第二十一話 「火種は消えず」
華やかな誌面の裏側で、誰もが静かに牙を研いでいる。
漫画家だけではない。
編集者もまた、譲れない信念と過去を背負った戦士だ。
交錯する思惑。
消えない遺恨。
そして、才能を巡る冷酷な現実。
ライバル漫画雑誌――ドリーム館。
そこで再会したのは、忘れられない「因縁」だった。
敵は外にいるとは限らない。
過去は、最も鋭い刃になる。
第二十一話「火種は消えず」。
編集長室を出たあとも。
空気は最悪のままだった。
「……なんなんだよあの女……」
雄大が小声で吐き捨てる。
まだ動揺が抜けていない。
篤は妙に機嫌が良い。
「最高じゃねぇか」
「何がだよ!」
「分かりやすい敵がいる方が燃えるだろ」
完全に戦闘民族だった。
少し前を歩く歩。
無言。
表情はいつも通り――に見える。
だが違う。
明らかに、硬い。
「……八島さん」
雄大が声をかける。
歩は立ち止まらない。
「気にしなくていいです」
短い言葉。
それ以上踏み込ませない声音。
「いやでも……」
「業界ではよくある話です」
即答。
だが、どこか冷たい。
「編集者同士の競争」
「作家の奪い合い」
「潰し合い」
淡々とした説明。
「珍しくありません」
篤が横から口を挟む。
「でも」
歩がわずかに視線を向ける。
「嫌いなんだろ、あいつのこと」
一瞬。
沈黙。
歩の足が止まる。
「……」
初めて見せる間。
「……ええ」
小さな声。
だが確かな感情。
「価値観が真逆ですから」
雄大が恐る恐る聞く。
「昔……本当にあんな感じだったんですか……?」
歩の視線が遠くなる。
「……否定はしません」
意外な答えだった。
「新人時代は……必死でしたから」
「勝つことしか見えていなかった」
静かな告白。
「誰かが落ちる世界で」
「自分だけ綺麗ではいられない」
重い言葉。
「ですが」
歩の目が戻る。
強い光。
「今は違います」
「作家を信じる編集でいたい」
篤が小さく笑う。
「甘いって言われるぞ」
「構いません」
即答。
「その方が私らしい」
雄大は言葉を失う。
編集者にも戦いがある。
信念がある。
篤が前を向く。
「で?」
「あの編集長の話、どうする?」
現実的な問題。
ドリーム館からの誘い。
歩は一切迷わない。
「お断りします」
即答だった。
「え?」
雄大が驚く。
「あなた達は私の作家です」
静かな断言。
「他誌へ移る理由はありません」
篤がニヤリと笑う。
「言うねぇ」
「ただし」
歩の声が変わる。
完全な仕事モード。
「結果を出せなければ話は別です」
空気が引き締まる。
「連載会議」
「次回作」
「全ては数字で決まります」
遠く。
ドリーム館編集部の窓。
川島由佳の視線がこちらを見ている気がした。
火種は消えない。
編集者の因縁。
雑誌の戦争。
そして――
新人漫画家二人の運命。
戦いは、まだ始まったばかりだった。
今回は編集者の物語でもあります。
創作の世界では、どうしても作家側が主役になりがちですが、
実際には編集者同士の競争や対立も非常に激しいものです。
歩と由佳。
どちらが正しいという単純な話ではありません。
結果を重視する現実主義。
才能を信じる理想主義。
どちらもこの業界では「生存戦略」です。
そして何より重要なのは――
この衝突が、作家である篤と雄大の運命にも直結していくこと。
火種は残りました。
むしろ、物語としてはここから加速していきます。




