第百二話 新年会で料理を作る話は承知しましたが、何人分の料理を用意すればいいんですか?
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楽しんでいただければ幸いです。
大山雉とかの手配を始める前に、確認しなきゃいけない事があるのでカロンドロ男爵の屋敷を訪ねる事にした。まだ穀倉地帯の再建などの調整などを薦めないといけないらしく、男爵は流石にいろいろと公務が山積みで手が離せないという事なので、メイド長のグリゼルダさんが対応してくれた。
そういえば、商人ギルドの前ギルマスであるダニエラは王都に引っ越したはずだけど、グリゼルダさんはこの町に残ったんだな。男爵家のメイド長だし、そう簡単に暇は貰えないんだろうけど。
客室に案内されて、お茶と茶菓子が出されたんだけど……、これ、俺が売ったマドレーヌだ。男爵もこれを買ったのか? そりゃ買うか……、お膝元だしな。
「新年会で料理を作る話は承知しましたが、何人分の料理を用意すればいいんですか?」
「お受けいただきましてありがとうございます。今年は少し事情が異なりまして……」
「何か特殊な事が?」
「最近この領が様々な特産品を売り出している関係や、魔物被害の確認に王都から王族の方がお見えになるそうで……。そこまでの事ではないのですが、王族といいましても王位継承権を持たない姫なので……」
「それ、下手な料理を出すと首が飛ぶパターンじゃないですか? 主に物理的に」
「いえ。流石に王族といえども、今のクライド様に危害を加える真似は出来ないのです。その、グレートアーク商会のスティーブン様と同格ですし、二人が組めばこの王国をひっくり返せる可能性までありますので。王族ともなれば、お二人を怒らせたり敵対したりするとどれだけ不利益を生むかは理解されていますよ」
「これ以上力を付ける前に芽を摘んでおこうとかしませんか?」
「既にその段階は超えていますので、王都の方も諦めていると思いますよ。それにクライドさんが魔物をひとりで倒したことも知っていますので、その……」
「暗殺に失敗した後の報復が怖いと。確かにその気になれば武力でねじ伏せる方法もありますし、経済で攻めた場合でもどうとでもできますしね」
俺もファクトリーサービスとプラントを全開にしたらこの国の経済活動位簡単に潰せるけど、スティーブンだけでも財力とか相当ありそうだしな……。
スティーブンとはいろんな件で手を組んでるから、片方を相手にしたらもう一方とも敵対するって考えられてるのか。
「もしかして、何かあっても揉み消せるというか、王族が下手な真似を出来ないように俺に頼んだんですか?」
「流石に王家ともなれば当家の料理長程度でしたら、難癖をつけて首くらい飛ばせますから。それも物理的にです……。ご迷惑であることはカロンドロ様も重々承知ですので、正式な依頼ではありませんが後程十分な報酬は支払われると思います」
「向こうが難癖をつける事が出来ないように手を打ったって訳ですか。そういった理由ですと仕方がないかもしれませんね」
そりゃ、王族相手だと男爵も自分が使える一番強いカード用意するよな。
俺を料理人として使って矢面に立たせる事で王族側からの無茶な処罰を避け、しかも俺とそこまで懇意にしてる事をアピールできるから下手な手出しができなくなる。
カロンドロ男爵が元々スティーブンとも交友があるってわかってる訳だし、これで完全に王族側から手出しできなくさせる気なんだろう。
「王族が来るという事で、参加できる貴族や商会の格が問われます。参加できる貴族は男爵領内にいる親戚筋十名ほどと大手の商会の頭、それと商人ギルドのギルドマスターのミケル様です。クライド様も含めて全員で三十名ほどです」
「冒険者ギルドのギルドマスターは呼ばないんですか?」
「今回は呼ばれていないですね。莫大な利益を上げて常に男爵領に貢献している商人ギルドと違って、冒険者ギルドはマッアサイアの放棄などいろいろと問題を起こしていますので……、その」
「存在が割と問題視されているんですね。この先冒険者が育てば領内も安全になると思いますが」
「今までの失態を上回る実績を打ち立てるしかないですね。冒険者ギルドに登録しているとはいえ、クライド様の貢献はどちらかといえば個人的な功績ですし、他の方にもう少し活躍していただかないと……」
そういえば、鎧狐の一件でもルッツァ達以外は逃げたしな……。
今までも何度か同じ事があったとすれば、その失態を帳消しにするだけの功績って難しいと思うぞ。
