第百一話 さて、ルッツァと……。お、いたいた。よお、久しぶりだな
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楽しんでいただければ幸いです。
やってきました超久し振りの冒険者ギルド。
今日は冒険者の依頼を受ける訳じゃないけど、とりあえずいつもの真っ黒装備で尋ねる事にした。冒険者ギルドにスーツで来るのもおかしな話だしね。
この扉を開けるのも久し振りだよ。って、冒険者に見えない連中が食堂に結構な数入ってるけど、アレが全員冒険者志願って訳じゃないよな?
「さて、ルッツァと……。お、いたいた。よお、久しぶりだな」
「クライドか。ホントに久しぶりだな。というか、ヴィルナの方は割と頻繁に顔を出してたのに、お前の方はさっぱりだったな」
「俺が受ける様な依頼はないだろ? それに商人ギルドの仕事で忙しかったし」
「そうだね~。私たちもたま~に剣猪の討伐に行ってるだけだしさ。そういえばさ、前にクライドが料理を披露したおかげで冒険者ギルドの食堂で増えた料理とか、取り扱い始めた商品があるんだよ」
「どれが増えたんだ? えっとメニューはこれだな」
ん? ああ、参考にしたのはひと口カツか。アレを参考にしたって事は、串カツでも出し始めたのか? 串カツだと酒のつまみにはいいしな。
ひと口カツセットと、カツサンド……。串カツもあるな。串カツもそうだけど、カツサンドはソースが無いとだめだろう?
「ここの人気メニューなんですよ♪ それに、剣猪の脂身を加工して作ったラードも大人気です」
「壺入りラードが十シェル? それって割と大きな壺だよな?」
「この大きさの壺に溶かした剣猪のラードだけを詰めて売っているんです。冷えたら固まってこぼれないですし、これがあれば揚げ物もできますし他の料理もおいしくなると好評なんですよ」
「商人ギルドが食い付いてきそうなネタなのに、あいつら全然手を出してこないんだよな。おかげでこの冒険者ギルドが独占してる状態らしいぞ」
そりゃ……、あっちはマドレーヌとかの売り上げが凄まじすぎて、こんなひと壺十シェル程度の商売なんて相手にしてる暇なんかないだろうしな。
でも、冒険者ギルドが潤うってのはいい話だ。
「串カツの味付けは塩なのか?」
「私たちを舐めて貰っては困りますね。以前ビーフシチューを食べさせてもらいましたし、あれからいろいろ考えてきたんですよ」
「ここは割と色々手に入るじゃないか。そこでマッアサイア辺りで作られてる魚醤を参考にして肉醤を作り始めたって事だな。俺達もいろいろな魔物を狩って来たりして、協力したんだぞ」
「ここだったら新鮮な剣猪の内臓とか肉が手に入るしな」
「そしてその剣猪の内臓と塩で作りあげた肉醤がこれです。そしてそれを使った串カツがこれですね」
肉醤はちょっとトロミの少ない醤油? 串カツの方は見た目的にはひと口カツを串にさしてるだけに見えるんだけど。
「なにもかけずにそのまま食ってみろ」
「流石にそれは……。とりあえずひと口」
ん!! しっかり味が付いてるぞ、これ。後からソースをかける方式じゃなくて、最初からこの肉醤に肉を漬け込んだのか!!
「旨い!! 表面にも程よく塩を振ってあるし、中の肉にもしっかり味が付いてる。コレ、肉醤の味だけじゃないよな?」
「肉醤に香辛料を混ぜて味付けしてみました」
「凄いな。今までの料理とはホントに別物だ。……それでこの客入りなのか? ここって冒険者以外も利用できたんだな」
「今は冒険者の数が少ないから入りやすいだけだと思うよ。厳つい冒険者が占拠してたら流石に利用しにくいと思うしね~♪」
例の剣猪討伐で、ほとんどの冒険者は出払ってるって話だしな。
確かに、普段の状況だと流石に入りにくいだろう。
「一般向けにもラードを売ってますし、肉醤も作ろうと思えば作れますから町の食堂もそのうちよくなると思いますよ。うちより高いと思いますけど」
「ここは原料が一番入ってくる場所だからな……。やっぱり塩が安くなったのが大きいのか?」
「そうだろうな。たまにサービスのつもりなのか凄い塩辛い肉とか出す店もあるぞ。香辛料もよく効いてるから酒のつまみにはちょうどいいんだけどな」
それ、腐敗防止に塩を多めに使ってるんじゃないのか? 香辛料系も同じ理由だろう? そのあたりを研究してくれれば本格的な保存食も作り始めるんだろうけどね。肉醤の一件といい、いい傾向だ。
「ここの料理がおいしくなったことは分かった。そんな事より、ルッツァに聞きたいことがあるんだが」
