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例え無駄に終わったしても…

えっとそのお久しぶりでーす。約一年ぶりですね。ハイ、スミマセン。ヤマなしオチなしくっちゃべ話でございますがどうぞお楽しみ頂けたら幸いでございます!

後日。


仕事終わりにようやく取り付けた約束にこぎつけ、ただ今高層ビル内の高級レストランでお食事中です。勿論、渦中の二人と共に。


とりあえず三人で席に着き、適当にそれなりのお値段の白ワインを頼む。

いやぁ、さっすがいいとこのワインなだけありますね。スルスルと飲めること飲めること。



「んー、美味しいねー。二人とも飲まないの?」

「はい、頂きます…」

「そう…だな…他に頼んでいいからな?」

「んじゃ、適当にサラダとホタテのソテーと白身魚のムニエルと赤ワインとシェフこだわりのビーフシチューお願い」

「容赦ねぇ…」


何か言いたそうにしつつも言葉が出ない遥人と緊張しているのか表情とか仕草が硬くなったままの玉ちゃん達にワインを勧めると遥人はメニューを選び始め、玉ちゃんはハイペースでワインを飲んでいく。


適当なところで止めないと話す前に潰れちゃうな。

まあ、アルコール入れば割りと気は大きくなってくるだろうからもうちょっと飲むとするか。


「それでは、言いたいことくらいは今の内に全部吐き出させて貰いますか。無礼講にやろうよ気軽にさ♪」

「そう、だな…。何を話したものか…」

「んじゃ私から質問。二人はもうベッドインしちゃったの?」

「ごぶっ!?お前いきなりそんなっ!」

「けほけほっ…」

飲み物を飲んでる所に狙って爆弾を放り込むと二人とも同じように狼狽える。

ありゃ、初っぱなから突っ込み過ぎたか。でもちょっとざまぁ。


「もう別れちゃったしそれくらいは聞いても良いかなーって。ほらやっぱりそこんところは知りたい訳よ」

いやー、いくらプラトニックだったとはいえ二年付き合った情はほんのちょっと前に起きたエッチな事に負けるのかなー、とふと疑問に思ったからなんだけどね?


「そりゃあ、あったよ…」

「んー、そっかそっかー。もう良いよ。それだけ聞ければ十分。ありがと」


顔を赤くしてボソボソと答えられ、少しムッとする。マジかー…、そうなのかー…。少なからずショックを受けている自分に呆れてしまう。

丁度良いタイミングでウェイターさんがサラダを持ってきてくれた。

「ほれ、玉ちゃん。サラダでも食べなさいな。後、そろそろ水に切り変えた方が悪酔いしないよ?」

「へっ?あ、はい!美味しいからごくごく飲めちゃって…瓶の中に入ってるの後ちょっとだけなんで飲み終わったら水に変えますね?」


「…そう」

赤ら顔で笑い返されてもう遅かったと諦める。えーと…半分位飲んだか。飲みなれてないんだろうか。今の内に水を飲ませないと後々きついからなー…。


「んで、二人とも怪我の方は大丈夫?」

遥人は肋骨のヒビ (折れてたはずだったのだが緋牙が接着しといてくれたらしい)、玉ちゃんは爪と頭の治療。


「俺は大分良くなったよ。もうくしゃみしてもあばらが痛くなったりはしなくなったな」

「その節はどうもすみませんでした。まあ、あれで

チャラって事にしてくれたら嬉しいなー?ちらっ?」

「安心しろ。治療費位は自分で出すよ。これ以上お前に借り作りたくないですし?」

会話を濁すためにわざと効果音を付けて遥人を見ると軽い冗談を返してくれ、それを見ていた玉ちゃんがくすりと笑う。


ふと、ギクシャクする前はこんな感じだったと思い出した。私が彼女の教育担当だった時、最初は何をするにも人の顔色を伺いながらおっかなびっくり仕事をしていて全然表情が変わらずいつも思い詰めたような顔をしていた彼女に肩の力を抜いてほしくてあれこれお節介を焼いていて、その時彼女が初めて笑ったのがこんな他愛ない遥人との掛け合いだった。

