第十八話 決別宣言
編集長
なんだ
ガキが??
編集長室。
重苦しい沈黙。
机の向こう。
編集長の視線は鋭く、冷たい。
「……君たちか」
その一言だけで空気が張り詰める。
篤と雄大は並んで立っていた。
歩は少し後ろ。
いつもの冷静な顔だが、わずかに緊張が滲んでいる。
「読み切りの件だ」
編集長が原稿と資料を指で叩く。
「評価は悪くない」
二人の鼓動が跳ねる。
「だが」
その続きが問題だった。
「問題も多すぎる」
室内の温度が一気に下がる。
「作家の暴走」
「編集方針への非協力」
「誌面カラーとの乖離」
一つ一つが重い。
篤が眉をひそめる。
「暴走じゃねぇ」
編集長の目が細くなる。
「何だと?」
「信念だ」
空気が凍る。
雄大が青ざめる。
止めろ――と思うが遅い。
「売れるために描いてねぇ」
編集長の顔色が変わる。
「ここは商業誌だ」
「知ってるよ」
篤は一歩も引かない。
「でも媚びる気はねぇ」
完全な衝突。
歩が小さく息を呑む。
最悪の流れだ。
編集長の声が低くなる。
「……ならば確認しよう」
引き出しから紙が出される。
「この方針で描けないと言うなら」
紙が机に置かれる。
「一筆書け」
雄大の心臓が止まりかける。
「今後、当誌では二度と執筆しないと」
部屋の空気が崩壊する。
「は……?」
雄大が絶句する。
篤の目が据わる。
「脅しかよ」
「選択だ」
編集長は即答した。
「描きたくないなら他へ移れ」
「だがこの雑誌の名前は使うな」
あまりにも苛烈な条件。
歩が前へ出る。
「編集長、それは――」
「八島」
鋭い一喝。
「甘やかしすぎだ」
歩が言葉を失う。
沈黙。
逃げ場のない沈黙。
篤が紙を見る。
ペンを見る。
そして。
笑った。
「いいぜ」
雄大が振り向く。
「おい!」
「どうせ描く場所は一つじゃねぇ」
編集長の視線が鋭く光る。
「本気かね?」
「最初から本気だ」
ペンを掴む。
その瞬間。
「待ってください!」
扉が勢いよく開く。
全員が振り向く。
「……え?」
そこに立っていたのは――
奈那峰亜紀。
場違いなほど華やかな存在。
だが表情は必死だった。
「書かないって何ですか!」
編集長室の空気が完全に壊れる。
「部外者は――」
「部外者じゃありません!」
歩が目を見開く。
篤が固まる。
雄大は状況が理解できない。
「その人たちの作品を一番近くで見てきたんです!」
編集長が呆気に取られる。
まさかの展開。
「勝手に未来を閉じないでください!」
篤が思わず声を漏らす。
「……亜紀……?」
さらに。
「編集長!」
別の声。
他の担当編集たちがなだれ込む。
「その判断は早計です!」
「まだ伸びる作家です!」
「今切るのは損失が大きい!」
異例の光景。
編集長室での集団抗議。
編集長の眉間に深い皺。
「……騒がしいな……」
誰も引かない。
歩が静かに口を開く。
「編集長」
室内が静まる。
「この二人は問題児です」
篤が「おい」と小さく呟く。
「ですが」
歩の視線は真っ直ぐだった。
「本物です」
沈黙。
編集長の目が細くなる。
「保証できるのか?」
「できません」
即答。
「ですが」
一拍。
「失えば後悔する保証ならあります」
室内の空気が変わる。
編集長はしばらく黙り込む。
長い沈黙。
やがて。
「……紙はしまえ」
誰もが息を呑む。
「今回は保留だ」
緊張が一気に緩む。
「ただし」
鋭い視線。
「次で示せ」
篤の口元が歪む。
「上等だ」
雄大も静かに頷いた。
戦いは終わらない。
むしろ――ここからが本番だった。
上等だ
もうここでは二度と書かない