「俺にか? ……ああ、ヴィルナと結婚するんだったら教会に伝手が……」
「ちげーよ!! その話もそのうち聞きに来るかもしれないけど、今は別の話だよ!!」
「え~。ヴィルナは私たちにいろいろ聞いてきてるのに……」
ダリアの口からすっごい気になる言葉が聞こえたけど、とりあえず今はその前にあの件を聞き出さないとな。
「この辺りでも年始の宴会とかあるだろ? 貴族の新年会とかで外せない料理とか外せない食材とかあるかなと思ってな」
「……大体理由は察した。相変わらず面倒ごとに巻き込まれてんだな」
「そう言ってくれるのはお前だけだよ……。流石に断れないし、そうなると最低限必要な情報は仕入れなきゃならないだろ?」
「とはいえ、新年会の料理ってのは貴族領とかでいろいろ違うからな。王都は各地から取り寄せた食材を使う傾向があるし、貴族領だとその領内の特産品を使う事も多い。このカロンドロ男爵領は特産品となる穀物や海産物も多いだろ?」
確かに、マッアサイア産の海産物、塩。それに海外からの輸入品。穀倉地帯の米や麦。森で採れる山菜や剣猪をはじめとする獣など多岐にわたる。
今の話で大体メイン食材は決まった。後はどう料理されてるかだけど……。
「これが無いといけないって料理はないのか?」
「この辺りだと何があったかな? 大山雉の丸焼きとかは定番というか、カロンドロ男爵領の新年会なんかだとよく見かける料理だな」
「大山雉か……。養殖してるんだっけ?」
「大山雉が欲しいんだったら南地区の端に行けば飼ってる所があるぞ。卵も売っているが大山雉も売ってるし」
南地区の端か……。下拵えが必要だし、必要そうな数を買っておくか。余ったら家で食べればいいんだし。
「ありがとう、後で買いに行くよ。新年会でこの辺りで使われてない食材とか出しても大丈夫か?」
「メインさえ押さえておけば問題ないな。あと、新年会は絶対に立食形式にしないからコース料理で組み立てた方がいい。晩餐会だとたまに立食形式にする場合があるんだ」
「晩餐会とかは立食会の場合もあるのか?」
「あまり貴族と付き合いが無い人間を招く時なんかは立食会にするのが普通なんだ。この辺りは食事の作法にうるさい地域じゃないんだが、王都や侯爵領なんかだと細かい事にいちいちうるさく言う奴もいるんでな」
その地域ごとのマナーって奴か? ん? そういえば俺は最初からコース形式で呼ばれたんだけど。
ああ、その前にスティーブンにマッアサイアで飯を奢って貰ってたからか。アレで最低限のマナーはあると理解されたって訳だ。
「ありがとう色々助かったよ」
「いいってことだ。腕の一件もそうだが、この鎧や剣もお前のおかげだしな」
「ルッツァ達も買ったのか。あの素材の武器って使いやすいか?」
「剣やナイフは軽いし丈夫だし良く斬れるぞ。この防具も薄くて頑丈だ。この薄さでも剣猪の角や牙じゃ傷もつかないんだぜ」
「それは凄いな……。冒険者が怪我をしにくくなったんだったらいい事だ」
結構な量を提供したから、ここの冒険者の数が倍になっても供給は可能なはず。
「お前が提供ってのも公表されてるから、他の冒険者が感謝してたぞ」
「でもさ、なんであれだけの素材を提供したの? クライドには利益が無いでしょ?」
「例の子供冒険者の件だけじゃないが、この町の冒険者でも結構犠牲が出るだろ? 戦い方を教えたりするのはアレだが、装備をよくする協力位はしてやるさ」
「うわぁ……、あれだけ稼いでたらそうなのかもしれないけどさ、結構異常な考えなんだよそれ。ミランダみたいにどこかの神様を信仰してる人の言葉だよ」
「実践されているクライドさんの方が素晴らしいですわ」
怪我をする冒険者が減ってこの町の冒険者の熟練度が上がれば、何かあった時に町の人を護れるだろうしな。
この町で成長してマッアサイア辺りで冒険者として活動してくれてもいいし、イサイジュやほかの町で活躍してくれもいい。
冒険者の数が安定すれば、色々助かるだろうしな。
「それじゃあ俺は大山雉とかの手配に行くからこの辺りで」
「おう、じゃあな。さっきの件も困ったらいつでも相談に乗るからな」
「その時は頼むさ」
ヴィルナが冒険者ギルドで何を話してたのかもすっごい気になるけど、そのうち自分から話してくるだろう。
さて、まずは食材の確保とどんな料理を作るかを決めないとな。
メインディッシュと出す料理は大体決めたけどね。
読んでいただきましてありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。色々助かっております。




