第二十四話 「月刊『月の輪』攻略会議」
うー
ドリーム館・打ち合わせスペース。
机の上には缶コーヒーと大量の資料。
そして――
黒瀬真一の異様に真剣な顔。
「まず月刊だ」
珍しく低いトーン。
空気が変わる。
「月の輪は甘くない」
雄大が小さく頷く。
それは知っている。
業界でも有名な激戦区。
「一位を取るには」
黒瀬が指を三本立てる。
「絶対条件が三つある」
篤が椅子に深く座る。
雄大は自然と前のめりになる。
「一つ」
指が一本折れる。
「一話目の引き」
「これは絶対」
「読者は一話で読むか捨てるか決める」
容赦のない現実。
「世界観説明は最小限」
「状況説明より事件」
「理解より興味」
雄大が小さく呟く。
「……理屈じゃなく感情……」
黒瀬が即座に反応。
「そう」
「“面白そう”と思わせた時点で勝ち」
「理解は後でいい」
篤がニヤリと笑う。
「得意分野だな」
黒瀬も笑う。
「だから君たちに振った」
「二つ」
二本目の指が折れる。
「キャラクターの強度」
「月刊読者はキャラを見る」
「設定より人格」
「能力より魅力」
黒瀬は原稿用紙を引き寄せる。
「覚えておけ」
ペンで机を叩く。
「ストーリーは忘れられる」
「キャラは残る」
重い言葉。
「一位作品は例外なくキャラが立っている」
雄大の脳が高速回転する。
「……じゃあ」
「主人公の設計から逆算……?」
黒瀬が満足そうに頷く。
「優等生、理解が早い」
篤が不満そうな顔。
「なんかムカつくなその言い方」
「君は直感型だからいい」
即座に切り捨て。
「三つ目」
最後の指が折れる。
空気がさらに張り詰める。
「月刊向けテーマ」
篤と雄大が同時に顔を上げる。
「これが一番重要」
黒瀬の声が低くなる。
「週刊と月刊は別の生き物だ」
資料を机に広げる。
「月刊読者は“余韻”を求める」
「衝撃より記憶」
「刺激より浸透」
雄大が真剣な顔で聞く。
「……具体的には?」
黒瀬は即答する。
「感情の残響だ」
抽象的だが、本質的。
「読後に何かが残る話」
「考えてしまう話」
「誰かに話したくなる話」
篤が腕を組む。
「派手なバトルとかじゃないのか」
「バトルでもいい」
黒瀬は断言する。
「ただし意味のあるバトルだ」
「感情が動く戦い」
「人間関係が揺れる衝突」
「ただ殴り合うだけは論外」
静かな圧。
「月刊は“深さ”だ」
言葉が落ちる。
沈黙。
そして黒瀬は爆弾を投下する。
「で」
笑顔。
最悪の笑顔。
「今回の課題テーマ」
篤と雄大の背筋が伸びる。
「――喪失」
空気が止まる。
「失ったもの」
「取り戻せないもの」
「それでも進む理由」
黒瀬の目が鋭くなる。
「月刊読者はこういうのが大好物だ」
篤の目が変わる。
雄大の表情も引き締まる。
「一話目で掴め」
「キャラを刻め」
「感情を残せ」
逃げ場のない条件。
「一ヶ月」
「ページ制限なし」
「ただし一位以外は意味がない」
絶対基準。
黒瀬が立ち上がる。
「さあ」
笑う。
「どんな地獄を見せてくれる?」
篤が笑う。
完全に火がついた顔。
「面白くなってきた」
雄大は小さく息を吐く。
「……本当に化け物の雑誌だな……」
月刊『月の輪』。
新人漫画家二人の――
最初の本当の試練が始まる。
えー