懐かしさと今の状況を比べて少し胸が苦しくなってワインを口に含んで後悔する。

あの頃から私は変わっていない。…変われなかった。あの頃を思い出しては惜しんで悔やんで、無駄となってしまった終わった恋を惨めに抱えたままで…。


「うふふ…、私もです。ちょっと所々禿げちゃいましたけと髪で隠せるので大丈夫です」


笑った笑顔が素敵で密かに見るのが楽しみだったのに、自分の心に未だに残った黒い気持ちで素直に喜べない事に嫌気が差して本格的に料理に手を着けていく。

ホタテを口に含むとホロホロと身が崩れて中に染み込んだバターとシンプルな塩コショウの味付けがグッドで白身魚の方も衣がほどよくサクッとしていて中は柔らかく付け合わせのワサビマヨがちょっとくどく感じるが優しい辛味が癖になり中々飽きが来なくて白ワインが欲しくなってくる。


「怪我の事に関しては申し訳ないなって思うんだけどね…。だけど謝らない事にした。こっちにも被害は出たしね?」

嘘だ。本当はそんなことを考えてなんかいない。…でも、ここで許せばまた二人はいらない罪悪感を感じて心に残り続けるだろう。こんなこと緋牙に知られたら呆れられて怒られるだろうがこれでいいと思ったのだ。

「そうだな…」


「あのっ!葛之葉先輩、なんで私…あんなことしたのにどうして私を庇い続けてくれたんですか?」


「んー?そりゃ私、玉ちゃんの事好きだったからだよー?慕ってくれてたし」


「…そんな事でですか…」

「んー、そんな長くない付き合いだけど玉ちゃんなら任せてもいいかなって思えたからかな?」


「私、そんな人間じゃない…です。汚い事をしましたし…」

反省はよろしいことですがそこら辺やったもん勝ちだったと諦めてるのでもういい。


「あのねぇ…。正直言えば私も貴女の事を恨まなかった訳じゃないからね?別に汚いって思ってもやった結果がこれだからまだマシじゃない?それと、もう言わないでくれる?分かりきった事だしね?」

これ以上突っ込むのは気の毒なので本人には言わないで置くが変に自虐されると許されるのを期待しているのかとイラッとする。


「…はい」

「私に関して言えばこれで本当におしまいにしようと思ってるからねー。以後は完全ノータッチのつもりだからねー?」

これ以上蒸し返すのは(こじ)れるだけだろうし。何より、


「なんだかんだ二人とも嫌いになれなかったしね。私の預かり知らないところで幸せになってねー?」

どうしようもなく彼らを最初に許してしまったのだから今さら恨みを抱き直せなんて中々無理な話である。精々こうやって嫌味を送る程度で留めておこう。


「なあ、明日香」

「ん?なあに?」

不意に声を掛けられ飲み物を口にしながら返事をする。ささくれた心に酒が効くねえ。

「お前に沢山迷惑掛けた…。ごめん」

本当にこの男は馬鹿である。

「…それ、付き合ってたときに言って欲しかったなぁ」

口下手でも良かった。なんの慰めにもならないしきっと言われたら恨んでいただろう。それでも、少し楽になれたような気がした。


「…大体話したい事は終わったかな?ワインにも飽きてきたところだし他のお酒とかおつまみ頼ませてもらうわ」


「お前なぁ…少しは遠慮しろよ」


「あっはっはっは。これくらいは許容範囲内でしょー?玉ちゃんはまだ大丈夫?時間が余裕がないなら早めに切り上げて良いよ?私一人で飲み食いしてるし」


「んえ?いえ、まだまだ大丈夫ですよー。あんまりお酒は飲み慣れてなかったんですけどここのお酒ってすっごく美味しくてするする飲めちゃって。私ももうちょっと飲みたいと思っていたので」

少し呂律が回らなくなり顔も赤くなり始めた彼女に、

「あら、それは奇遇ですねー。私もそう思っていたのですよー。という訳で湿っぽい話題はここまで!ここからは折角高いところに来てるんだし料理を楽しみましょ?」

イタズラを仕掛けるような悪い顔で笑って煽った。

ーー1時間後ーーー


「それでですね?あのですね?私が一番最初に提示したデザインがやっぱり良いって言うんですよ⁉散々サンプル用意して何度もあれでもないこれでもないってやっててですよ!ううう…。なんなんですかもう…」


