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半身のペンネーム2  作者: マーたん


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第二十二話 「移籍」

移籍??

月園舎・編集部。


静まり返った会議室。


机の上に置かれた一枚の紙。


 


雄大の喉が鳴る。


 


「……本当に書くのか……?」


 


篤は迷いなくペンを走らせていた。


 


――もうここでは二度と書かない。


 


紙に刻まれる決別の言葉。


あまりにも重い一筆。


 


「……おい……篤……」


 


止める声は弱い。


理解しているからだ。


ここに残る道は、すでに細すぎた。


 


歩は黙って見ている。


表情は変わらない。


だが、目だけが違った。


 


「……後悔は?」


 


静かな問い。


 


篤は笑う。


いつもの、あの笑い方。


 


「するわけねぇだろ」


 


ペンを置く。


 


「ここで描けねぇなら」


 


視線は真っ直ぐ。


 


「別の場所で描くだけだ」


 


雄大の胸が締め付けられる。


それは強さではなく――覚悟だった。


 


歩が紙を受け取る。


指先がわずかに震える。


誰も気づかないほど微細な揺れ。


 


「……分かりました」


 


プロの声。


 


「あなた達の選択を尊重します」


 


それ以上の言葉はない。


引き止めない。


責めない。


ただ受け入れる。


 


雄大が俯く。


 


「……すみません……」


 


絞り出すような声。


 


歩は首を振る。


 


「謝る必要はありません」


 


そして、ほんの僅かに微笑む。


 


「次は――負けませんから」


 


編集者としての宣言。


過去ではなく未来を見る者の目だった。


 


こうして。


二人は月園舎を去った。


 


夢を守るために。


 



ドリーム館・編集部。


空気がまるで違う。


ざわめき。


熱量。


混沌。


 


「来たか」


 


低い声。


 


編集長ではない。


一人の編集者。


 


「待ってたよ」


 


柔らかい笑み。


だが眼光は鋭い。


 


黒瀬真一。


ドリーム館編集者。


 


「原稿、全部読んだ」


 


椅子に深く腰掛け、言い放つ。


 


「いいね」


 


間髪入れず。


 


「無茶苦茶で」


 


雄大が固まる。


篤がニヤリと笑う。


 


「褒めてんのか?」


 


「最高の褒め言葉だ」


 


即答だった。


 


「整った漫画は他にいくらでもある」


 


黒瀬は原稿を叩く。


 


「でも君たちのは違う」


 


目が細くなる。


 


「ちゃんと“匂い”がある」


 


篤の目が変わる。


初めて見るタイプの評価だった。


 


「息が合いそうだな」


 


黒瀬の言葉。


軽いが、本質を突いている。


 


「俺、細かいこと言わないから」


 


雄大が思わず聞き返す。


 


「え……?」


 


「面白ければいい」


 


それだけ。


あまりにもシンプル。


 


「描きたいもん描け」


 


篤が吹き出す。


 


「はは……最高じゃねぇか」


 


黒瀬も笑う。


 


「ただし」


 


空気が締まる。


 


「死ぬほど描け」


 


笑顔のままの圧。


 


「才能なんて信用してない」


 


「量だ」


 


「狂気だ」


 


ドリーム館の論理。


 


雄大の背筋が震える。


だが――


恐怖ではなかった。


 


「……やれる気がする……」


 


無意識の呟き。


 


黒瀬がニヤリと笑う。


 


「いい目だ」


 


篤が肩を鳴らす。


 


「最初からそのつもりだ」


 


新しい場所。


新しい編集者。


 


価値観は違う。


だが――


妙に噛み合っていた。


 


月園舎での窮屈さ。


対立。


制限。


 


それらが消えたわけではない。


形を変えただけだ。


 


だが少なくとも今。


 


「描け」


 


その言葉に、嘘はなかった。


 


二人の戦場は変わった。


物語は、さらに加速する。

野球なの?

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