宣言。
「第二原則」
「毎話クライマックス」
篤が眉をひそめる。
「毎話?」
「そう、毎話」
黒瀬は当然の顔。
「週刊読者は待たない」
「引き延ばしは罪」
「停滞は打ち切り」
容赦ゼロ。
「一話ごとに山場を作れ」
「呼吸する暇を与えるな」
雄大が呆然と呟く。
「……物語構造が根本から違う……」
「その通り」
黒瀬は満足そうに頷く。
「月刊が“浸透”なら」
「週刊は“中毒”だ」
強烈な定義。
「第三原則」
黒瀬の目が細くなる。
「キャラの消耗を恐れるな」
空気が変わる。
「え……?」
雄大が戸惑う。
「週刊ではキャラは壊すものだ」
狂気の発言。
「追い込め」
「削れ」
「限界を超えさせろ」
机を指で叩く。
「読者は極限の人間を見たい」
篤が小さく笑う。
「趣味悪ぃな」
「最高の褒め言葉だ」
黒瀬、即答。
「そして最大の違い」
黒瀬が資料を閉じる。
「アンケート」
週刊最大の支配者。
「週刊は人気投票装置だ」
「毎週審判」
「毎週生き死に」
雄大の顔が引きつる。
「……胃が痛くなってきた……」
「慣れろ」
無慈悲。
「一週でも落ちれば危険圏」
「三週落ちれば終戦」
絶対世界。
黒瀬がさらに続ける。
「今回の週刊課題」
嫌な沈黙。
「ジャンル指定あり」
篤と雄大が同時に顔を上げる。
「――対立」
短い一言。
だが重い。
「思想の衝突」
「立場の違い」
「正義と正義の殺し合い」
黒瀬の声が低くなる。
「単純な悪役は禁止」
「全員が正しい世界を描け」
難易度が異常だった。
雄大が即座に理解する。
「……答えのない構造……」
「その通り」
黒瀬が笑う。
「週刊読者は議論が好きだからね」
「どちらに感情移入するか」
「毎週揺らせ」
「まとめるぞ」
逃げ場のない最終確認。
「月刊『月の輪』」
「テーマ:喪失」
「深さ・余韻・キャラ強度」
「週刊『夢乃奏多』」
「テーマ:対立」
「速度・刺激・中毒性」
「同時進行」
現実が牙を剥く。
「一ヶ月」
「ネームと原稿」
「両方」
長い沈黙。
最初に笑ったのは――篤。
「はは……」
完全に壊れた笑いではない。
「いいじゃねぇか」
目は輝いている。
危険なほどに。
「全部まとめてぶち抜いてやる」
雄大は頭を抱える。
「正気の沙汰じゃない……」
だが。
口元が僅かに上がる。
「……でも……」
深く息を吐く。
「やるしかないんだよな……」
黒瀬が満足そうに笑う。
「ようこそ」
週刊の地獄へ。
夢乃奏多。
それは夢ではない。
生存競争そのものだった。
おー