「あー…まあ、よくあるよー。でもあの後褒めてたよ?どれもこれもデザインが良くていくつか採用しようと本気で悩んだって」


「……そう、ですか…。ふふふ…」

(あー、照れてるなー)

案の定、玉ちゃんは酔ってしまい絡まれました。まあ、狙って潰したんだけどね?でも誤算な事にしょっちゅう喋りかけてくるおかげでそんなに酔えない。…可愛いもんだけど。

時刻が気になり腕時計を見ると9時半過ぎ。もうそろそろ良い時間だろう。


「さて、遅くなる前に帰るとしましょうか…。今日はご馳走さま♪とっても美味しかったわ。これにて宴は閉幕という事で」


「容赦なく高いの選びまくったな…。うーあー…。給料日まで節制しないと…」

「うへへへ…、えへへへ…。ご馳走さまでしたぁ」

財布の中を嫌なものを見る目で覗いている遥人。テーブルに突っ伏し、笑いながらも眠そうにしている玉ちゃん。幸せそうに緩んだ顔に安堵しつつも心のどこかでここにいる自分がひどく場違いな気がして早く逃げ帰りたいと思ってしまう。


「立てる?」

「はい…。大丈夫です…」

そういいつつも立とうとすると体が不安定に揺れていたので手を貸すと素直に握り返してきた。

「…すみません」

「んーん、気にしないで。じゃあ、私達は先にエレベーター前で待ってるからお勘定よろしく!」

「おー」


自分と玉ちゃんの荷物を持って足元の覚束ない玉ちゃんをリードしながら歩いていく。


「うー…。せんぱぁい…」

「どうしたの?」

しんどそうな声で語りかけて来たので軽い相づちを打つと次第に涙声になりながら話始めた。

「今まで沢山ご迷惑をお掛けしました…。けど、先輩のおかげで私は頑張れます。こんな事を言うのはおかしいですけど…逃げるしかしなかった私を引き止めてくれてありがとう、ございました」


「えっ?あの玉ちゃん?…ええー?褒めても何もないよー?それに…、私は憧れを向けられるような人間じゃないよ?」

今だってきっと心のどこかで泣きそうな自分を抱えたままでいる。

「それでも私を止めてくれました…」

「あれはなし崩しでだよ…」

逃げれるものなら逃げたかったよ。

「それでも…貴女は私の憧れです」

「…ありがとう。けど、私みたいに男に逃げられる女にはならないでね?」

私には過ぎた称賛が苦しくて、きっと受け答えにしては相当悪趣味であろう冗談で逃げ場を作る。

「あはは、そこは反面教師にさせて貰います…それと…」

「何?」

「先輩は…、あの人たちとどういう関係なんです?あの犬男と体がすぐに治る人…」

その言葉を聞いて今まで気にしていなかったことを一気に突きつけられた気がした。

「あー…、あー?そういや考えたこと無かったなー…」

(ペットと同居人?いや同居人はともかく人に「ペットだよ」は無いな。無難に同居人辺りが適当だと言いたいとこだけど…もう正体バレちゃってるしなー…もうざっくり言っとくか…)

「最近同居してる人達だよー。まあ襲撃かまされて鎮圧したら帰る先が無くて一時避難みたい対応取ってる」

うむ、我ながらひどい説明である。

「…何があったんですか?」

「何かあったんでしょうねー?あちらさんのゴタゴタに首突っ込んだ覚えは無いから巻き込まれたのかなー?」

「え!?先輩軽いですね!?」

「どっちかというと玉ちゃん達の方が大事だったしあっちは良くわかんないしまあ適当に接しとけば良いかなー、って。だから別にこれといって彼らに特別思うところは無いよ。本当に同居人くらいにしか感じてないし」

こういう玉ちゃんのびっくりした反応見てたら一々あいつらに真面目に考えてたら今頃三角関係やらでこじらせてて参ってただろうしこれで良かったんだろうなー。という感想しか湧いてこない。

「ええー…。先輩、それは流石にあの人達に悪いと思いますけど…」

玉ちゃんはこっちに転職しに来たときから人の顔色を伺う癖があったもののそれがプラスになっており、察しが良く洞察力は高いのである。さて、エレベーター前にまで来てしまったしいよいよ話すしかなくなってくる。