「冒険者たちの多くは食糧事情改善のために剣猪討伐に頑張っていますよ。この冬を無事に乗り越える為には必要でしょう」
「それは大きいと思いますが、今後の評価はそういった実績の積み重ねになりますね。私個人としましては応援したいのですが」
「領主クラスになるとそう簡単に認められない訳ですね。それとひとつ聞きたいのですが、大山雉の丸焼き的な料理を出して、複数人で取り分ける方式に問題はありませんか?」
「問題ありませんよ。王都の晩餐会などでもよく見られる光景ですので」
なるほど。取り分け方式がありだったら今後同じような事があった時でも楽になる。
もう一つ確認しておかないといけない事があるんだった。
「当日、一月になれば結構寒くなると思うのですが、晩餐会の会場はどの位暖かくしますか?」
「はい。魔導式の暖房器具を使用しますので今のこの部屋くらい暖かいですよ」
「大きな部屋でもこの位暖められるんですね……」
よしこれだけ暖かければ、あれも大丈夫だろう。
これで料理に出すものは決まった。あとは足りない物をどうするかだな。
「他に問題ありませんでしょうか? 例えば使ってはいけない食材とか」
「そうですね……、そういったものは特にありませんよ。ゲテモノ扱いされる食材はいくつかありますが、今回参加される方ですとカニやエビなどでも大丈夫です」
「食べない地域もあるみたいですしね。この町だと貴族以外は海老や蟹は食べないんですか?」
「マッアサイアに行った事がある人ですと食べ慣れているみたいですが、普通の人は食べないと聞いていますね。穀倉地帯出身の人は川などでカニやエビをとっていたようなので食べたりしますよ」
海老や蟹はこの辺りに住んでる人だけ食べないのか。
ん、待てよ。穀倉地帯にあるのは川だよな? という事は巻貝は食べない?
「穀倉地帯の方とかは巻貝を食べたりします? こんな形の貝ですけど」
「食べる人もいるみたいですが、おかしな病気になる人もいます。海の巻貝は食べますけど、川や池にいる巻貝は食べないですね。禍々しい魔素でも溜まってるんじゃないですか?」
「禍々しい魔素……、そうか、そっちの可能性もある訳だ」
魔素関係は心配がある素材についてはヴィルナに確認して貰えばいいだろう。
というか普通に寄生虫か何かだと思うぞ。この世界だと薬とか魔法でどうにでもなるのかもしれないけど。何せ腕が生えてくる薬がある世界だしな……。
「普通に売られている商品でそこまで魔素が溜まった商品はありませんが、今年は麦が問題ですかね」
「麦に関しては私が売ってる物を使います。品質には自信がありますし、魔素関係も問題ないです」
【プラント産の植物にも魔素は含まれますが、この世界の標準値と比べれば魔素が少なくなっています。身体に影響はありません】
ああ、プラント産の植物にも魔素とかあるのか?
【元の世界の動植物などにも非常に少量ですが魔素が含まれています】
やっぱり元の世界にも魔素とかあったんだ。
火薬とかで爆発が起こせたりしたのは魔素が少なかったためかな?
【濃度の違いです。空気中の水分が元の世界の魔素だとすると、この世界など魔素の多い世界基準では海の中に潜っている状況です】
そりゃ凄い。それだけ魔素の量が違えばいろんな事に影響が出るのか……。
「それではお願いします、仕込みなどの準備が必要でしたらいつでも当家のキッチンを使ってください」
「うちのキッチンもなかなかの装備なので、三十人前くらいでしたら問題ありませんよ」
むしろなんでそのクラスのキッチンがうちにあるんだって話だよな……。もしかしてそこも俺が料理人だと勘違いされてる原因?
「それは凄いですね。あれだけの料理の腕をお持ちですし、日々精進されてるんでしょうね」
「割と作る量が多いですからね。それではこの辺りで失礼します」
作る量に関しては主にヴィルナの食べる分がね……。作るのは苦痛じゃないし、暇な日は下手すると一日中料理作ってる時も増えたけど……。確かにこの世界に来た直後に比べて料理の腕が上がってる気はするんだよな。
【私のサポートのおかげでは?】
それもある。おかげで失敗する事は無くなったしな。
さてと、とりあえず大山雉の確保と、できれば卵の方も大量に欲しい。
この辺りで手に入らない物に関しては、一度マッアサイアに仕入れに行くか。魔導車を使えばを使えば一日で往復できる距離だし。
これから忙しくなるぞ……。
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