「ああ、気づいてたの?別に吊り橋効果みたいなもんでしょうよ。それに今は男と付き合う気は流石に無いのよ…。フラれたばかりで結構しんどいし。ん、エレベーター呼んどくね」

あれだけ好意を向けられてたら嫌でも察する。

「それに鬼田くんはそういうの無いでしょうし、犬持くんのは純粋な好意とは言えないし。鴉木君は…どうしようかなー?そのうち興味失ってくれないかなー…」

思い返してみれば告白されたのにうやむやにしてしまっていた。近々答えを出さないと失礼だし。

「割りと酷いですね。先輩」

「幻滅した?」

「いいえ。何だかんだで先輩はあの人達から逃げようとは思わないんですね」

「逃げたところでねー?追っかけてきそうだし…。落ち着きゃあいつら勝手に出ていくだろうしほどほどの付き合いで良いでしょ。いざとなれば説得するし」

「…先輩ってたまに見通し凄く甘いですよね…」

「あー…他の人にも良く言われるなー。でも、こればっかりは検討付かないからねー…。まあ、こっちに害がなければ私としては別に良いしね」

「はぁ…、本当に貴女は…」

大きな溜め息を吐かれた。こっちとしてもそんなあっさり済むような問題とは思ってないのでその都度対応して軌道修正していくつもりだ。


「案外どうとでもなるもんよ。男二人に女一人の同居生活だけどこの通りシモい事は致しておりませんし。あいつらにときめくような心してないし。ていうか今の状態で恋愛したいと思わないのよ。時期が悪かったね。うん。時期が悪い」

「先輩ほんとにひどい…。あの人たち不憫ですよ…」

「と言いつつ笑ってるじゃない」

「…ふふ、実はちょっと興味がありまして」

「おや、人のこと言えないぞー?」

そんな他愛ない乙女の会話をしていると後ろから、

「女の会話って聞いてると夢が壊れるよな…」

と若干引いている遥人が来ていた。

「あら、盗み聞きとは良いご趣味で」

「その趣味でちょっと男の夢が崩れましたがね」

その時、エレベーターが到着した音が鳴り、無人のエレベーターが扉を開く。

「そいじゃあ乗るとしましょうか。ほい、玉ちゃん任した。エスコートは彼氏の役目でしょ。いつまでも任したままにしないの」

そう言ってやるとハッとした表情で玉ちゃんを抱き寄せる。

「ああ、悪かった」

「あったかい…」

幸せそうな顔で腕の中でうつらうつらとしている彼女を見て微笑ましさと嫉妬心が沸いていくるのを感じ二人から背を向けて下へと向かって点滅していくエレベーターの標示を眺める。

まったく何処まで行ってもやはり自分は女なのだなと、再確認させられた気分である。



さてまだ自分には時間がある。幸いな事に明日は休みである。二人を見送ったらはしごでもするとしよう。どうせまともに酔えていないのだし何より飲まずにはやってられない。


その後の居酒屋にて

あ「枝豆とビールお願いしまーす」

10分後「かーっ。あー、ビールうめー!たっかい料理もたまにゃ良いかなっーって見たら食った気しねーのなんの。しかも元カレの奢りだからって見栄張ってなるべく安いの選んじゃってああもう!もつ煮とレバニラお願いします!」

30分後「あ、ねぎま三本お願いします。あー、男は欲しくないけど人恋しい…。かといって実際に人には会いたくない。…お母さんに電話しようかな…。でももう夜遅いしなによりめんどくさくなりそうだから言いたくないー」

1時間後「帰ったらあいつらと顔合わせんだよなー。なんかやだなー。こんなん見られたくない…熱燗お願いします…」

三時間後、無言で酒を飲み続ける。

5時間後「よし、帰ろ…。コンビニでなんか買うか…」

会計4000円なり

翌日


気が付くと私は電車に揺られて遠く有馬 (温泉の名地)まで来ていました。


「とりあえず、温泉にでも…入ってくか…」

この後心配した緋牙から自宅の固定電話から着信が50回以上入っておりそれが原因で電源が切れて夕方に帰ってくるまで連絡が取れなかったりするのですがまあこの時にはまだ知るよしもありません。

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